劣等魔眼族《小蟻》

「……」


『……』


「…………」


『…………』


「……ねえ、ヒカリ」


『……何でしょうか、マスター』


「こいつらさあ、数分前から結構入ってきたじゃん?」


『ええ、大体20人ほどでしょうか?』


「うん、でもさあ、普通だったらさあ、ほら、こう、偵察とか少しぐらいするじゃん?」


『普通だったらしますね』


「じゃあさぁ、何でこいつら、入口周辺から全然動かないの?」


『さあ?ダンジョン内でマスターに分からないことは私にも分からないことがほとんどなので……』


「……」


『……』


「……ねえ、もしかして、まだ侵入してきてない奴がいて、そいつがアレ・・に引っ掛かってる、とかないよね?」


『……十分に有り得ることかと』


えぇ……

もし本当に、今の時代にアレ・・に引っかかってるやつがいるんなら、よほどのお人好しだよ?それも周囲から変な目で見られること間違いなしの。

そんな人間がいるなら見てみたい。


《ピロン!『可能性の眼』及び『迷宮主ダンジョンマスター』より、『全視の迷宮眼』が複合派生しました!》


……。

どうやら、『可能性の眼』は僕の願いを汲み取って新しい眼を開眼してくれたようだ。


******************************


『全視の迷宮眼』

『可能性の眼』及び『迷宮主ダンジョンマスター』より複合派生した、特殊な魔眼の一種。『迷宮主ダンジョンマスター』の『迷宮掌握』によるダンジョン内限定完全知覚と、『可能性の眼』による「眼」という「視る」概念に能力を追加する力が噛み合った結果創造された魔眼。

迷宮内に限り、あらゆる場所を物理、非物理的距離に限らず見ることが出来る。



******************************


うん、なんというか、うん。便利なんだけど、こういう僕が無意識に願ったことはちゃんと創造してくれるのに、何で意識的に願ったことは魔眼にしてくれはいんだろ……。


「……『全視の迷宮眼』、発動」


まあ、今はいいか。

それよりも、『全視の迷宮眼』、これ結構使える。

僕が本物の眼で見ている視界はそのままに、もう一つ意識した場所を見ることが出来る。

但し、音は流石に聴こえないし、感覚的には眼を飛ばして見てるって感じだから、触れない。しかも、視界が二つに増えるせいで頭が混乱するけど、これは『並列思考』があるから大丈夫。


で、問題の侵入者だけど、内訳は神官が9人に村のヤツらが10人、そしてなんかいい装備をしてるやつが1人。多分自由組合員とかいうやつだと思う。

そして行動としては、どうやら半数が魔物の警戒をしていて、もう半数が唯一ダンジョンに侵入できていない巨漢をどうにかしてダンジョンに侵入させようと試行錯誤しているみたいだ。

そいつをダンジョンに入れようとする。それ自体が無駄なのに・・・・・


それこそがアレ……たった1回しか設定できない『試練と選定』。


『試練と選定』

それは、ダンジョン自体に課す特別な制約。ダンジョンという試練を完成させるための最後のピース。この制約を使えばダンジョン内に存在する全てにその制約を課すことができるようになる能力だ。例えば、重力5倍の制約を課せば、重力がダンジョン内の全てに、生物非生物問わず5倍になる。それはダンジョンモンスターやダンジョンマスターでさえ例外じゃない。そしてその制約は唯一の例外を除いて絶対最優先される。その例外はダンジョンマスターのユニークスキルのみ。先の重力5倍を例にしていえば、重力無効系統を持っていれば重力5倍から逃れられる。

しかも、『試練と選定』の名の通り、侵入する者を選定することすら可能だ。

そして僕のダンジョンは、侵入するものをとある条件で選定している。

その条件こそが、「意識的、無意識領域下で悪魔の子を虐げる思想の持ち主、又はその悪魔の子とそれ以外の魔眼持ち以外の進入禁止」。

これで悪魔の子を虐げる者以外の人間クズ以上ゴミ以下の無意味な殺戮を防ぐ。僕が殺したいのは人間クズ以下だけだしね。

但し、当然この制約を課すにもデメリットがある。それが、制約内容に応じたダンジョンマスター自体の魔力消費。

選定するやつが来なければ無意味に終わってしまい、魔力の無駄になるものだし、必要性は薄かったけども、一応選定しておいてよかったよ。


今、そんな選定に、しかも初めての侵入者が引っかかっているんだから。


「はは、まさか、まさか本当にいるとは……ね。まさか本当に、悪魔の子を守ろうとする意思があるやつがいるとは……」


これには笑ってしまう。

その意思がありながら、教会のヤツらと一緒に行動するとは。とんだ偽善者がいたようだ。


だからこそ、そう、だからこそ。


怒りが湧いてくる。


「ヒカリ、今の『LIP』残高は?」


『今の『LIP』残高は、185です』


そう、じゃあ、アレ、創れるね?


「ヒカリ、ダンジョンモンスターを創るよ」


『イエス、マスター』


EXスキル『迷宮主ダンジョンマスター』、起動。


「迷宮魔物創造」、種族名「劣等魔眼族小蟻」。


消費『LIP』、一体につき3。


創造数、40。


総消費『LIP』、120。


「さあ、生まれ落ちろ、魔眼王が眷属にして劣等種、小蟻ども!」


空中に一つの小さな魔法陣が生まれる。

その魔法陣が淡く紫に光りながら徐々に回転し始めると、そこから1センチ程の小さな光の玉が40個生成され、地に落ちる。

光の玉が全て地に落ちると、まるで粘土のようにグニョグニョと蠢きながら小さな蟻の形を象っていく。

完全に小蟻の形を象った光の玉は光を失いながら黒く変色し、カサカサと動き始める。



******************************


name:無し


age:0


race:劣等魔眼族小蟻Lv.1


job:ダンジョンモンスターLv.1


state:通常


Magic aptitude:無し



HP 25/25


MP 12/12



str 2


agi 4


dex 5


def 3


magi 1



race skill

小傷の劣等魔眼

迷宮内転移(回数制限:一回)


normal skill

採掘Lv.3


title

ダンジョンモンスター


魔眼王の眷属


劣等種



 *****************************



『迷宮魔物詳細』でステータスを確認してみると、やっぱり劣等種、しかも生まれたてなだけあって弱い。


種族スキルの『小傷の劣等魔眼』も魔眼とは銘打ってはいるけど、出来ることは5ミリ位の傷を薄皮1枚に刻むだけ。同じ箇所に連続で放つなら傷が深くなって血は出るかもしれないけど、それだって何度も使うから魔力が圧倒的に足りない。しかも燃費も悪いし、チャージ時間もあるから一回の戦闘で使えて2回。ほんとに雑魚だし、そもそも蟻だから踏まれれば死ぬ。

『劣等』の名に恥じない種族だ。


「はぁ……注目」


但し、こんな雑魚の劣等種でも、魔眼族だということは変わらない。

魔眼族ということは僕の命令は絶対。

理解する知能がなくたって本能に刻まれた支配権が強制的に理解させる。

現に今だって、さっきまでカサカサ動いていたのにピタッと止まって僕の言葉を黙って待っている。


「君らに与える最初の命令だ」


そして命じる。


「侵入者を殺せ。但し、沢山殺そうなどとは思うな。1人に集中し、首の血管に深い傷を負わせ、確実に殺していけ。自らの命など捨て置け。死を恐れず、生命力HPを削ってでも傷を負わせろ」


本能のレベルで死を恐れず、最後の1匹まで自分の役割を全うする軍隊になれ、と。


「行け!」


僕の掛け声で小蟻は一斉にダンジョンの入口まで転移していく。


多分、1人殺せたら良いほうだろう。殺せなくても、ポーションや魔力を消費させたり疲労させることが出来る。そうすれば必然的に『LIP』が貯まる。その『LIP』で更に小蟻を生み出し、少しずつ消耗させていく。勿論、上手くいくのは最初の1回2回だろう。でも、それで十分。何せ、僕のダンジョンは既に五層もある。しかも複雑だ。ちょっと消耗するだけで僕のところまでたどり着いた時の戦闘力が変わる。

僕はそこを叩けばいいだけの簡単な仕事だ。











村を出発したカーター達は、すぐにソウのダンジョンにたどり着く。

そしてダンジョン内に斥候としてカーターと神官の内1人がダンジョンに入っていった。


数分入口付近で周囲の警戒をした後、とりあえず安全だと分かると、村人と神官、そしてロスに入ってくるように手で合図した。

彼らは次々とダンジョン内に入っていき、最後に周囲の警戒をしていたロスが入ろうとした時に、『試練と選定』が発動した。


ロスがダンジョン内に足を踏み入れ用とした瞬間、


バジッ!


と、突如としてロスが弾き飛ばされたのだ。

これには以下に出来立てとはいえ複数のダンジョンを攻略した『迷宮殺し』の2人も困惑した。

これまでこのような事は無かったからだ。

その後数十分に渡りロスをダンジョンに入れようとしても、見えない壁のようなもので必ず引っかかる。

試しにロスが魔法を唱えてみるも、魔法も見えない壁のようなものに弾かれてしまう。


皆が困惑する中、数分で冷静さを取り戻したカーターは、ダンジョンを警戒していた。

カーターから見たこのダンジョンは、明かりがない非常に面倒くさいものだと感じられた。

そのため、モンスターの接近にギリギリまで気づかないだろうというのがカーターの予想であった。

しかし、カーターには不意打ちを喰らわない自信があった。

カーターには、自分の目から正面を見る視界の他に、もう一つ、自身の真上から周囲を見渡す手段があるからだ。


生体魔道具俯瞰の魔眼鏡


悪魔の子の魔眼を摘出し、特殊な加工法によってメガネのレンズへと変換することにより魔眼の力を受け継いだメガネを作る、教会秘蔵の技術。


カーターの眼鏡に使われている魔眼は、『俯瞰の魔眼』。

自身を上から見つめる視界を作る魔眼だ。

そのため、カーターには、実質死角がない。


その増えた視界で、カーターは、周囲に違和感を覚えた。


(おかしいですね。先程まで、無かったものがあるような気がしますね。何でしょうか、この違和感は……)


そして違和感を感じる部分を肉眼で確認する。


(む……何でしょうか、これは……蟻?外から入ってきたのでしょうか?いえ、ここはダンジョン内、詰まりは……!)


「全員、警戒してください!そこにいる蟻が、ダンジョンモンスターの可能性があります!」


カーターの言葉を聞き、周囲を警戒していた村人と神官だけでなく、ロスをどうにかして入れようとした者達も慌てて周囲を警戒し始める。


「ぐっ……」


と、ちょうどその時、慌てて振り向いた神官のひとりが首を抑えながら蹲った。その首からは、よく見て見るまでも無く血がとめどなく溢れてきており、間違いなく致命傷を負ったことを示している。


周囲がそれを確認するまでの数秒にさえ満たない時間の中、妙に長くなった知覚速度でカーターは冷静にその事実を俯瞰した。

そしてその時間で原因を模索。周囲に蟻が出たタイミングと合わせて致命傷を負ったものが出た。では、その蟻が原因なのではないか?

そこまで考えた後は早かった。

カーターは瞬時に自身のユニークスキルの使用を決意。

そしてほぼ無意識に剣を抜きながら、意識と少しの魔力を集中し、ユニークスキルを起動した。


「『剣能憑依』!憑け、『不殺殺さずの剣』!」


そして、首に重症を負った神官の方に振り向き、


自身の剣を


刺した。


******************************


name:カーター


age:19


race:人族Lv.32


job:魔剣士Lv.7


state:通常


Magic aptitude:土、水、光



HP 1845/1845


MP 965/965



str 526


agi 520


dex 461


def 459


magi 464



unique skill

剣能憑依



normal skill

剣術Lv.6

体術Lv.4

並列思考Lv.3

ステータス隠蔽Lv.3

気配知覚Lv.5


title

今無き村の復讐者


迷宮殺し


未来の剣聖


見た目後衛職


魔剣士


百剣の力


天才剣士


攻め(マジで隠蔽中:剣能憑依、ステータス隠蔽)


巧剣


 *****************************


『剣能憑依』


このユニークスキルの力はかなり強力なものだ。

何せ、1度でも握ったことのある剣が保有する能力を、自身の握る何の変哲もない剣に憑依させる能力だからだ。

しかも、憑依する剣の能力はそのままに、憑依させた剣の能力を上乗せすることすら可能。しかも、憑依上限は剣の耐久力と自身の魔力が許す限りであり、理論上では無限。

そんな能力なのだ。


そして、今憑依させた剣は『不殺殺さずの剣』。治癒特化の県である。


その剣の力が乗った剣で貫かれた神官は、最初こそ戸惑ったものの、徐々に引いていく痛みと治ってゆく感覚を覚え、冷静さを取り戻した。そして慌てて神聖力を練り上げ、傷を塞いでいった。


「……危なかったですね。もう大丈夫でしょう」


「……えぇ、ありがとうございました」


互いに軽く答えながら、周囲を改めて警戒していく。

カーターは先ほどの失敗を瞬時に反省し、『気配知覚』を起動。弱々しいが、そこに確かにある蟻の気配を探しとった。


「……捉えました!『剣能憑依』!憑け、『雷連剣』!」


そして、新たな剣の能力を憑依させたカーターは、近くにいた小さな蟻に剣を振り下ろした。そして、的が小さいにも関わらず正確に二等分にし、剣先から迸った電撃が周囲の蟻を殲滅した。













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