五日目
目が覚めた。今日も俺はフーたんの中にいる。
「ゆっくりお休みになれましたか? ご主人様」
はぁ、目覚めたときのフーたんがものすごい癒やしだ。擬人化布団最高!
「うん、ありがとう」
それにしても……この世界のルールが段々分かってきたぞ。
俺が考えたこと、妄想したこと、口走ったことが次の日に現実になるんだ。
転生初日は何を妄想したっけ。多分、ここの神様はバカばっかとか思ったから、次の日に
意識が無くなる直前に『オオカミ王に俺はなる』って妄想したら、次の日に実際にオオカミになってしまった。ご丁寧に狼王ロボの物語になぞらえて手下どもまで現れやがった。
昨日はロボットアニメの第一話的なものをやらされた。しかも現れた謎の敵は、前日に探し求めた鏡ときたもんだ。狼のロボが機械のロボに変換されてしまったようだし、どうも俺の妄想が思わぬ解釈をされる可能性があるらしい。
どういう理屈かは分からない。少なくとも、俺が想像していた異世界とは全然違うようだ。
まぁ、いろいろ考えていても仕方ない。今はとりあえず楽しもう。
「ねぇ、フーたん」
「なんでございますか?」
「キスしていい?」
「はわわわ!?」
うお、フーたんに思いっきり突き飛ばされた!
「ご主人様、破廉恥なことはどうかお控えくださいぃ……」
……はっ。気がついてしまった。
俺は、二日目に「エッチなことはいけないと思います」と口走ってしまった。つまり、ここを
なんたる失態っ!
取り消し! 前言撤回! エッチなのはいいことだと思います!
……よし、これで明日には解禁されているはずだ。
「わ、悪かった。ごめんよ、フーたん」
「いえ、こちらこそご主人様になんということを……申し訳ありません」
うーむ、これはいろいろと慎重ににならざるを得ないな。これからはマンガやアニメで例える悪い癖を修正していかなければ。
さて、今日は何をしようかな。
「ポーカーで勝負しましょう」
バ神美か。お前はいつも唐突だな。しかもポーカーって。昨日ポーカーに関係する妄想をした覚えが全く無い。
「いやだ。めんどくさい」
「ルールを説明します。ポーカーとは、五枚のトランプで手役を作り、その手役の強さを競うゲームです」
またまたガン無視なのね。
「弱い手役から順に、ブタ、ワンペア、ツーペア、スリーカード、ストレート、フラッシュ、フルハウス、フォーカード、ストレートフラッシュとなっております」
「それくらいは一応知ってる」
「ご主人様は、ポーカーをやったことがおありなのですか?」
「いや、全然……」
くそっ、こんなことなら
いいこと思いついた。明日は麻雀やりたいな。咲は最高。あ、麻雀は麻雀でも脱衣麻雀。エロス全開で頼む。ぐふふ。
「今回はファイブ・カード・スタッド・ポーカーのルールで行います。一枚目は伏せた状態、二枚目からは表が見える状態で配ります。伏せたカードは自分だけ見ることが出来ます。そこから賭け金を賭けていきます。つまり、ベッドですね」
「ふむ」
「途中でカードを交換することはできません。五枚揃う前に勝負を降りることもできますが、その場合は降りなかった方の勝ちとなります。両者に五枚ずつ配り終わったときは、伏せられたカードをオープンして手役が高い方が勝ちとなります」
「なるほど。それで、何を賭ける?」
うーん、妄想すれば次の日には何でも手に入る俺には、あまり意味の無い行為だよなぁ。今手に入らないものって何だろう。
「そうですね……あなたが勝ったら、私がなぜ『アマル・ガムゼーレ騎士団委員会』を自分で倒せないのか、その理由を説明しましょう」
「いらん」
どうせ長々と厨二病設定を聞かされるだけだ。
そうか、今手に入らないものが一つあったぞ。
「それより、俺が勝ったらフーたんのキスが欲しいんだが」
「わ、私がご主人様にキスですかぁ!?」
フーたんの顔がめっちゃ赤い。その反応超キュートだわ。
「では、私が勝ったら、フー・トンを消滅させて私があなたを独り占めさせてもらいましょう」
「は?」
「リスクなしでキスをせしめようなんて、我が父アホンメテプが許しても私が許しません」
うわぁ、どうでもいい設定がまた披露されたよ。しかも予想を外したし。
しかし、フーたんがいなくなるのは辛い。なんとか保険をかけられないものか……。
「途中で勝負を降りてもいいのか?」
「そうですね……私が『アマル・ガムゼーレ騎士団委員会』を倒せない十一の理由を一つずつ聞いて貰えるのであれば」
「乗った。お前が降りるときは、その都度にフーたんのキス。それでどうだ?」
「交渉成立です」
「はわわわ、大変なことになりましたぁ……」
よし、成功だ。これでフーたんが消滅することは無いぞ、ふふふ……。よく考えたら、どうせ負けても妄想で復活させればいいのさ。
「なお、フー・トンが消滅したら二度と復活できないよう呪いをかけますので、そのつもりで」
「何ーっ!?」
くそ、俺の考えをお見通しだったか!? しょうがない、ここは何が何でも勝つしかないな。
「では、始めましょう。カードを配ります」
一枚目はスペードの三、二枚目はクローバーの三か。これでワンペア確定。幸先のいいスタートだ。
バ神美はどうだ? 一枚目は伏せられているから分からない。二枚目はスペードのジャック。今はまだなんとも言えないな。
「次のカードを配ります」
俺の三枚目はハートの九。バ神美の三枚目はスペードのクイーンか。ちっ、嫌な予感がしやがる。
「降りますか? 続けますか」
「続行だ」
「分かりました」
俺の四枚目はクラブの九。よし、これでツーペア!
バ神美の四枚目は……スペードのキングだと? このままだとストレートフラッシュじゃねーか。いやいや、そんな役滅多に出ないって。
「どうしますか?」
「もちろん続行だ」
「はい。では、最後のカードを配ります」
来い来い来い……よっしゃ! スペードの九が来た! フルハウスだ!
バ神美はどうだ?
……いやいやいやいやいや、何の冗談だよ。
スペードの十って。
スペードの九はすでに俺が持ってるけど、もし伏せられたカードがスペードのエースだったらロイヤルストレートフラッシュじゃねーか!!
ロイヤルストレートフラッシュって、出る確率どれくらいだ? 全然知らないけど、〇・〇一パーセント未満なのは確実だよな。文字通り、万に一つも無いはずだ。
「私は勝負します。キャンはどうしますか?」
勝負だと? もちろん、伏せられたカードがスペードのエースなら勝負に決まってる。負けることが無いのだから。
しかし、もしもそれ以外だったら? 俺の手札は三枚の九が見えている。つまり、俺がスリーカード以上で確定していることをバ神美は知っている。もしもバ神美の役がロイヤルストレートフラッシュでないとしたら、スリーカードに勝てる可能性のある役はフラッシュとストレートだ。しかし、フルハウスには負ける。
それでも勝負にきた。伏せられたカードがスペードのエースだからか? 俺の手がフルハウスじゃないと読んだからか? それとも……
どうする。どうする、俺……!
「よし、勝負だ!」
「ショーダウン」
「スペードの三、フルハウスだ!」
さぁ、バ神美。どうだ? どうなんだ?
「ナイスボートです。ハートの二です」
「お見事なフルハウスです、ご主人様!」
ブタ! ブラフだった! よっしゃああああ!! 勝ったあああああ!!!
「……っていうかバ神美、今なんて言った?」
「ボートです。フルハウスのことを、ボートとも言うのです」
「そんなの知るか!!」
なんでポーカーかと思ったら、ナイスボートって……そんなのありかよ。
「さぁ、フーたん。約束通りキスを頂戴」
「はい、ご主人様」
はぁー、うれしいなぁ。
……あれ、目をつぶってキスを待ってるんだけど?
「ご主人様、目を開けてくださいませ」
ん?
「はい、私が釣ってきた魚の
「はあああ!? 俺はフーたんにキスして欲しいんだけど!」
「キャンは、『フー・トンのキスが欲しい』と言いました。約束は果たされました」
な、なんだよそれ……。ヘマしたわ……。
くそ……なんかものすごく疲れた……。眠気が……ものすごい。
明日の麻雀でリベンジだ……。
……おやすみなさい…………。
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