四日目
「――おはようございます、ご主人様」
……フーたん? あれ、フーたんの顔が見えない。昨日と同じように思いっきり抱きつかれてるけど、今までと違ってなんか暗いな。
「朝ご飯にしますか? 朝シャンにしますか? それとも……」
「それよりフーたん。俺、人間?」
「はい、ご主人様。ご主人様は立派な人間でございます」
よかった。なんとかオオカミから人間に戻ったようだ。ふぅ、どうなることかと思ったぜ。もう変身はこりごりだ。
「ところでご主人様、ここは一体……きゃあ!?」
な、なんだ? 今の爆発音と振動は!? フーたんが俺から離れて下の方に転げ落ちたぞ!
「フーたん、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫でございますぅ……」
なんなんだ? あれ、急に目の前のメーター類がめっちゃ光り出した。ここは――
「オペレーティングシステム BAKAMI <Boosted Artificial Knowledge And Mind Interface>、起動しました。システム・オールグリーン」
「……
「初回起動のため、チュートリアルを実行します。本機の名称は、対『アマル・ガムゼーレ騎士団委員会』用戦闘ロボ、キャン専用ザコです」
「まずは、ザコの性能諸元を説明します。全長四十メートル、重量三万五千トン、二人で操縦するデュアルコントローラ型となっており、そのシンクロ率が性能に大きく左右します――」
バ神美はOSになっても説明するのか……。しかもどこかで聞いたことがある
「では、ザコを操縦するための教習プログラムを開始します。まずは正しい乗車姿勢を説明します――」
その滅茶苦茶弱そうな名前はもう少しどうにかならなかったのか。
って言うか、俺の知ってるロボットものと展開が違うな。こういうのって主人公は初めて機体に乗るのに何故か操縦できて、しかも敵を倒しちゃうってパターンだろ?
それに、いろいろ
「バ神美。外を見るにはどうすればいいんだ?」
「――安全のため、シートベルトは必ず閉めてください。Please fasten your seat belt for your safety.」
無視かよ。後、飛行機の安全インストラクション調なのやめてくれない?
「あの……ご主人様……?」
お、いつの間にかフーたんが下の操縦席に座ってるじゃないか。くそ、上下逆だったらフーたんのパンツ見放題だったのに! 残念!
「なに? フーたん」
「その……何か近づいてきます……」
「外の様子が見えるのか?」
「はい、窓があります」
ちょ、シンクロ率が性能に大きく左右するって……外の様子を観測する人と操縦する人が別々って意味かよ! なんという欠陥ロボ。シャフトかよ。
「できるだけ詳しく外の様子を教えて!」
「はい、ご主人様。人の形をしてるんですけど……全身が光を反射しててよく分かりませぇん」
「大きさとか距離とかもっと具体的に」
「分からないんです……外、真っ白だしぃ……全然距離感が掴めません……ぐすん」
めっちゃ泣きそうになってるフーたん萌え。
「では、次に避難経路です。緊急脱出をするには――」
バ神美はちょっと黙ってろ。
「こっちに近づいてきます……!」
確かにすごいバリバリって衝撃音と振動が聞こえてくる。足音か? かなり近い!
「どうやって動かすのか、早く教えろ! バ神美!」
「それでは、操縦法について説明します。操縦はコマンド性となっており、手元にあるAボタンとBボタンを使って行います。右手を挙げるのはAボタンを一回、左手を挙げるのはBボタンを一回、左脚を前に一歩出すのはAボタンを二回連打――」
誰だよこのインターフェース考えた奴。BAKAMIは『
「ご主人様、もう相手は目の前です!」
くっ、どうすればいいんだ。俺たちは襲われてしまうのか? 目的が分からない相手ほど怖いものはない。まるで
「バ神美、
「存在します。OSには百八の究極奥義が記録されており、その威力は――」
あーもう! 説明なんて聞いてられない! 適当に打ち込んでやる!
ABBB!!
「コマンド、承認されました。ハリケーンストリームライトニングサンダーボルトキック、発動します」
よっしゃ!
「きゃあああああああ!!!」
うわ! すごい加速度!! 棚から大量の食器を落としてしまったときのような凄まじい破壊音だ!!
「フーたん、しっかり何かに掴まるんだ!」
「は、はい!」
……音はだいぶ静かになったな。
なんかふわふわした感覚が気持ち悪い。まるでジェットコースターで真っ逆さまに落っこちる感覚だ。
「シーケンス、終了しました。敵性体の排除を確認」
やれやれ、やっと終わったか……。
「バ神美、外に出たいんだけど」
「コックピットを開放するコマンドは、ABBAです」
うわ、あっぶね。なんでキックのコマンドとコックピットを開けるコマンドがこんなに近いんだよ……。
やれやれ、なんとか外に出られたな。それにしてもさっきの相手は一体なんだったんだろう。
なんか細かい破片が大量に散らばってるな。
「あれ……私の顔が映ってる。もしかして……鏡?」
「は? 鏡?」
「はい、ご主人様。どうやらこれは鏡だったようです」
……そう言えば昨日、自分の姿を確かめたくて鏡を探した気がする。
「フーたん……今日は疲れたから、もう寝たい……」
「かしこまりました、ご主人様」
なんとなくこの異世界のルールが分かってきたぞ。でも、考えるのは……明日にしよう。
はぁ、今日は本当に疲れた……。フーたんの……布団は……暖かいなぁ。
おやすみなさい…………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます