嫌がらせ準備
で、そんなこんなでステータス確認も終えたし、たった今休憩中の侵入者たちに嫌がらせして休憩できなくしてやろっと。
「そういう訳で、なにか良さそうな案はあるかなヒカリ?」
『……私、ですか……?』
うん、最近、って言ってもついさっきぐらいからなんだけど、こういう頭脳派の作戦立案ってヒカリに任せた方がいいよね?って気づいたんだよね。
そもそも、僕とヒカリの頭の回転速度は比べるのも馬鹿らしいほどにかけ離れてるし。っていうか、スキルに『迷宮核同調』、『演算領域同調』があるくらいなんだから、ついさっき気づいたのでもむしろ遅いほうなんだよね。
って言うことを、ヒカリに説明する。
『なるほど……分かりました。では作戦立案の為、少々マスターの視界をお借りしますが、宜しいでしょうか?』
「どうぞ〜」
『ありがとうございます、では……』
□
「……では、一旦ここで休憩しましょう。但し、最低限の警戒は続けてください。なにせここはダンジョン、敵のお膝元です」
ダンジョン攻略に乗り出したカーター一同は、警戒しながら慎重に、ステータスの恩恵を生かしながら最速で進んできた。
しかし、いくらステータスの恩恵を受けていようと、ここはダンジョン。しかも今現在世界中で知られているダンジョンの形状の中でも極めて厄介な部類に入る迷路型のダンジョンだ。
当然、迷路型なので迷いやすい。
運良く地図作成の心得があったカーターが応急的に地図を作成することでなんとか迷わないようにしていたのだが、その分、いざ戦闘になるとカーターが戦闘に参加するまでに少しばかりのタイムロスがある。
ある程度の力を持った普通のモンスターなら、神官は若干苦戦するものの倒すことが出来るし、村人はそもそも日常的にとは行かなくとも、このダンジョンで出現するモンスターよりも強いモンスターとの戦闘経験がある。
更に、このダンジョンで出現するモンスターはステータス値がとても低いとあって、『能力値鑑定』を持つ村人は、このダンジョンモンスターの危険性がそこまで高くないことを一同に伝えている。
しかし、いかに能力値が低かろうが、モンスターが持つ特殊能力やスキルまで『能力値鑑定』で図ることは出来ない。その事をここにいる全員が知っていたし、警戒はしていた。
ただ、そこに油断が無かったといえば嘘になる。
カーター一同は当初、蟻型のダンジョンモンスターが入口付近に出現したことで、ここは蟻のダンジョンモンスターか昆虫のダンジョンモンスターが出てくるダンジョンだろうなのだろうと予想していた。唯一の懸念は、神官に致命傷を負わせた能力。これこそがただ一つの不確定要素であり、これだけには細心の注意を払わなければいけないと考えた。
そんな先入観を持ってしまったために、迷路を進んでいく中で飛翔する目玉に出会った時はひどく困惑した。
惜しむらくは、この者達の中に『種族鑑定』スキル持ちがいなかった事だろう。
もしこの中に『種族鑑定』スキル持ちがいれば、小蟻が出てきた段階でこのダンジョンで出現するモンスター達が普通の種族ではなく、【魔眼族】という、全くの新種であることに気づけただろうから。
そして、もしカーターがそれを知っていれば、その種族名のとおり、『魔眼』を使う種族だと気づけただろう。
しかし、今更そんなことを嘆いても後悔先に立たず。
一瞬の虚を突いた《浮かぶ
《
但し、魔眼の効果に掛かっていない者も、少数ながら存在する。
運良く地図を仕舞うため目玉から視線を外していたカーターは、皆が倒れる仕草を見せると、直ぐに目玉に向かって駆け出そうとして、直後、魔眼の効果にかかってしまった。
しかしここで倒れなかったのは、流石はある程度の修羅場をくぐり抜けてきた強者であると言えるだろう。
しかし、目玉がうまく事を運べたのもここまでだった。
突然、失われていた平衡感覚が蘇ってきたのだ。
純粋に魔力切れである。それは仕方のないことだ。目玉は魔眼族であるが、その頭文字には《劣等》が着く。
つまり、通常の魔眼族よりもあらゆる面で劣っているのだ。
ステータスが
それ位、《劣等》の二文字の意味は大きい。
しかし、ある意味その目玉は運が良かった。カーター達が見知らぬ魔物だからと、攻撃をせずにまずは後退したのだ。これは攻略を始める前にカーターが言い聞かせていたことで、正体不明の魔物と戦うことになったら、後退して安全圏で戦うよう指示を出していたのだ。
その間、その目玉は失った魔力を回復させる為、侵入者の手が届かない天井付近を浮遊する。
そして、少しの間戦闘に膠着が訪れた。
カーター達は下手に動こうとせず、機会を待ち、目玉は魔力を回復させるため、天井付近で待機する。
魔力保有料が少ない為回復が早い目玉は、魔力が回復し次第、また『平衡消失の劣等魔眼』を使い、カーター達の平衡感覚を失わせていく。
対してカーター達は、『平衡消失の劣等魔眼』て平衡感覚を崩される原因を探っていく。
それが4度繰り返されると、カーターはおもむろに抜刀し、目を閉じて《俯瞰の魔眼鏡》で見る視界を確保。
こうすることで、カーターは平衡感覚を失わされること無く、敵を見据えることが可能だと気づいた。
その事がわかれば、あとは十分だった。
カーターはリスクを覚悟で、ユニークスキル『剣能憑依』を使用。
憑かせる剣の銘は『長斬剣』。割とポピュラーな剣であり、それこそ鍛冶屋や武器屋に行けば必ずと言っていいほど1本は置いてある。
そして込められた能力は、『射程延長』。
剣のリーチを、付与された射程延長効果の強さによって、自由に変えることが出来る能力である。様々な剣に付与されている能力な為、カーターの扱う剣と同じ形状の物もある。そして当然のように、カーターはその剣に触れていた。
また、カーターの触れた件に込められた射程延長効果は、とある高名な人物が一から打った剣ということもあり、凡そ8メートル先まで届かせることが出来る性能になっていた。
つまり、この程度の距離にいる目玉を切り裂くことなど、容易いのである。
カーターの振るった剣は目玉を切り裂き、その身を魔石と、ドロップアイテムである魔眼へと変えた。
また、今回はカーターの剣と類似した点が多くある剣の能力憑依だった為、そこまでカーターの魔力を消費することは無かった。まあ、そこまでと言っても、能力の強力さゆえに1割は消費されるのだが……。
さて、そんなこんなで一体目の目玉を倒したカーター達だったが、ドロップアイテムを回収する際、先程切ったはずの目玉が落ちていることに疑問を抱いていた。
しかし、ここは安全圏ではないので、階段が見つかるまでその目玉の効果確認はお預けとなった。
その後も、数分から数十分単位で目玉たちがカーター一同に襲いかかったり、道に迷わせたりとしたが、最初は戸惑ったものの、すぐに対処法がカーターとほかの解明した者から教授され、最後の襲撃ではわずか3分で討伐することが出来るようになっていた。
そして今、カーター達はようやく次回層へ繋がる階段を発見し、その周囲で警戒と休憩をしていた。
「しっかし、最後の方はそんなに目玉がでてこなくなったなぁ……」
「それは仕方が無いことかと。このダンジョンはまだ産まれたばかりですし、そこまでエネルギーを蓄える余裕が無いのでは?それに、どちらかと言えば迷路や階層を増やすことにリソースを割いているのではないかと。このダンジョンは異常に曲がり角が多いのですが、少しばかり一階層目としては広すぎるので」
「ふーん、そんなもんなのか。……で、あの目玉……一体なんなんだ?俺達は見たことないし、聞いたこともないモンスターだった。しかも、あいつら見てると凄く酔うしよ」
そう言う村人の男の言葉に反応するかのように、周囲の村人と神官たちは揃って首を縦に振る。
「……これは私の勝手な予想なのですが……以前、本で同じような姿形のモンスターの絵を見たことがあります。ですが、その魔物……確か、《
だが、カーターの答えは期待していたものではなく、寧ろより混乱を促すような発言だった。
「まあ、お前さんだって知らない事ぐらいあるわな。こればっかしは仕方ねえ。……で、俺が気になるのは目玉を殺した時に落としたでかい目玉だな。残ったってことは、あの目玉にとっても意味あるものなんだろ?」
「ええ、それはおそらく間違いないかと。ダンジョンモンスターが落とす、通称ドロップアイテムは、そのモンスターが特に魔力を込めていた部位ですからね。これが果たしてあの目玉の体だったから落ちたのか、それとも別に理由があるのか……」
こんなことなら、いつも雇っている《物品鑑定》スキル持ちの鑑定屋を連れてくればよかったと、僅かな後悔を滲ませるカーターに、一人の女性神官が声を掛ける。
「あの。私、《物品鑑定》スキル、持っていますよ?司祭以上になると、どうしても聖遺物を扱わなくてはいけない場面があるので、その為に《物品鑑定》スキルはある程度高レベルじゃないとダメなんです」
声をかけた女性……それは、このダンジョン攻略隊の中でも唯一の女性、マリアだった。
「それは、有難い。早速ですが、この目玉を鑑定してもらってよろしいでしょうか?」
カーターは言いながら、瓶詰めにした目玉を腰のポーチ……格納庫と呼ばれる、物が多く入る上、重さを感じなくさせる空間、重力魔法を込めて作られた魔道具から取り出した。
それを見たマリアはひとつ頷くと、《物品鑑定》スキルを発動させる。
するとマリアは目を見開きながら、鑑定結果をこう伝えた。
「これは……力は非常に弱いですが、れっきとした魔眼です!」
その言葉に特に驚いたのは、予想するまでもなく、神官だ。
通常、魔眼は悪魔の子と呼ばれる忌み子が所持している。その力は強大であり、たった一対の魔眼で国が滅ぼされることすらあると伝わっている。何より、クリア教では神敵として伝わる悪魔が所持する能力なので、ここまで過剰に反応したのだ。
また、悪魔の子と呼ばれる者以外でも、極小数の者もまた魔眼を所持していることがあるのだが、その者達は教会からはあまりいい目をされない。
何故ならば、やはり、教会にとって魔眼とは、神敵の使う忌むべき力だからだ。
そんな力が込められた魔眼が、ダンジョンモンスターの、それも見るからに低位のモンスターからドロップする。
「悪魔の……ダンジョン……?!」
こんな呟きが神官から漏れるのも、ある意味では仕方が無いことなのだろう。
このまま放置すれば、数秒もしないうちに混乱が広がって、収拾がつかなくなる。
そう判断したカーターが慌てて声をかけようとするのと、『気配知覚』で一体のモンスターの反応が近づいてくるの気づいたのは、ほぼ同時だった。
「……!総員!戦闘準備ぃ!」
気づけば、カーターはそう叫び、愛剣を抜刀していた。
村人達が軽い頭痛を自覚し、それを単なる疲れからくるものだと割り切ったのには、当人達以外、誰も知らない。
□
「それじゃあ、嫌がらせ、始めようか」
『LIP』も順調に溜まったことだし、ここは一つ、ちょっと無駄遣いしようかな?
『
ヒカリが提案したモンスターを想像、いや、創造する。
今回はスキル頼りの創造じゃない。そもそも、あの蟻達も目玉達も、僕が想像して創造したわけじゃなく、『LIP』を使って
で、今回は完全に僕の手動でダンジョンモンスターを一から創造する。これで生み出すモンスターは、同じ姿形で2体以上創造しようとしても、絶対にできない。その個体が唯一無二の、所謂ユニークモンスターとして誕生するから。
その代わり、他のダンジョンモンスターと違って、僕が一から創造する分、能力値もスキルも僕の自由にできるし、何より、テイムとかで盗られる可能性がない。
ま、その分消費『LIP』が重くなるし、能力値とかスキルとか付けようとすると、余計に『LIP』を使うんだけどね。
ヒカリの提案したモンスターを骨組みに、《王》として、その個体に最適な魔眼を与える。しかも、僕が手ずから創造するから、その個体は間違いなく《劣等》種ではない、ちゃんとした魔眼族だ。
さて、具体的なイメージとかはちゃんと頭にあるから、創っていこうか。
ま、今回に限っては、『LIP』の使いすぎだって自覚はあるし、一旦ゼロになるけどね。
『迷宮魔物創造』
消費『LIP』、
ユニークモンスター創造。
形状はこんなで、魔眼はこの形に相応しいよう、こんなの。ステータスは高めにしておいて、スキルは適当にある程度。
……うん、これでいいかな?
「すぅ……はぁ……さあ、我が呼び声に答えよ──────」
その日、一体の、《王》に仕える眷属が、誕生した。
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