36歳処女の普通の会社員は何故か決闘する事になる

その美しくも凛々しい女性騎士は私の前までツカツカと歩み寄ると、ビシッという効果音が聞こえてきそうな程私を指差して


「この者は嘘を言っている!!この者は勇者などではない!!」


と、私に堂々と宣言したのである。で、当の言われた私は……その通りですとしか思えなかった。だって、私が勇者とかそんな訳ないんだもの。が、そんな私を庇うようにセリーナ様が前に出てその女性騎士を睨んだ。


「カトレア。やめなさい。勇者様に失礼ですよ」


セリーナ様に言われ、カトレアと呼ばれた女性騎士は若干怖気づくものの、すぐに首を横に振り


「しかし!姫様!こ奴の言う事は絶対にデタラメです!36年間も純潔を守り抜いたなんて絶対にあり得ません!!」


いや、36年間処女だったのは事実なんだけど……確かに私の世界でも、そんな歳まで処女なのは珍しい扱いされてるけど、そんなに言われる程あり得ない事なんだろうか?そんな私の疑問に、国王様が私にひっそりと耳打ちして説明してくれた。


「勇者様。勇者様の世界がどういった世界だったかは存じ上げません。が、この世界では女性に女神アルテナ様の加護が与えられると分かっていても、早くに純潔を失う女性が多いのです」


どういう事?と私が首を横に傾げたので、更に国王様からの追加説明によると、この世界でもやはり女性が子供を産むというのが一般的である。おまけに、今は魔族との戦争をしていて、一応戦争による死者の報告は上がっていないものの、戦争による疲弊で亡くなる者も大勢いるという。そうなると、このままだと人間という種が本当に絶滅の危機を迎えてしまう為、女性はやはり子孫繁栄の為に子を作る事を望まれているのだ。

なので、貴族平民問わず、15、6にはすでに子作りの為のそういった行為をしていて、遅くても18までには済ませているのがこの世界の一般常識らしい。伝説の聖女様や私のような人は滅多にいないという。

いくらなんでも焦りすぎじゃないかと思ったけれど、それは私の世界が平和だからかもしれない。もう私の世界では、色々犯罪は起こっていても、この世界のような大規模な争いが起こっている訳じゃない。争いで沢山の人が死んでいくなら、種の繁栄の為にそういった活動をしなきゃという考えになってもおかしくないかもしれない。


「それに!たまたまこの世界にやって来た異界人は皆純潔を失った者ばかりだった!すでに10歳で失った者もいるというぞ!」


いや……それはどんな世界の人なの?私の世界でも早い人は中学生からとかという人もいたけれど、流石に10歳はいなかったと思うんだけど……


「何より……!何より……!!こんなような奴の為に!我が主であるセリーナ様の純潔が失われたかと思うと!非常に腹が立って仕方ないんだッ!!!」


カトレアさん拳を握りしめてそう宣言した。……はい?私の為にセリーナ様の純潔が……ってどういう事?そんな私の疑問にも、やはり国王様がちゃんと説明してくれました。


「カトレアは我が娘の護衛騎士長で、我が娘を崇拝しておりますから、やはり娘が召喚魔法によって純潔を失った事に納得がいかないのでしょう……」


「はい?召喚魔法で純潔を失う?ってどういう事ですか!?」


国王様曰く、異世界から勇者に相応しい人物を召喚する魔法は禁忌の魔法なのである。その人の意思を無視しての召喚というのもあって禁忌とされている。故に、その魔法を行使するには対価を支払う必要があるのだ。男性だったら片腕や片足などといった身体の一部分。女性だと、この世界の強さの証とも言える純潔を捧げる必要があるという。だから、セリーナ様は後に聞いたが、まだ15歳で男性との経験もないのに純潔を失ったというのだ。私を召喚 した為に……


「はい。ですから……勇者様♡責任とってくださいますね♡」


何故かセリーナ様が頰を朱色に染め、ニッコリと微笑んだ。私はその微笑みに背筋が凍りついた。一体……いくら支払えば許してもらえるのだろう……本当に勇者として魔王倒さなきゃ許してもらえないんじゃないだろうか……


「責任などとらせる必要ありません!!この者は私が成敗してやります!!」


カトレアさんはそう言うと私に持っていた手袋を投げつけた。私はそれを思わずキャッチすると、何故かカトレアさんがフッと微笑を浮かべた。


「ふっ、決闘成立か。決闘を受けた心意気だけは褒めてやろう!今から私とこ奴との決闘を開始する!!」


「はい!!?」


何故かカトレアさんと決闘という事になって私は更に困惑した。

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