《王》に仕える新たな生命

ソレは、形だけを見るならば、人型に近い。

しかし、それを人型と、生物と呼ぶには、余りにも、奇妙で、独特で、異様で、奇異で、面妖で、冒涜的だった。


まず最初に目に付くのが、異常にアンバランスな頭部。

紅に輝く目玉がその面積の3分の2を占め、鼻や口が兎のように見た目上は一体化しているように見える。いや、もしかしたら本当に一体化しているのかもしれない。何故なら、鼻の穴と唇の境目が判別不可能だからだ。耳は耳穴じけつ以外存在しない。髪は地面に引き摺ってしまうほど長く、禍々しさすら感じる純白。


視線を下に向ければ、次に目に入ってくるのは胴体と腕。

腹にも腕にも、まるで乱雑に縫いつけられたかのように何かの体毛が所々に密集して生えている。その毛色は赤があると思えば緑があり、かと思えば黒、白、茶と、まるで統一性が伺えない。体毛がない部分が辛うじて人肌と呼べるような色合いをしているが、それさえも周囲の体毛の影響で却って薄気味悪い。

また、腕は左右同一ではなく、どうすれば平衡感覚を失わずに動けるのかと疑問に思える程アンバランスだ。右腕はまるで産まれたばかりの赤子の様であり、左腕は巨人の子供の腕と言われても納得が行くほどの大きさだ。


更に下へ視線を向けると、二つの足が見られる。

右脚が蜘蛛のような蟲の脚で、左脚が薄い輪郭以外透明で見えないことに目を瞑れば、誰もが羨むであろう長脚。


生物としては欠陥品と称してもおかしくない部位の比率。


まるで、物心が付いたばかりの無垢な幼児が、河原で草などのゴミが混時ってしまった粘土で人形を作ったかのような、醜悪な姿。


悪霊に取り憑かれた画家が、狂いに狂った果てに悪魔と同じ彩飾で仕上げたような体色。


そのような事を、その姿形を見たカーター一同は思う。


まるで、伝承の、本物の悪魔ではないか……とも。


そう推論したのは、神官たちとカーター、そして数人の村人達だ。


その推論は、実はそこまで間違っていない。


今、カーター一同と向き合っているモノは、ソウが生み出した、ユニークモンスター。


ダンジョンモンスターとユニークモンスター。

どちらも、ダンジョンマスターから生み出された存在である。

そして、ダンジョンマスターが生み出せるモノは、そのダンジョンマスターと同種族に限られ、そこに血縁関係が有ろうが無かろうが、ダンジョンマスターを『親』とした『家族』という体制がとられる。


ソウは、『悪魔の子』と呼ばる忌み子であり、その『悪魔の子』がダンジョンマスターへと至るための種族改変の結果、世界に生み出されたのが【魔眼族】である。

つまり、見方を変えれば、【魔眼族】は新たな【魔眼特化性悪魔種】と呼べるべきものであり、その【魔眼族】であるソレが悪魔であると、立証できる。


まあ、所詮は神話から予想されたつくられた【悪魔】であるのだが……。


とにかく、その容姿から伝承の悪魔であると早々に思い込んだ彼らは、即座に臨戦態勢を取り、各々の得意とするを組み立てる。


それに対して、勝手に悪魔だと思い込まれたソレ……魔眼族|唯一融魔《ユニークキマイラ》は、その大きな目玉をギョロリと侵入者に向け焦点を合わせると、その目に備わる、《王》より授かりし力の一つ・・を開眼する。


「……Vyuu『癒着の魔眼』……」


「……」


「…………?」


「………………!?」


キマイラの、口笛を吹いたような呟きによる能力発動。

その効果は、静かに、されど確実に彼らを襲った。

しかし、とあることが可能な数名を除き、彼らはその事に気が付かない。

しかし、とあること……魔力の第六感感知が可能な者達は、キマイラの両目から放たれた魔力が正確に自分たちの体に、もっと言えば、唇に当たったのを知覚する。

その事を伝えようと口を開きかけて、気づく。

口が、まるで何かに接着されているかのように、開かないことに。

顎は問題なく動く。しかし、唇が全く開かない。

それは詰まり、声を出すことが困難ということ。


驚きで目を見開く少数の者達の姿を確認したキマイラは、これで自分の仕事は終わりだとばかりに、ダンジョンの奥へと来た道を戻っていく。


その様子を困惑しながら見送る者達は、キマイラの姿が見えなくなり、安堵と困惑の溜息をはこうとして、唇が全く開かないことに気づく。


と同時に、先ほどのキマイラが何をしたのかを、大まかに理解した。


「〜〜〜!」


「〜〜〜〜?!」


「〜〜〜〜……」


「〜〜〜〜ッ!」


幸いにして、開かないのは唇がだけであり、喉を震わせ舌を動かす事で、どうにか声を出すことは出来る。

しかし、唇が開かないので、声はとても不鮮明不明瞭であり、とても聞き取りづらいことこの上ない。


ン”ッ!クッ!ンンン”ンンンン”ンンン!これが狙いでしたか!


相棒であるロスの魔法発動を繰り返し至近距離で感じることにより、魔力を知覚する事が後天的に可能となったカーターは、当然、キマイラが何かをしたことには気づいていた。しかし、気づいていながら、魔力が接近する速度に追いつけなかった。

魔力を感知したと思ったら、すぐに自分の唇に当たっていた。

それがカーター他数名の、理解出来た者達の感想である。


また、唇が動かなくなるのは、想像以上に厄介だ。

唇が動かなくなれば、声が出せなくなるだけでなく、口呼吸が不可能になり、食物を口に入れることが不可能となる。

前者はまだいいだろう。問題は後者だ。食物を摂取できなくなるということは、詰まり栄養補給や水分補給が全くできなくなるという事だ。


通常時ならば、回復魔法が使える人物を呼び、自分で自分の唇を切り離し・・・・、回復魔法を使用することで治癒できる。

しかし、こうして限られた空間内で、全員の唇が開かなければ、魔法詠唱をする暇もない。

唯一期待できるのが、神官たちの神聖力循環による無詠唱の自身の身だけに作用する治癒術であり、もしそれで治すことが出来れば、後は神官達に回復してもらうだけである。


それを神官達が実践していないわけがない。

神官達は唇が開かないのを確認すると、真っ先に神聖力を循環させていたのだ。

しかし、それでくっついた唇が開くことは無かった。


それはそうだろう。何せ、キマイラの魔眼、『癒着の魔眼』は、分子レベル・・・・・で対象の一部を癒着させ、その状態が、癒着している間は正常であると性質を書き換える・・・・・能力だからだ。


詰まり、元の状態に戻そうとしても、既にその状態が正常であると書き換えられているため、治癒できないのである。


神官達から治癒不可能なことを聞き取りづらいが伝えられたカーターは、仕方ない、と、とあることを決めた。


(仕方ありませんね……できればやりたくない手段なのですが……そう言ってられる状況ではありませんね)


そこまで思考すると、カーターは、格納庫から1本の何の変哲もない短剣を取り出した。


(はぁ……名匠に打ってもらった1本しか残っていないとは……私もつくづく運がありませんね……仕方ありません、やりましょう)


そこで一度カーターは、大きく鼻で深呼吸をした。

その様子に、周りからは疑問の目線が寄せられるが、それを意識的に無視すると、本日何度目かの覚悟を決めてユニークスキルを発動する。


(『剣能憑依』、憑け、『痛失剣』、『不殺殺さずの剣』)


『痛失剣』

この剣の能力は非常にシンプルである。文字通り、痛みを感じなくするのだ。

この剣は本来、少しでも獲物の味を良くしたいという貴族の我儘により作られた剣で、貴族らしく、とても豪華な装飾ばかりがされた長剣だ。


そして、カーターの行った行為は、『剣能憑依』による、二重能力憑依。しかも、どちらも本来の形状は長剣なのに対して、憑依先は短剣。

当然、魔力の消費量は単純に相乗した以上の値となり、カーターには自身が想像した以上の倦怠感が遅いかかっていた。


カーターはそれを必死に耐えながら、唇を左手で引っ張る。


もう伸びないといったところで、右手に持つ短剣を逆手に構え……。


自身の唇を一思いに切断した。


出血は思ったほど無かった。

不殺殺さずの剣』の効果である。

切断したあとすぐにカーターの唇は元通りに治り、同時に『癒着の魔眼』の効果も消え失せていた。



「ふぅぅぅぅぅ……。何とか、なりました、か」


呟き、すぐに魔力回復薬を呷る。次いで、周囲を見渡し、気づいた。


周囲の者達、特に、村人達から、理解し難いものを見るような目で見られていることに。


それは、当然といえば当然だった。

彼らの住む村は、どちらかと言えば排他的と表現した方がいい。本当に、二択だったらこちら、という程度なので寧ろ村としては珍しい方ではある。

しかし、同時に、村人達という狭いコロニー内の人物としか接する機会がない者達にとって、カーターが取った行動は理解不能なものであった。


なぜ、唇が閉じたくらいでそれを切り落とすのか。

なぜ、もっといい方法を模索しないのか。

なぜ、時間とともに治ると考えないのか。


基本的に保守的でもある彼らは、そのような思想が合わさって余計に理解し難いものを見る目でカーターを見てしまう。


余談であるが、その思想の根源は間違いなくおよそ15年間蔑み虐げてきた存在ソウがいた事で無意識に築かれていった価値観である。


『悪魔の子』だから自分たちとは違う。


『悪魔の子』を隠せば、自分たちの身が危険だ。


そんな思想が無意識に排他的な感情と保守的な感情を育てていた。

記憶操作によるソウの存在抹消でも流石に副次的に培われた価値観までは消せず、今この状態に繋がっている。


当然、そのような視線を向けられたカーターは突然の否定的な感情に困惑しつつ、視線に込められた感情に気づき少し悲しげな顔をした。

しかし、一瞬もしないうちに普段の冷静沈着な顔つきに意識して戻し、彼らに理解してもらえるよう、丁寧に説明する。


「現状、私がした方法以外に口を開けることができる方法は確認されていません。そして今、私が実践したように、傷はすぐ治ります。また、痛みも消してありますので感じません。ですので、これから私があなた方の唇を切り取ります。でなければ、魔法詠唱すら出来ませんので」


そう言いつつ、『剣能憑依』を起動するカーター。

まずは貴方だ、と言わんばかりに一人の村人へ近づき、唇を切り落とす。

回復するのを見届けず、次の村人へと歩を進める。


これを全員分繰り返し、どうにかこうにかカーター達の唇は開放された。


しかし、同時にカーターへの村人達の感情は良くない方へと傾き始めていた。












「……ふふっ」


『……マスター、どうかなさいましたか?』


いや、悪いね。でも、あれはッ……


「……はは、ハハハッ……凄いや、あいつら、癒着をあんなふうに解くなんて」


しかも、あいつがユニークスキルをバンバン使ってくれるおかげで、『LIP』の収入が凄いことになってるね。

っていうか、もうあの子を作った分が回収できたし、それ以上に収入も出てる。


「ほんと、嫌がらせして良かったよ。こうして戦力も増えたことだし」



**********************


name:no name


age:0


race:魔眼族|唯一融魔《ユニークキマイラ》Lv.1


job:ダンジョンモンスターLv.1


state:通常


Magic aptitude:闇、生命



HP 120/120


MP 190/190



str 29


agi 21


dex 8


def 19


magi 17



unique skill


癒着の魔眼


同化の魔眼


結合の魔眼


normal skill


操髪Lv.3



title


ダンジョンモンスター


魔眼王の眷属


魔眼王の創作物


唯一種


融合生物



*****************************


キマイラという様々な生物が一つになった存在だからか、魔法属性に特殊属性である《生命属性》がある。もう一つの闇属性と合わせて上手く使えば、結構魔法だけでも戦闘でいい線行くんじゃないかな?


与えたユニークスキルは三つ。

どれもキマイラという生物の性質に合うようにしてみた。


**********************

『癒着の魔眼』


見た対象の一部を分子レベルで癒着させる。一つの対象に一度限りで使用可能。


**********************


**********************

『同化の魔眼』


視界に映る意志無きものと自身を融合同化させる。


**********************


**********************

『結合の魔眼』


目に映る事象と事象を結合させる。


**********************


まあ、ちょっとやりすぎた自覚はあるけど、辞める気は無い。

当然だよね、命がかかっているんだから。






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