36歳処女の普通の会社員は勇者として召喚されたようです

突然の美少女からの宣言に更に困惑する私。私が勇者?一体何の話を……私は親よりも先に死んだのだから、勇者なんて不似合いな親不孝者なのに……


そして、冷静になってよく考えると私の今の状態におかしな点がいくつもある。私は確かに電車に轢かれ、普通だったら死んでるはずなのに、足が床についているという感覚があるのだ。それに、手もちゃんと若干冷たい床に触れている感覚がある。極めつけは匂いだ。恐らく目の前の美少女からなのか、すごくいい香りがするのだ。

死後の世界を体験した訳ではないので分からないが、死んだ後でこんなにも五感を感じられるなんて思えない。それに、電車に轢かれそうになって奇跡的に無事だったとしても、普通いるのは病院のはずだ。こんないかにも西洋な時代の貴族服や騎士鎧をまとった人達がいるお城っぽい所にいるなんて有り得ない。


(……どんなに考えても……常識的じゃないけど……考えられる可能性は一つしかない……!?)


私は一つのある考えが頭をよぎり、あり得ないとは思いつつも、その考えが頭から離れなくて更に混乱していると、いかにも王様といった衣装と風格を漂わせた人物が私の前まで歩み寄り、私に話しかけた美少女の肩をポンと叩いた。


「セリーナ。後は一国の王として私が勇者様に全てを説明するよ」


セリーナと呼ばれた美少女は、貴族の淑女らしい一礼をし、一歩後ろに下がった。って!?今一国の王って言ったぁ!?それじゃあこの人って!!?


「初めまして。勇者様。私はここセレスティアル王国の国王、クライス・フォン・セレスティアルと申します。そして、恐らく今困惑してらっしゃる勇者様に、ハッキリと事実を述べますと……勇者様は我々……いや、我が娘セリーナの召喚魔法によって導かれ異世界からこの世界に召喚されたのです」


王様の説明を聞いた私は、あぁ……やっぱり……という気持ちが強くなった。なんとなくそんな気はしていたけれど……普通ならあり得ないと叫ぶ場面かもしれない。だが、電車に轢かれそうになった私が何故かこんな場所にいるあり得ない理由なんて一つしか考えられない……


(私……!?こんな歳で異世界転移をしちゃったのぉ〜ーーーーーーーーーーーー!!!!?)







私がほんの少しだけ落ち着いてきたのを察した国王様が、私を何故召喚したのかという経緯を説明してくれた。


この世界では、人間族・亜人族・魔族といった様々な種族が仲良く暮らしていた。ン万年前までは……

突然、魔族の王であるいわゆる魔王が人間達を滅ぼそうとし始めたのである。あれだけ仲良く交流していたのに、何故突然そのような事になったか分からず困惑する人間族の人々。しかし、当然滅ぼされる訳にはいかないので、亜人族とエルフの女王を通じて同盟を結んで魔族達と激しい戦争を繰り広げた。


だが、その争いは今現在でもまるで決着がつかず、死者等は出ていないものの、人間側も亜人族側も徐々に疲弊しているのは明らかだった。

そこで、人間族の国セレスティアルの目の前にいる国王様、禁忌とされている異世界から勇者の力を持つ者を召喚する決断をしたのである。そして、召喚魔法を使える程の魔力を保持していた、国王様の娘であるセリーナ・アルス・セレスティアル第一王女様が、召喚魔法を行使して召喚されたのが私だったという……


「あのぉ〜……事情はだいたい分かりましたが……私が勇者とか絶対あり得ないと思うんです。私の世界では剣とか魔法とか使うような世界ではないですし。産まれてから1度も誰かと戦うような経験もしてないですし……」


私は最もな意見を国王様に述べた。私は自分の世界ではただの36歳独身の普通の会社員だ。魔法なんて使えるはずないし、剣なんて小学生の頃に剣道の授業を何回かやった程度だ。喧嘩だって姉さんと数回言い合った程度で、そんな私が勇者の力を持ってるとかあり得ないと思うんだけど……

しかし、国王様は何故か考えるように顎をさすり……


「ふむ……勇者様は女性であられますからな……勇者様……失礼ですが男性経験はありますか?」


突然の国王様からのセクハラ発言に私は唖然とした……

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