魔法の練習

的をダンジョンを拡張した時に出たゴミの欠片を『迷宮主ダンジョンマスター』のスキルで固めて、それを敵……村のヤツらの姿と重ねる。そうすれば、それは僕にとっての"敵"と認識できるものになるから、魔法の練習の的に最適なのだ。


まずはどのくらい魔力が無くなるかわからないから、制御できるギリギリの魔力を練り上げて、それを維持したまま使う魔法をイメージする。


イメージ……空気が一箇所に集まるイメージ……一箇所に固まって握れるくらいに固くなって、敵に当たったら破裂する風の玉…………完了。


「『集え集え満ち満ちる風の子よ、我が意に従い敵を討て、《爆風玉ばくふうぎょく》』」


村のヤツらを重ねた的に翳していた僕の右手に、薄らと黒く染まった小さな球体が出来上がる。

それを投げつけるイメージで魔力を少し込めると、僕が走る早さの2倍くらいの速度で的に飛んでいった。



ドガン!

ぼぉぉぉぉ……


で、的に当たったらイメージ通りに破裂して、その後一瞬遅れて立っていられないほどの風がコアルームに吹き荒れた。


「まあ、僕に魔法は効かないんだけどね」


だけど、立っていられないほどの風と言っても所詮は魔法で生み出した風。

『悪食』スキルから進化したEXスキル『魔喰マジック・イーター』の効果で魔法的なものは確実に全身から吸収できる。

一瞬だけ本物の風が来てふらついたけど、それ以降は全部魔法の風だから、魔力として回収できる。


因みに、『魔喰』というスキルの名の通り、魔法を食べるスキルなので、舌ではないけど感覚的に味がわかる。

僕の魔力は長い間熟成された鹿の肉の味が感覚的には一番近い。


結論。


「うわぁ……僕の体の一部だけど、美味しい……」


『…………』


「あ、ちょっと待ってヒカリ!長い間食べ物食べてなかったから少しの味でも過敏に反応しただけだから!だから引かないで!」


『……(とても変態的でしたね。まさか自分の一部を美味しいと恍惚とした表情で言われるとは……)(ボソッ』


「ヒカリ〜……聴こえてます……ぐすっ……僕の心に深いダメージが……」


『入ってないんですね。分かります』


ちぇっ、バレたか……


「ま、いっか。それでヒカリ、さっきの魔法でどれ位のゴミが死ぬと思う?」


『直撃した人物は当たりどころが悪ければ良くて致命傷一歩手前、首などの弱い部位に当たれば間違いなく即死でしょう。また、その後に発生する暴風が周囲に拡散することを考慮すると、周囲の人物は数秒動けなくなり、こちら側の運が良ければ吹っ飛ばされてそのまま気絶、となるでしょう。ですが、これには耐性スキルやそれに類するスキル、高い能力値は考慮に入っていませんので、あくまでもマスターの記憶にある村の人間を参考にした演算結果となります』


ふぅん……

つまり……


「つまりもっと強力な魔法を使えばいいんだね?」


『そうなります、が、あと一つ有効な手段がありますよ?そちらは使わないのですか?』


もう一つ有効な手段……あぁ、あれね。


「あれは使う場面がちゃんとあるから、これしきの僕が努力すればいいことなんかには使えない。ていうか、もう設定しちゃったし」


『もう設定したんですか……あぁ、ありました。この設定でいいのですか?』


「うん、これ以外考えつかないし」


そうヒカリの問いに笑顔で答えると、ヒカリからはどこか呆れたような感情が滲み出てきた。

ていうか、僕ってヒカリに呆れられること多くない?まあいいけど。


「っと、取り敢えず、また魔法の練習するから、威力の査定を頼むよ」


『はぁ……了解しました、マスター』


それじゃあ、炎、風と来て次は闇魔法を試してみようかな?


魔力を限界ギリギリまで練り上げて、イメージする。


イメージ……傷が絶対に治らないイメージ……『不殺殺さずの剣』の不治効果を敵に付与するイメージ……再生能力を負の方向に偏らせて傷を治せなくするイメージ……完了。


「『零れ落ちる生命いのちの紅き水、その水源。我は汝に命ずる。閉じるな!そのまま生命いのちを零し続けろ!《不治の呪傷じゅしょう》』」


詠唱を唱えて魔法を発動した瞬間、それまで練り上げていた魔力がゴッソリと抜けていく感覚があった。


『何をしているのですか、マスター!』


「え?何って、僕に《不治の呪傷》を付与して効果を試そうと思ったんだけど……」


『解除してください!今すぐ!』


「う、うん」


なんかヒカリに魔法の解除を要求されたから解除したけど、なんか不味いことでもあったのかな……?


『マスター、先ほどの魔法の効果ですが、マスターの再生能力をほぼ無効化しています。僅差でマスターの方が優勢でしたが、『魔喰マジック・イーター』とダンジョンマスターの体としての再生能力を込みで殆ど無効化していました』


えっと……


「つまり……?」


『少しの傷で死ぬ状態でした』


……やばい……


「ほんとにやばかったんだね……」


『マスター、逆に考えるとマスターの再生能力を殆ど無効化出来るならマスター以上の再生能力を持つ相手ではないと確実にこの魔法が効くので、ある意味とても優秀な魔法なのではないでしょうか?』


……それも、そうだね。


「じゃあ、あとは魔力消費の多さが問題だね。あれだけで7割は魔力がなくなったから……」


『それでしたら、単にマスターの再生能力が非常に高かったので、それを負の方向に傾けるために魔力を多く消費しなければいけなかった為です。『魔喰マジック・イーター』に迫る再生能力を持つスキル持ちか、単純に種族としての再生能力が高い相手に使うのではない限り、そこまで魔力を消費はしないでしょう』


へぇ。じゃあ、この魔法は積極的に使っていこうか。


「それじゃあ、次の魔法の練習するから、『解析』お願いね」


『かしこまりました、マスター』


うーん、とは言ったものの、次はどうしようか。

《灯火》は指先に熱を生み出して炎を出す理魔法寄りの現魔法、《爆風玉》は空気を生み出してそれを圧縮したものを飛ばす現魔法寄りの理魔法、《不治の呪傷》は一見完全な理魔法に見えるけど、相手の再生能力という現実を操ってるから完全な現魔法。

こうして考えてみると、完全な理魔法が無い。


ということで、完全な理魔法を作っていくことにしよう。


属性は……闇……かな?


あぁ、でもこれだと現魔法寄りになる……


ん?でもこれは現実的に不可能……かな?


……これでやってみるかな?


イメージ……手で触れたものを蝕むイメージ……土に水が吸い込まれるイメージ……土を自分の魔力、水を敵の魔力と置き換えて改めてイメージ……完了。


魔力を『蓄積の奇眼』から引き出して回復。で、練り上げて制御、と。


「『我が手に触れたるは千個千別たる力。それを我は侵犯す。そこに阻むモノはなく、汝は汝のまま我と同化する。終焉の時まで逃れることは叶わず、我が身我が力の一部となれ。《魔力強奪》』」


……シーン……


「……ンン゛。あー、ヒカリ、さっきの魔法って成功してた?」


『……はぁ、また無茶をしましたね……。先ほどの魔法、《魔力強奪》でしたか?他人の魔力を自身の魔力へと変換することなく取り入れるのは、マスターが持つ『完全耐性オール・レジスト』があってこそです。他人がやれば、まず間違いなく魔力同士の拒否反応が起きて魔力が暴走しますよ?』


「あ、はい……。……それで、さっきの魔法の評価は……?」


『そもそも取り入れる魔力がない時点で効果など現れるはずありません。私の『解析の魔眼』も決して万能ではなく、ある程度の効果を及ぼして初めて解析することが出来るのですから。』


はあ、マジか……。


「しょうがないね。こればっかりは実践で試そうか」


『それがいいでしょう。欲を言うなれば、徹底的に痛めつけて拘束した者に使用してください。敵の魔力に接触する時点で、自由だと危険ですから』


「ん。それもそうだね。じゃあ、次の魔法の練習に行ってみよう。次は……」









眠らなくてもいい体のおかげで、気づいたらダンジョンが現界するまで残り3時間と少々となっていた。

それまでの間、僕は魔法の創作に励み、結構な量の魔法を創作できたと思っている。


炎魔法では、《灯火》の他に、領域中の気温を無制限にあげ続ける《熱帯領域》、指定した空間を爆発させる《爆弾ボム》、僕の『完全耐性オール・レジスト』の使用を前提にした炎を棒の形にして振り回す《炎武器:棒》などなど。

風魔法では、《爆風玉》の他に、《爆風玉》を板状に加工して防御する《爆風壁》、竜巻を作って敵を吹き飛ばしたり巻き上げたりする《竜巻》、指定した領域の空気を少しずつ消していく《無空空間》などなど。

闇魔法では、《不治の呪傷》と《魔力強奪》の他に、敵の名前で強制的に契約して縛り付ける《強制契約》、物の勢いを負の状態に傾けて強制停止させる《逆動》などなど。

そして、最後の最後に辛うじてできるようになった複合魔法。

炎と闇の複合魔法で、消えるという負の状態を負の状態に傾けて正の状態にした、消えない炎を生み出す《非消炎》、熱を負の状態にして温度を下げる《降熱》。

炎と風の複合魔法で、《爆風玉》の爆発力を上げた《爆風玉・改》、炎の竜巻を生み出す《火炎竜巻》。

風と闇の複合魔法で、風に腐食という負の傾向を与えて辺り一面に撒き散らす《腐食の風》、風の抵抗力=負、って感じで抵抗力を上げてまるで粘液の中にいるようにしか体を動かせなくする《粘空》。


そして、座標認識がめんどくさいな〜って思ってたら久しぶりに、と言っても数日ぶりくらいだけど、『可能性の眼』から『座標の魔眼』が派生して、見たところの座標に魔法を直接放つことができるようになった。

利便性は上がったし、何より奇襲とかしやすそうだから、意外と便利な魔眼だった。


「さて、ヒカリ。とうとうこの時がやってきたね」


『ええ、そうですね』


「多分、出来てから数時間で侵入者が何人か来ると思うから、それに合わせてあれを起動するよ。エネルギータンクは当分の間は僕の『蓄積の奇眼』に設定しておいて」


『かしこまりました、マスター』


「多分、あいつらの事だから、ダンジョンを見つけて入ってきても数分見て回った後に退却すると思うんだ。で、その後にどこかの街から人を呼んで大体4日後位に村人全員と呼んできた人が攻略してくるだろうから、それまでは多少の猶予がある。だから、最初の数分間で回収したLIPを使って、ダンジョンモンスターを創ろうか」


『ですがマスター、たかが数分偵察した程度では、とてもではないのですがそこまでのLIPを回収することは出来そうにないように思えるのですが?』


「ああ、それなら大丈夫。何せ、創造するのはあの黒光りして六本足の虫を大量召喚するから。それに……」


『それに?』


「あの村の奴らって、大人も子供も最低限フォレストエイプって言う猿のモンスターを倒せるくらいの武闘派だし、偵察に来るのは少なくとも中の上くらいの実力者で、三ツ目熊を倒せるような奴らが来るはずだから」


『………』


「まあ、そういう訳で、数分でも意外とLIPを回収できると思うよ?」


『はぁ、そうですね』


こうして、僕らは、と言っても二人しかいないけど、こうして最後の安寧の時間を過ごしていった。


もっとも、僕は心のうちに燃え上がる憎悪の念をヒカリに悟られないように、昨日習得した『並列思考』で並列してる思考の片隅に追いやり、薪をくべていたけれど。











「待っていろよ、ゴミ共。後悔させてやるから、首を洗って待ってろ」








『……?マスター、何かおっしゃいましたか?』


「いや?何も言ってないけど……どうしたの?」


『いえ……、気の所為、ですかね?あ、マスター、申し訳ございません、何でもございませんでした』


「そう?じゃあ、次の確認ね。あれは大丈夫そう?」


『はい、今は設定が終わっていて、後は現界すれば自動的に適応されるようになっています』







現界まで残り2時間42分11秒



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る