ダンジョンマスターは成長率極振りである。但し、レベルアップ時は能力値上昇をなしとする。また、種族レベルアップ時の能力値上昇も半分とする。
「……ハァァァァァ……」
……疲れた。
やっぱり、同族同士での殺し合いって、見たくない。
それが、つい数週間前までの僕がしようとしていたことだとしても、だ。
でも……
「……今は、それどころじゃないね」
呟き、いつの間にか立っていたので椅子に座り直す。
次いで、切っていた『全視の迷宮眼』と『迷宮掌握』を再起動させる。
と、やっぱり50体の目玉たちを急に呼び出した影響が出ていた。侵入者共の位置が、曲がり角をあと8回曲がれば次の階層に繋がる階段に当たる位置まで来てる。
但し、度重なる目玉たちとの戦闘で結構疲労したのか、動きに精彩さがない。
これは……
「ヒカリ、僕の予想だけど、多分こいつら、階段見つけたらそのままそこで休憩するよね?」
こういう分析なら、やっぱりヒカリに任せた方が早い。
何せ、ヒカリの思考能力はやばいからね。
前、暇な時に僕の全魔力を費やした純粋な炎魔法の爆発を壁に向かって打ったんだけど、その威力から地上だとどれ位の被害が出るか、すぐに出してくれたことがある。
ヒカリの『解析の魔眼』の効果もあるだろうけど、『解析の魔眼』って、実は自分で情報処理しないといけないから、そう易々と使えるものじゃないんだけよね。
だから、ここはヒカリに聞いた方が確実。
なんだけど……
『……』
「……おーい、ヒカリー?」
なぜだか、ヒカリが反応してくれない。
いや、さっき獲得してすぐに統合されちゃった『眷属繫示の魔眼』の効果で、ヒカリに繋がってる繋がりから不機嫌な感情を見ることは出来るんだけど……
「……えーと……」
『…………』
むぅ。……はぁ……仕方ないね。
「ヒカリ」
本当はヒカリにはしたくなかった手段なんだけど。
言葉に《王》としての重みを持たせる。
「ヒカリ、君が何で不機嫌なのか、僕にはわからない。だけどさ、ヒカリ」
ヒカリの淡い輝きが、少し点滅する。
「今の状況、理解してるよね。今は、侵入者がいる。それも、僕の命が脅かされる程に強いヤツらが」
単純な事実を突きつける。
「文句なら、侵入者全部を殺してから聞こう。ただ、今はダメだ。それを言うなら、僕だってさっき数分とは言え監視を全部切ったけどさ、それは僕がダンジョンマスターとして生きていくためには必要な儀式だった。ヒカリ、君のその文句は、今、どうしても言わなければいけないことなのかい?」
僕の、《王》としての重みを持たせた言葉は、それだけで眷属の魂に直接届く。
絶対に、それこそ天地がひっくり返っても裏切らない、裏切れないダンジョンコアだからこそ、僕は、ヒカリに無条件の信頼を寄せている。
だけど、ことここに至ってはその信頼が逆に裏目に出たかのように感じた。
要するに、僕はヒカリを甘やかせすぎたのではないか?そんな疑問が生まれるのも、仕方の無いことなのかもしれない。
『……いえ、申し訳ございません、マスター』
「……」
『私は、先ほどの、いえ、なんでもありません。確かに、マスターの仰っていることは正しく、私のこの不満は、今は必要の無いものでした』
「うん」
『マスター、先ほどの失態、申し訳ございませんでした』
「……うん。許すよ。以後、出来るだけこのような事がないように、ね」
『はい、マスター。ですので、侵入者を処理し終えたら、きっちりと私の不満をぶつけさせて頂きます』
うんうん……
「うん?」
『それではマスター、先ほどの質問ですが、ほぼ間違いなく、休息を入れるかと。マスターの考え通り、大分疲労が蓄積しているようです。ですので、およそ30分から1時間の間、あの侵入者は階段付近で休息をとるでしょう』
「あ、ああ、ありがとね、ヒカリ」
『いえいえ、マスターのコアとして、当然のことです!』
……気のせいかな?ヒカリのやる気がやばいんだけど……。
□
さ、さて。ヒカリの機嫌も(少し行き過ぎではあるものの)治って、暫くの安全も多分確保できただろうから、その間に、僕のステータスでも確認しよっかな?
丁度レベルも上がったみたいだし。
それじゃ、『ステータス』
******************************
name:ソウ
age:15
race:魔眼族 《王》Lv.2
job:ダンジョンマスターLv.2
state:異常精神(偽リ中:通常)
Magic aptitude:炎、風、闇
HP 240/240
MP 755/755
str 21
agi 24
dex 44
def ----(物魔耐性測定不可)
magi 50
EX skill
unique skill
完全掃除
可能性の眼
└半独立化
【魔眼】
└無璧の魔眼
└切削の魔眼
└支配の魔眼
【迷宮眼】
└全視の迷宮眼
【邪眼】
└吸魔の邪眼
└
【奇眼】
└並立の奇眼
└蓄積の奇眼
└
└深淵ヲ覗キシ虚無ナル瞳 (偽リ中:空白)
normal skill
体術Lv.4
農耕Lv.9
並列思考Lv.3
title
虐げられし者
痛みを知る者
生還者
可能性の塊『限定:眼』
ダンジョンマスター
選ばれし者
効かぬ者
新種族
*****************************
まず大きな変化は、能力値が上がった事かな?
MPと魔力ステータスは魔眼で魔力の消費と急速回復を短時間で繰り返したから結構上がってる。その他はあまり使わなかったからか、そこまでの上昇は見られない。
でも……
「……なんだろう、この違和感……」
例えるなら、痒いところに数センチ手が届かないような感じだ。
これは……そう、
種族レベルとジョブレベル。
この二つが上がったのに、ステータスの上昇幅が低すぎる。
「っと、珍しく"知識"が反応したね」
ダンジョンマスターになった時に植え付けられた、ダンジョンとそれに付随するいくつかの知識。
それを僕は、完全に把握しているとは言えない。
知ろうとしたり、今回みたいに関連する事が無ければ分からないことも多い。
いや、実際には知ろうと思えば知れるんだけど、それって結構時間がかかる上、基礎の基礎の部分から
まあ、ダンジョンが現界するまでの間に『並列思考』で結構勧めてたりしたんだけど。
で、そんな知識から、今回の疑問というか違和感というかを思い出せた。
それによると、
「『"これはダンジョンコアに魂を授霊させた場合のみの追加効果である。"job:ダンジョンマスターは、素のステータス成長率を強化する代わりに、レベルアップ時には一切のステータス上昇を無効化する。また、種族レベルが上がった際、本来上昇するステータスを半分にする。回収された上昇分のステータスは、たとえ魂が宿っていようと成長しないダンジョンコアへ与えられ、ダンジョンコア自体を成長させる。例としては新たなユニークスキルに目覚める、演算領域の強化、制限されていた一部魂の機能の制限解除等』」
……えーと、つまり……?
「……僕のレベルアップした時のステータスが半分になる代わりに、ヒカリが強化される……?」
『どうやら、そのようです。今、試しにマスターの視界を借りて侵入者の1人を解析していますが、どうやら、私の演算領域が先程より1.05倍強化されているようです』
……1.05倍……。
「そこまで強化されて……無い?」
『いえ、確かに強化されたのは1.05倍ですが、しかし、1.05倍です。私は、と言うより、私達ダンジョンコアは、元より莫大な演算領域を保持しています。その演算領域が1.05倍増加したのです。100の1.05倍は105ですが、100万の1.05倍は105万です』
「あ、そうか。もともと大きな演算領域なら、それが1.05倍の強化でも結構な拡張になるんだね」
『肯定します。ですので、今後、『解析の魔眼』の処理速度や何らかの事象への予測演算が以前よりも高速化されます。また、これは当然かも知れませんが、『迷宮核同調』の『演算領域同調』の効果も向上しました』
ほうほう、それはいい事だね。
「じゃあ、問題ないね」
ヒカリの強化は重要だからね。僕の半身とでも呼べるべき存在だから、考え方を変えれば僕の強化でもある、って言えるかな?
ま、『
じゃ、次はスキルの方かな?
まあ、変わったところなんて、『
……いや、見逃しそうになってたけど、一つ変わってるのがあるね。
農耕Lv.8
前確認した時はLv.9だったんだけど……。
どうして下がったんだろ?まあ、理由の大体は分かる。
「……使ってなかったから、だろうね」
つまり、スキルは使ってないと弱体化する、と。
「問題は、これがユニークスキルとエクストラスキル、種族スキルにも適用されるか、だけど……」
まあ、流石にそれはないだろう。
ユニークスキルは結構特殊なスキルだし、エクストラスキルは普通のスキルから進化したのが多いけど、基本的に常時発動するスキルだし。
種族スキルはそもそもスキルと銘打ってはいるけど、実際は種族的な特性をスキルという範疇で扱ったものだから、弱体化はしないだろう。
「ま、今後農耕を使うことはないだろうから、いっか、別に」
で、さっき獲得したEXスキル『
*****************************
『
全四深層からなる精神世界への没入。その第二深層領域である『自己』へ到達した証。
第一深層領域『表層』への干渉を無効化し、常時『表層』を活性化する。
*****************************
……うーん?つまり……どういうこと?
『マスター、これは私の予測になりますが、『第一深層領域』とは恐らく、『思考する領域』ではないかと。集中とは即ち、思考の明晰化の事ですので、『表層』の干渉を無効化とは、思考誘導系の影響を無効化、『表層』の活性化とは、思考の活性化だと思われます』
「おお、何かそれっぽい。じゃあ、『第二深層領域』の『自己』って、何のことか分かる?」
『分かりません』
へ?
『ですから、私には分かりません。第一、マスターがそのスキルを獲得した技術を私に教えられておりません。ですので、いくら演算してもまず前提条件が不足しているため、推測できません』
あー……それじゃあ仕方ないね。
「……うん、分かった。あいつら始末したら何したか教えるから、推測演算お願いね?」
『畏まりました、マスター』
お、おぉぅ。『眷属繫示の魔眼』で見える繋がりから、ヒカリのめっちゃ嬉しそうな感情が見える……。
で、最後の『支配の魔眼』なんだけど……。
え?これ、邪眼じゃないの?支配って、どう見ても邪眼系統の能力でしょ?
あ、いや、違うか。邪眼って、自分にも影響を与える魔眼だから邪眼なんだった。実際、『吸魔の邪眼』は僕の魔力の吸い取りも出来るし。
ま、『蓄積の奇眼』ありきの使い方なんだけどね。
で、そんな話題の『支配の魔眼』の効果は、っと。
*****************************
『支配の魔眼』
眷属支配の力、絶対支配の法の具現。眷属に限り、どのような状態であろうとも、この眼に映れば絶対支配の法が適応される。
眷属以外であろうと、自身に敬意と畏怖、そして服従の念を抱いていればこの魔眼の支配を受けることとなる。
*****************************
妥当といえば妥当。
そしてまた眷属支配の力が強まって、更に、僕に敬意と畏怖、服従の念を抱いていれば他者でも支配できるようになった、と。
うん、眷属支配は嬉しいけどさ、後半の他者の支配って、僕、全然要らない。
第一、使うことすらないと思う。だって、僕にとって他"人"って、駆除対象と同義だもん。
ま、もし未来の僕が使うことがあったら、念のため頭の片隅にでもしまっとこ。
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