《王》として。迷宮主として。

侵入者共がダンジョン攻略を始めて1時間。

ステータスの恩恵によるものか、慎重に行動してるくせに妙に移動が早い。もう第一階層の一割を踏破されてる。多分、このままだと今日中に第一階層から第二階層に移動される。

最悪、ダンジョンに施した意味に気づかれる。

何れは気づかれるものだし、気づかれるのはそこまで気にしない。ただ、気づかれるのが早すぎると、何されるかわからない。

僕には絶対に逃がす気は無いけど、もしかしたら特殊な連絡手段を持ってて、それでダンジョンの形状が外に漏れて、ダンジョンに込めた秘密が明らかになるかもしれない。

それではダメだ。早すぎる。


だから、目玉たちには結構期待している。

侵入者を迷わせて、今も記している地図を不正確なものにしてくれるのを。


「さて、ヒカリ。目玉たち、何体減った?」


『今回創造された150体のうち、既に19体が侵入者に接触。そのうち10体が死亡しています。そのうち9体は致命傷を与えられましたが、最後まで迷わせることに全力を注ぎ、1体は魔力が切れてもなお迷わせる為、生命力を燃やし尽くし、事切れました』


ふーん。


「残り140体、かぁ。結構殺されるのが早いね。まあ、いっか。迷わせることには成功してるんでしょ?」


『はい。ですが、劣等魔眼族|浮かぶ単眼《イービル・アイ》に出会った際の対処法が徐々に確立されていっています。最初は十数分粘っていたのですが、あの男のユニークスキルが使われると一気に逆転され、それを見て他の侵入者にも倒されるようになっています。今は数分持てばいいほうです』


「……あちゃー、そっか、それは沢山生み出した弊害だね。やっぱりどんなに数を生み出しても、動きが結構似通ってるから、簡単に対処できるよね」


予想外。これは完全に予想外。

いや、もうちょっと考えれば多分わかったことだろうけど、でもさ、戦闘回数がたったの十数回で完全に対応されるのは流石に予想してなかったよ。


となると……


「新しいの創った方がいいのかな?いや、でもねぇ……それだと流石に『LIP』が勿体ない。そうなると……」


うーん……いや、……ちょっと待って。ん?……だから……でも、そうすると……あ、いや、でも、そうか……。


あー、それしかないか、な?


「…………うん、それしかないね」


『どうかしましたか?マスター』


「いや、ちょっとね。時間が無いし、新しく創造した方が早いんだろうけど、それだと『LIP』が勿体ないし、何より何を生み出してもいづれ対応されるだろうし、もしかしたら既に対応策があるかもしれない。だから、さ……」


言い訳がましくなったけど、まあ、僕自身、この方法に少しの嫌悪を感じているんだと思う。

だけど、この方法を使わないと、多分僕が死ぬ。

だから、どれだけ僕が嫌悪を感じていようが、やるしかない。出ないと、最終的に死ぬのは僕だし。


「……目玉たちを、互いに殺し合わせて、レベルを上げさせるよ。そうすれば、数は減るけど、質が良くなって、消耗も大きくなるだろうし」


『マスター、それは……いえ、とても合理的です。ですが、マスター……』


うん、分かってる。


「目玉たちに、共喰いをさせることになるね。分かってるさ、それがどれほど醜悪で、愚かなのかを。でもさ、この感情に今のうちに折り合いをつけないと、後々で、多分、苦労する。折り合いをつけないでいると、もし万が一、僕の、ダンジョンマスターの支配が解かれて、僕に牙を向けたら、多分、僕は仲間を傷つけられない。侵入者に殺される分にはいい。それがダンジョンのあり方だから。でも、出来るだけ僕自身が仲間を傷つけたくはない。劣等種だろうと、《王》たる僕が頂点の魔眼族には違いないから。だけど、それじゃあダメだ。《王》は時として、大のために小を切り捨てないといけない。そしてダンジョンでの"大"はダンジョンマスターの僕とダンジョンコアのヒカリで、"小"はダンジョンモンスター達。だから、これは今のうちに慣れないといけないんだ。」


それがどれほど嫌悪する方法でも。慣れないと、このダンジョンは終わる。


「だからさ、ヒカリ。この判断は間違ってない。ダンジョンを存続させるためには、僕は死ぬわけにはいかないんだから」


『……畏まりました、マスター』


悪いね、理想のマスターじゃなくて。


……ダンジョンモンスター魔眼族を支配している繋がりを意識する。


僕の場合は魔眼の支配の繋がり。それを意識する。


自然と目を閉じ、意識の深層に落ちていく感覚がある。でも、意識ははっきりしていて、寧ろ集中しすぎて疲れないか心配する余裕すらある。


すると、僕の眼から出ている無数の支配の繋がりを見ることができた。その繋がりはとても強く、滅多なことでは切れないだろうと直感で分かる。


その繋がりの内、無作為に50個の繋がりを意識する。


そしてその繋がりを、強引に手繰り寄せる!


《ピロン!スキル『集中』を獲得しました!》


《ピロン!スキル『集中』がEXスキル『自己世界マインド・ワールド』に進化しました!》


《ピロン!『可能性の眼』より、『眷属繫示けいじの魔眼』が派生しました!『眷属繫示の魔眼』は『深淵ヲ覗キシ虚無ナル瞳』に統合されました!》


《ピロン!『強制召喚』を獲得しました!『強制召喚』は『迷宮主ダンジョンマスター』に統合されました!》


「っ、はぁ!……はぁ、はぁ、……はぁぁ〜」


目の前に50体の目玉たちが突然僕の前に現れる。

目玉たちは、突然切り替わった視界に困惑するようにグルグル回ったり硬直していたりしたけど、僕の姿を認識するとすぐさまピタッと止まってその場で浮遊する。


『マスター、一体、これは……』


と、ヒカリを驚かせちゃったか。

だけど、それを意図的に無視する。今の一瞬じゃ、多分『解析の魔眼』を使っても解析出来ないだろうし、そもそも『深淵ヲ覗キシ虚無ナル瞳』で分からないだろうけど。


「……結構、魔力、使うものだね。……『蓄積の奇眼』……ふぅ」


さて。


「突然だったから慌ててるだろうけど、簡潔に言うね」


告げる。ダンジョンマスターの意思を。


「君たちには、最終的に1体になるまで殺しあってもらう。手加減厳禁。あの侵入者を始末するため、ここで散る49体にはその礎になってもらいたい」


僕の言葉は、眷属たちに拒否権など与えない。

僕の言葉は、絶対だ。

それが「支配する」ということ。

僕が行けといえば、簡単に行くし、命を捨てて特攻しろといえば、簡単に特攻する。


だから、この命令も、絶対に無視出来ない。


「殺し合いを────」


あぁ、最低だ。

でも、最低だからこそ、僕はこの殺し合いを見届ける義務がある。

それが、この最低な命令を出した僕の背負っていくものだ。


「────始めろ!」


その言葉が引き金となり、目玉たち達は一斉に隣の目玉に攻撃し始めた。

ある目玉は体当たりをし、ある目玉は劣等魔眼を使い、ある目玉は純粋に魔力を練り上げ、身体強化して攻撃を防ぐ体制を取り、ある目玉は必死に羽ばたきながら攻撃をかわし、漁夫の利を狙う。


こうして見ていると、同じ種族でも全く違う個性があると分かる。

そしてその光景を、僕は見続ける。


目を逸らす権利など無い。


涙を流す権利など無い。


この殺し合いの行く末を見守る為、『全視の迷宮眼』を切り、『迷宮掌握』を停止させる。


ヒカリは珍しく、僕に声を掛けてこなかった。

正直いってありがたい。

僕はこの殺し合いに集中しなければいけないから。

それがこの殺し合いを命じた、僕の、迷宮主の、魔眼王としての義務だとわかっているから。


「っ!」


ほぼ同時に、4体の目玉が死んだ。

その体は4つの魔石となり、一つの大きな魔眼が地面に落ちる。

それを、その目玉を殺した目玉が吸収する。すると、その目玉は1回り大きくなり、能力値が全体的に上がるのを感じた。










時間にして、数分。

でも僕には、数十分にも数時間にも感じた。


最後の一体が、殺した目玉の魔石と魔眼を吸収する。

すると、その体は一瞬一回り大きくなる。

しかし、次の瞬間、その体は紅く光りながら縮み始める。

その体から紫に輝く球体型魔法陣が展開され、内容が高速で書き変わっていく。

その球体型魔法陣に感応するかのように、球体型魔法陣の付近に紅と蒼の平面型魔法陣が生まれ、球体型魔法陣に吸収される。


球体型魔法陣は徐々に輝きを増しながら、最後まで残った目玉の体に吸収される。

完全に吸収されると、輝きは徐々に失われていき、最後には普通Lv.1の《浮かぶ単眼イービル・アイ》よりも一回り小さな姿が生まれた。

その白目には、充血したような赤さはなくなり。


その赤目には、僅かながら理知的な光が宿っている。



**********************


name:no name


age:0


race:上位劣等魔眼族飛翔する単眼《フライング・イービル・アイ》Lv.1


job:ダンジョンモンスターLv.24


state:通常


Magic aptitude:闇



HP 210/210


MP 205/205



str 161


agi 168


dex 160


def 161


magi 166



race skill

平衡消失の上位劣等魔眼

誘引の上位劣等魔眼


normal skill

飛行Lv.5

視界補正Lv.5


title

ダンジョンモンスター


魔眼王の眷属


上位劣等種


進化種


共喰い


同族殺戮


不十分な蠱毒の生存者


*****************************


《ピロン!種族レベルがアップしました!Lv.1→Lv.2》


《ピロン!ジョブレベルがアップしました!Lv.1→Lv.2》


《ピロン!『可能性の眼』より、『支配の魔眼』が派生しました!》


っと、僕のレベルも上がったね。


今確認してもいいけど、その前に、この目の前で浮いてる子に、僕からのささやかなお詫びを渡そう。


でも、《王》として、直球に「お詫び」って言う訳にはいかない。

いくら支配できてるといっても、《王》が舐められる発言をする訳にはいかないから。


「……ん、ご苦労様。それじゃあ、最後まで生き残った君に、御褒美として"名前"を上げよう」


名前。

ダンジョンモンスターに限らず、モンスター全般、いや、生物全般にとって、名前は大きな意味を成す。

種族にもよるけど、名前があるということはそれすなわち、個としての完全なる確立を意味する。

例えば人族だと、名前の有無で理性や知性の優秀さが違う。

名前が無いとそこまで理性や知性が育ち難いし、逆に名前があると理性や知性が育ちやすい。

また、名前とは"親"というある意味上位存在から付けられるものだから、一種の加護みたいなものだ。


そういう意味では、僕はかなり特殊だ。

僕は、"親"から名付けられていない。そして、まだ精神や肉体が発達していない時に"自分で"自分の名前を付けたせいで、自分に自分で加護を付けた、みたいな状況になっている。

だからなのか、僕の精神は『不殺殺さずの剣』に歪に直されて以来、一切成長していないと言ってもいい。ただ、年の割には達観してたから、子供みたいな精神になるのは避けれたみたいだけど。


で、この子に名前を付ける訳なんだけど、注意するのが余り過度に加護を与えようとしないこと。

なぜかと言うと、ダンジョンモンスターの名付けには、『LIP』を消費するからだ。

これを意識しないと、ヒカリの時みたいに莫大量の『LIP』を消費することになる。


さて、この子の名前だけど。


「君は、僕の覚悟の生き証拠だ」


だから、名付ける名前は僕の戒めとなる。


「君に付ける名前は、リーネス」


消費『LIP』は500。


さらに、僕の魔力を『LIP』の消費と同時に200消費する。


「願わくば、生き残れ」



変化が、始まる。



僕の体から、小さな魔法陣が生まれ、リーネスに飛んでいく。


その魔法陣がリーネスの体に浸透すると、リーネスは変化を始めた。


表面上は変わりない。


しかし、内面では、明らかな変化が起こった。


そう感じさせるほど、名をつけたリーネスの目には理知的で理性的な光が宿っていた。



**********************


name:リーネス


age:0


race:上位劣等魔眼族飛翔する単眼《フライング・イービル・アイ》Lv.1


job:ダンジョンモンスターLv.24


state:通常


Magic aptitude:闇



HP 210/210


MP 205/205



str 161


agi 168


dex 160


def 161


magi 166



Unique skill

幻惑の魔眼


normal skill

飛行Lv.5

視界補正Lv.5


title

ダンジョンモンスター


魔眼王の眷属


上位劣等種


進化種


共喰い


同族殺戮


不十分な蠱毒の生存者


確立した個


*****************************



能力値の面では変化はない。

ただ、スキル面では種族スキル二種が統合されてユニークスキル『幻惑の魔眼』になった。


『幻惑の魔眼』は、前身の『平衡消失』と『誘引』が統合されてるから、幻術系統の魔眼らしい。

効果は融合強化されて、魔力消費効率も良くなった。ただ、目を合わせないといけないっていう制約は抜けなかったみたいだけど。


「それじゃあ、リーネス」


進化したてでまだ慣れないだろうけど、命令は下す。


「僕の部屋の前に大きな門を作るから、そこの守護をしろ」


だけど、このダンジョンで僕を除けば最大の戦力をみすみす殺しには行かせない。


リーネスは僕の言葉に了承するかのように空中で体を前に傾けると、急いで部屋から出て行った。


リーネスが部屋から出るのを見届けると、僕は『LIP』を消費して僕の部屋の前に大きくて若干豪華な門を創った。

色は純白。閉じると大きな一つ目になるようなデザインを施して。












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