ダンジョンについての一部考察

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【ダンジョンについて】


『ダンジョンとは』

ダンジョン、またの名を迷宮。

神話の時代、邪神の計画によって創られたモノと予測される。

その性質は、ダンジョンモンスターと呼ばれる普通の魔物とは異なる生命体を生み出し、時にそれを軍隊として地上へと解き放つ"災害の具現"の一つである。

また、ダンジョンによっては魔法の威力が増大したり、逆に減少したり、そもそも発動すらできないものも存在する。もちろん、魔法以外にも様々な効果を持つものが存在しており、そのようなダンジョンではこちら側の有利がほとんど役に立たない特性を持つダンジョンモンスターが出現する傾向にある。


ダンジョンは実質今の技術では破壊不可能であり、今日こんにちに至るまで傷をつけたという報告すら皆無なのが現状である。


『出現兆候に関して』

ダンジョンは、数年から数十年に一つ出現する傾向がある。

その出現兆候として、有名なのが所謂ところの『ダンジョンの記憶喰い』である。

ある日突然それまでいた人物がいなくなり、同時にその人物の記憶が虫食いのように綺麗さっぱり無くなる現象である。

これを我々は、"ダンジョン出現に伴うリソースの確保"と仮定している。一人の人物を"生贄"とし、その"生贄"に関する記憶を喰らうことで出現時のリソース、及び初期形態を構築していると考えられる。

しかし、記憶が消えるといってもその人物が存在しなかったように感じるのではなく、"虫食い"と前述した通り「どのような人物か」「誰が親か」は思い出せずとも、「何をしたか」だけは薄らと覚えていることがある。また、その人物が残した"痕跡"や"名前"などを何らかの拍子に知ると、虫食いだらけの記憶が蘇るという。

さて、理論だけでは分からない者もいるだろう。そのために、一つ、興味深い実例を述べてみよう。


とある日、ある国の王子がダンジョンの生贄となり消滅した。

当然、ダンジョンの記憶喰らいが起こり王や王妃、果ては国民すらその王子を思い出せない状況に一時期陥ったが、消える数日前に描かれた肖像画をふと目にした人物が、いきなり極度の頭痛とともにその王子のことを思い出した。

余談ではあるが、その極度の頭痛の事を思いだすことに成功した人物達は口を揃えてこう表現したという。

「まるでスライムに消化されかけた自らの切り落とされた肉を、強制的に半端な治癒魔法で接合されたようだった」、と。

以上のことから考察するに、ダンジョンの記憶喰らいとはあながち名前間違いなどではなく、実際に記憶を喰っている・・・・・と結論付けできる。更には、喰った記憶を何らかの手段で実際に消化し・・・、吸収することが出来ると予想できる。


『出現モンスターについて』

出現するモンスターは、産まれたばかりのダンジョンならば一種族、又はその種族の進化派生先が一般的である。しかし、時が経つにつれ勢力を拡大したダンジョンモンスターは、ダンジョンの外へと赴き、時節他ダンジョンへと侵入、そして後述する迷宮核ダンジョンコアを己の迷宮へと持ち帰る習性が確認されている。

他ダンジョンの迷宮核ダンジョンコアが自ダンジョンへと持ち帰られると、数時間から数日後には明らかに持ち帰られた迷宮核ダンジョンコアのダンジョンに出現していたモンスターが出現する。

これによりダンジョン攻略の難易度が上昇するのだが、稀に、産まれたばかりのダンジョンであっても複数種類のダンジョンモンスターが出現することがある。

しかし、それらは外見こそ複数種類のモンスターを象っているが、《種族鑑定》スキル持ちに言わせれば、実際は同一種のモンスターであるらしい。

例えば、有名所では「魔声と絶叫の轟く連部屋」と命名されたダンジョンのモンスターは、外見こそゴブリンやコボルト、果てはドラゴンなのだが、《種族鑑定》スキルでそれを視ると、『魔声族(種族名)』と統一されているらしい。

その、様々な種族の姿形を持つ単一種族を、我々は《似姿にすがた》と呼称している。


『ダンジョンマスターについて』

ダンジョンマスターとは、一つのダンジョンに必ず一体のみ存在する、ダンジョンに初期から存在するモンスター達の《王》と呼べる個体のことである。

《王》と表現した通り、《種族鑑定》スキルを用いて種族を視ると、《(種族名)《王》》と表示される。

基本的にはそのダンジョンに存在する全てのモンスターの内で最も強大な力を持ち、尚且つダンジョンモンスターを支配、創造する力を持っている。

後述する迷宮核ダンジョンコアと深く繋がっており、その繋がりを介して何かを出来るのだろうが、現状、後述するダンジョンの変性に関わっているとしか推測することしか出来ない。

その姿はダンジョンの生贄として喰われた人物に似る場合が多く、また、問答無用で戦闘してくることから、喰われた人物の姿を模倣することで侵入者の中にいるかももしれない身内に同様を与えてくることが目的と推測されている。


迷宮核ダンジョンコアについて』

迷宮核ダンジョンコアとは、ダンジョンマスターの意思に呼応し、ダンジョンを変性させる端末であると同時に、ダンジョン自体の心臓であるとされる淡く光る球体である。その大きさは個々のダンジョンによって様々で、過去、「目潰しの畜生窟」に存在していた迷宮核ダンジョンコアは、直径凡そ9mの大きさを誇っていたという。

また、これを破壊すると例えダンジョンマスターが生存していようと問答無用でダンジョンが崩壊し始め、中に残ったものを生き埋めにする。但し、崩壊の速度はそのダンジョンの階層に比例して遅くなり、生き埋めになるのは極わずかである。


『ダンジョンの変性について』

ダンジョンは、日々変化し、階層が増加している。

どのようにしてかダンジョンを破壊及び変質させる技術が我々には不足しているため、ダンジョンを変性させている原理は不明だが、実際に変化しているのだから何かあるのだろう。最も有力な説は、ダンジョンマスターが階層を想像し、その意思を迷宮核ダンジョンコアが汲み取って何らかのリソースと引換に操作していると推測される。

そのため、ダンジョン内において地図は作成しても一時間と経たず役に立たなくなる場合も少なくはなく、事実上のマッピングは不可能である。


『ダンジョン内においてのレベルアップ速度の上昇について』

ダンジョンでは、何故かレベルが上がりやすくなる。

恐らく、『ステータス』等を授けてくださった創造神クリアの反存在たる邪神が創造したモノのため、経験値が入りやすいのではないかと推測される。


『ドロップ品について』

ダンジョンモンスターは、何故か倒すと魔力粒子となって霧散してしまう。

そして霧散する際、確定で魔石と、低確率でそのモンスターの特に魔力が含まれていた部位が霧散せずに残ることがある。これが所謂ところのドロップ品である。


『階層について』

ダンジョンの階層は、1回層ごとに違う場合がある。例えば、基本的に地下に生成されるダンジョン内部に青空が広がり、マグマが流れ、雷が落ち、天を貫く山々が連立していることすらある。

これは、ダンジョンがこの世界に存在していて存在していないからである。

基本的にダンジョンは、入口が先に行くほど細くなった下半分を切り落とされた漏斗型をしている。

その形のため、とある大地魔法師が地下からダンジョンに入ろうとした。が、途中で何もぶつからずに100m先で地面から出てきた。また、空間魔法師が入口に空間破壊を試みたところ、魔力を練り上げたその瞬間に全身から血が吹き出し、以後目覚めることのない重傷を負った。

以上二つの結果より、ダンジョンはこの我々が住む世界に入口という形で存在しているが、同時に内部は何処かの別空間、又は別の世界に存在しているのだろうと推測される。

そして、別の世界に存在しているからなのか、階層の数に制限というものがない。百を超える階層を誇るダンジョンも確認されていることから、恐らく空間をねじ曲げているとも推測される。


『宝箱について』

宝箱の中には硬貨などが入っていたり、更には未知のマジックアイテム、果ては魔剣や魔槍などが入っていることすらある。

これらはダンジョンが我々を殺し、餌とするための釣り餌であるとされる。しかし、そうと分かっていても欲が強いもの、名声を求めるものなどが日々ダンジョンに入り、この宝箱を探しているのが現状である。

余談ではあるが、とある魔剣を発見した人物がそれを見せびらかしたところ、ある1人の人物が昔落としてしまった剣と似ているどころではなく同じであると主張し、所有権を言い張って殺し合いに発展したことが何件も報告されている。

また、最初期の産まれたばかりのダンジョンには宝箱は生成されないことから、ダンジョンが侵入者の死体を遺品ごと取り込み、不要物として高濃度の魔力に当てられた末に吐き出されたものが宝箱の正体ではないかと思われる。


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以上を以て現在ダンジョンについて判明されていることの記述を終えるが、しかし、まだまだダンジョンは未知の存在であることを知っておかねばならない。

何故ならば、ダンジョンは先も述べたように日に日に変化しているのだから。

いづれ、我々が知らない法則が発見され、それが未知であるが故に絶滅の道を歩むことすらありえるのだから。


著:トマス・ハルメナルーツ

『ダンジョンについての一部考察』より抜粋



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