36歳処女の勇者様

風間 シンヤ

36歳処女の普通の会社員は生きる事に疲れてしまいました……

あなたは死にたいと思った事はありますか?


私、山吹やまぶき 光里ひかりは今日いつもの通勤用の電車を待っている時に思いました……



私は36歳産まれてからずっと男性とお付き合いした事がない為、未だに処女という今時珍しい存在なのです。

まぁ、お付き合い出来ないのも無理もありません。私は若干茶色みがかった黒髪のセミロングヘアー。けど、特に特徴ある髪型はなく普通に伸ばしてるだけ。おまけに顔立ちも地味な上に、若干コミュニケーションが苦手で、特に男性とは何を話していいのか分からず口がモゴモゴしてしまうので、こんな私に話しかけようなんて男性は全くいません。本当に用がある時以外は声をかけられません。


そんな私ですから、後輩や同期の人達から色々言われています。


「あの人まだこの会社で働いてるなんて……もういい歳なんだから寿退社したらいいのに」


「おいおい。無理言ってやるなよ。あいつは36年間ずっと男性経験がないんだからな!」


「えっ!?嘘!?マジでぇ!!?じゃあ未だに処女って事!!?」


「らしいぞ。綺麗系や可愛い系ではないが、不細工って訳じゃないんだから、1人や2人ぐらいはあってもいいもんなのになぁ〜」


「そうなんだぁ〜!可愛そうねぇ〜!そういう経験を知らないなんてねぇ〜!」


などと、私が36年間未だに男性経験がないせいで処女なのをからかって笑う会話が聞こえてくる。どうせなら、そういう会話はもっと聞こえないように静かにやってほしい……


こんな風に言われても、私がこの会社で働いているのは、そもそも憧れて入った会社というのもあるけど、まだ40代という年齢で会社社長になった敏腕社長に


「光里君。君には期待しているんだ。今後も会社の為に頑張ってくれよ」


と、声をかけてもらった事があったからだ。この社長は美人の奥さんに子供もいるので、恋心を抱く事はなかったけれど、社長に期待されてるんだと思ったら、どれだけ遅くまで残ってクレーム処理をしても苦にはならなかった。この会社一筋で頑張っていこうとさえ思った。



しかし、そんな私の気持ちはある日社長に資料を届けに行った時に裏切られる。


「ねぇ、社長。社長はなんであの36歳のお局ばかりに重役を任せるのかしら?」


それは、最近社長の不倫相手ではないかと噂になっていた、美人秘書の山内やまうちさんの声だった。あの社長が不倫だなんてそんなはずないと、私はその噂を信じていなかったけれど、山内さんは社長にしな垂れかかり、社長はそんな山内さんを止める事なく嬉しそうな顔をしていた。


「ん?あぁ、山吹の事か。あいつは何故か取引先の企業の人達と何故か仲がいいからな。もしも、うちの社員がポカをやらかした時はすぐにでも切り捨てる為さ。責任をとるのが重役を任された者の務めだろ」


「まぁ、酷い考えねぇ〜」


「酷くないさ。あいつも会社を辞められれば、ようやく婚活に集中出来るだろ。まぁ、最ももう遅すぎるだろうが」


そんな風な会話をしてドッと笑い声を上げる社長と山内さん。私は、社長が不倫してる姿、社長が私に何の期待も抱いていなかった。その両方の事実が私に重くのしかかり、私はこの日初めて会社を早退した……



そして、そんな日があった翌日の朝……昨日の夜からずっと退職届を出すべきかどうかずっと悩んだが、私は結局退職届を書かずにいつもの時間に、いつも通りに電車を待っていた。

私の年齢は36歳。最近景気が好調だと聞いているが、まだまだ就職に難がある時代に、この年齢で会社を辞めた人間を雇ってくれる企業があるとは思えない。社長の言う婚活だって悔しいが言う通り手遅れである。つまり、どんなに嫌な想いがあって生活していく為にはあの会社で働かなくてはいけない。


(あぁ……いっそ死んだ方が楽かもしれない……)


そんな考えが私の頭がよぎったせいか、私の身体は自然と黄色い線を飛び出していき、しかも、まるで私を誘うかのようにいつも通勤に使っている電車が私に迫っていき……



そして……私の視界は真っ白になった……














あぁ……私……死んじゃったんだな……お母さん……お父さん……それに私をいつも気にかけてくれてるお姉ちゃんにその旦那さん……先に旅立つ私を許してね……


そして……私はゆっくり目を開けると……


「……えっ!?何!?ここ!!?」


そこは、まるで西洋のお城のような煌びやか感じのする一室だった。ふと、周りの見回してみると、本当に西洋風の鎧を着た騎士の人達やら、豪華な衣装を着た貴族のような人達が沢山いて、私は思わず目が点になってしまう。


(もしかしてあの世って西洋風なの?)


何がなんだか分からず困惑していると、私の目の前にそれはもう、誰もが見惚れ、一目は絶対振り向くような絶世の美少女が姿を現した。金髪のキラキラした長い髪をなびかせ、まるで王女様のようなドレスを着たその美少女は本当に王女様のようである。そして、その美少女は私に微笑みかけ


「ようこそ。お待ちしておりましたわ。勇者様」


と、ハッキリとそう言ったのである。私はますます困惑して、口をあんぐりと開ける情けない姿をその美少女に晒してしまった……


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