36歳処女の無双会社員は戦争が始まった理由を知る

とりあえず、話を聞くにあたり、私達は魔王様の私室へと向かっていた。魔王様の負った傷はリディアさんの回復魔法によりほぼ完治したけれど、まだ治っていないのか、フラフラしているので、ミカさんが魔王様を支えながら歩いていた。なんだかそんな2人を見て申し訳なく思う私に、リディアさんはそっと耳打ちをした。


「大丈夫よ♡勇者様。あの2人はあぁやってイチャつきたいだけなんだから♡」


「えっ!?あぁ、やっぱりあの2人そういう関係なんだ……」


薄々は気づいてはいたけど……私達と話し合いたいというのもそこが関係していたりするのかな?

そんな事を考えながら歩いていたら、あっという間に魔王様の私室に到着し、魔王に代わってミカさんが扉を開ける。そして、魔王様は自分のお気に入りのソファらしき所に腰かけ、私達に向い側にあるソファに座るように促したので、私達はそのソファに座った。ちなみに、私は真ん中に、左隣はセリーナ様、右隣にはカトレアさんが座った。リディアさんは何故か座らずに、私の後方で、私を後ろから抱きしめるような姿勢をして、隣の2人から睨まれていた。そして、ミカさんがお茶を私達の前に差し出した所で、魔王様がようやく口を開いた。


「……人間族側では、この戦争が始まったきっかけはどのように伝わってるのでしょうか?」


魔王様はいきなり私達に問いかけるように聞いてくる。それに素早く答えてくれたのはセリーナ様だった。


「戦争が起こるきっかけはどの王国の歴史書を読み返しても、突然魔族の王の魔王が人間族を滅亡させようとしか伝わっておりません」


セリーナ様のその言葉を聞いて、魔王様は「やはりか……」と呟いて溜息をついた。


「ミカから話を聞いた通りでしたね。人間族からしたらその通りの話なので仕方ありませんが……」


「そう仰られるという事は、魔族では違うという事でしょうか?」


魔王様の言葉を受けて、セリーナ様は素早くそう返す。私はほぼ聞き役の楽な仕事です。


「はい。実は、魔族の歴史書では、かつてその時代の魔王ルシフェルの婚約者を、人間族の国王が攫って行き、それに激怒した魔王ルシフェルが人間族を逆恨みしたと伝わっております……」


苦笑を浮かべてそう説明する魔王様に、リディアさんを除いて私達は開いた口が塞がらなかった。長きわたった戦争の理由が、まさかそんな理由だったなんて……


「確かに……その時代の我が先祖とも言える国王様は、謎の失踪を遂げたと記載がありましたが……まさか魔王ルシフェルの婚約者を攫っていたなんて……」


セリーナ様は驚愕の表情を浮かべてそう言った。まさか自分の先祖がそんな事をしていたなんてそりゃあ驚きだよね……


「我々はそういう理由と分かっていながらも、一応は人間族が悪いという想いもあって、魔王ルシフェルに従うままに戦争を起こしました。魔王ルシフェルが亡くなった後は、人間族側に責任をとらせるという意味でも、なんとか被害を少なく、我々魔族が戦争に勝利する為に奮闘してきました。ところがです。数10年程前にある日記が見つかったのです」


「日記……ですか……?それは一体誰の……?」


ここで初めて私が口にした疑問に、魔王様は困ったような表情を浮かべたが、すぐに溜息を一つ吐き


「魔王ルシフェル様の婚約者の日記です」


魔王様の言葉に驚くも、その日記に何が書かれていたのか気になり、私達は自然と前のめりになり魔王様の話を聞く態勢になる。魔王様は再び困ったような表情をしたが、意を決してその重たい口を開いた。


「その日記には……元々、その魔王ルシフェル様の婚約者と、人間族の国王様は、恋仲で結婚する約束もしていたそうなのですが、魔王ルシフェル様は、その婚約者に惚れていた事もあり、魔王に就任した権力を使って無理矢理婚約者にしたそうです。そこから、魔王ルシフェル様が2人の仲を邪魔するように色々してきたので、2人は様々な協力者の力を得て遠い地へ駆け落ちしたと書かれていました……」


その更なる衝撃の事実に、私達は再び開いた口が塞がなくなりました……

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