epilogue.日記
結局俺は、夏目さんに促されるまま日記帳を開いた。そこに登場するのは、ほとんど夏目さんと俺だけだった。
幸春は綺麗な字を書く奴だった。だけど普段の綺麗なあいつの字と打って変わって、日記帳に書かれた字は雑だった。殴り書いていたのだろう。
中身はおおよそ俺の予想通りで、日記でもあり、ラブレターのようでもあった。俺──
あいつは俺を愛してくれてた。でもその愛情ってやつは、俺があいつに向けてたもんとは違う。所詮ただの行き過ぎた家族愛だ。
夏目さんはだるそうに体を起こし、煙草に火をつけた。幸春の日記を読む俺の顔を覗いて、困ったように、呆れたように笑った。
あいつはお前が好きだった。……まあ、どうやらお前も気付いてたみたいだけど。
途中で、ページを捲る手を止めてしまった。これ以上読むのはしんどい。だってこの文章は、叫びのような言葉達は、俺が夏目さんに抱いているそれとそっくりだ。
あいつは俺と日本から出たかったんじゃない。お前から離れたかったんだ。お前が俺のことを好きだから。そんなお前を見てるのが辛かったから。
──なんでこんなに、何もかも上手くいかないんだろうな。そう零した夏目さんは窓の外を見ていた。申し訳ばかりに星が輝いていた。
彼の燻らす煙草の煙が、その顔を隠してしまう。俺は、それがなんだか、怖くて、酷く、空恐ろしくて。せめて、俺もその煙の中に入れて欲しくて。一口下さい、とせがむように言えば、生意気だ、と笑われてしまった。
そんな夜だった。彼の左手の薬指では、いつものように指輪が輝いていた。
泣きたいのはきっと彼の方なのに、泣きそうなのは俺の方だった。
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