魔法の失敗

まあ、流石に奇跡は言い過ぎかもしれないけど。


それはともかく、ダンジョン運営の基本的な知識に付随して覚えてた魔法的な罠の知識から得た魔法の知識。

そしてそれに従った魔法の発現。


イメージを固めて、魔力を練り上げ、詠唱し、発現させる魔法を世界に……何より自分自身に認めさせる。


その行程を踏んで初めて魔力は現象へと昇華し、世界を塗り替える。


さあ、始めよう。


イメージを固める……完了。


魔力を『蓄積の奇眼』に溜まっている純粋なエネルギーから変換して練り上げる……。


……ぅぐ、……これはきつい……。


……完了。


そして、自然と頭に浮かんできた詠唱に魔力を乗せて世界に浸透させる。


「『遍くやーーー』……ぁ……」


その瞬間、僕の体から練り上げていた魔力が霧散し、極度の疲労感に襲われた。


「うぐぅ……これ、は……失敗……?なんで……?」


疲労感の原因はすぐに分かった。何らかの原因で魔法を失敗すると、体にある魔力が全て抜けてしまう、所謂反動ペナルティ

つまり、魔力欠乏症を引き起こした訳だ。


すぐに『蓄積の奇眼』から魔力を引き出して魔力を回復。

どうやら『蓄積の奇眼』に貯蓄されているのは純粋なエネルギーだからか、反動ペナルティで無くなったりはしなかったらしい。


「でも、どうして魔法は発動しなかったんだろう?」


……いくら考えてもわからない。イメージ、魔力、どっちも不足してなかった筈。



「……こうゆう時はヒカリに『解析』してもらった方が早いかな?」



てことで手早くダンジョンの拡張作業を停止して、『迷宮主ダンジョンマスター』に含まれている『迷宮内転移』を使って手早く最下層の中心の部屋、『コアルーム』に転移した。










朝になれば桶に張っていた水の表面が凍りつき、最近では霜が降りるようになり、特に寒さが著しく堪える山間中部にあるとある村。

その村は普段ならば村人以外にいる者は少なく、また、子供がそこら中を走り回っている風景が広がっていた。


しかし、現在では村人以外には物々しい雰囲気をした神官服を着た神官が複数名、皮の鎧やローブを着た男女もまた複数名滞在しており、更には子供たちは皆家にいるようにと言いつけられていた。


多くの子供は10歳にもなれば時々家の農作業を手伝い、それ以外では遊び回っているため不満の声が大きかったが、非常時のため有無を言わさずに納得させていた。


しかし、極一部の家庭の子供はそのまま仕事に打ち込み、村に滞在している神官たちをもてなしていた。


極一部の子供とは、酒場の子や鍛冶師の子などである。



閑話休題



そして村にある酒場には、二人の男の姿があった。


1人は豪快に肉に噛り付き、酒で流し込むように食事をする筋肉ムキムキの男。

1人は時節眼鏡をクイッ、と押し上げている、筋肉はあるが細いと表現できる見るからに神経質そうな男。


この2人が、若手の注目株のパーティー、『迷宮殺し』の剣士ロスと魔法士のカーターだ。

当然、筋肉ムキムキの方がロス、神経質そうな方がカーター……ではなく。

神経質そうな方がロス、筋肉ムキムキの方がカーターだ。

普通は逆だと言うものも少なくはなかったが、彼らは彼らなりの理由を持って体を作っている。


ロスの場合、剣を振るうのには体が柔らかくなくてはならず、また、彼個人の趣向として剛の剣よりも柔や速、つまり技巧の剣を求めた結果、無駄に筋肉をつけるよりも体を細くして被弾率を下げ、素早い動きで敵を翻弄し、圧倒的な技術で勝利を掴む事が合っていた。

カーターの場合、魔力が切れれば只の一般人よりも少し強い程度の的になる事を良しとせず、彼なりに思考を重ねた結果、肉体的な強さとして筋肉をつけ、力と質量を持って叩き潰す戦法を思いついた。また、彼自身は見かけから想像できる通り脳筋の基質がある。


「……カーター、少しは酒の量を減らしたらどうですか?まだ昼間ですよ?」


「んぐんぐ……プはー!うるせぇ、俺に俺の力の源を飲むななんててめえが言うには酒の一つぐらい飲んでからにしろ!」


「はぁ……。あなたは子供の頃からそうですね。魔法士なのですから、少しは記憶力を鍛えてください。私は、酒を飲まないのではなく、飲めないのです!いつも言っているでしょうに……」


「ガハハハ、知ってる!お前、前に酒飲んだらすぐに酔っ払ってそのまま──────」


「────────それ以上言ったら、酒代をもう渡しませんよ?」


そう、ロスが言った瞬間、カーターの顔は酒を飲んでいるにも関わらず青く染まり、動きが完全に停止した。


「いいですか?それは私の人生最大の汚点です。ダンジョンの中などの2人きりの状況ならともかく、公衆の面前でそれ以上言ったら……分かってますね?」


そしてロスが少量の、しかしハッキリとした殺気を放つと、顔に微笑を浮かべーーーしかし目は全く笑ってないがーーーいつの間にかガタガタと震え出していたカーターにクククッ、と笑いかけた。


「……おや、食べないのですか?せっかくの美味しい料理が冷めてしまいますよ?」


そしてその発言にカーターがハッとする直前に殺気を霧散させ、いつも通りの態度を取ると、本題を話し始めた。


無論、新規ダンジョンの制圧の流れの確認である。










「……って感じで魔法を使おうと思ったんだけど、発動しなかったんだよね。ヒカリはなんでか分かる?」


『迷宮内転移』でコアルームに戻ってすぐにヒカリに聴いてみたんだけど、何故かヒカリからは呆れの感情が滲み出ているような感じがする。え、何で?


『……マスター、あなたは馬鹿ですか?それともアホですか?』


「えっ、酷くない?!なんで今の話でそんな結論になるの?!」


『……マスター、剣術の知識は神でさえ引けを取らない剣の素人が、剣を握ったら神でさえ引けを取らない剣術を使えると思いますか?』


……え?いや、普通に考えてそれは無理でしょ……あ。


『そうですね、マスターが今考えた通りです。マスターは魔法的な罠の知識のおかげで魔法に関してはかなりの知識がありますが、魔法自体に関してはずぶの素人です。つまり、それは体が魔法を使うのに慣れていない状態で難易度が高い魔法を使おうとした結果です。または自業自得とも言います』


「……はい……」


『ですがマスター、魔法を使っていって体が慣れれば、マスターが想定している魔法を使用することは可能でしょう。練習あるのみです。』


「……はぁ、分かりました」


ヒカリのその言葉に、僕はガクッと頭を落としてため息を吐き返事をした。


『それと、これ以上ダンジョンを広くしてもマスターの策が露見する可能性が高いので、マスターが今創っている階層の次の階層を最後に魔法の修練をした方がいいかと』


ふむ……。それもそうだね。


「じゃあ、第五階層が終わったら、魔法の練習でもしようかな?」


『それがいいでしょう。ですがマスター、重要なことを聞いてませんでした。ダンジョンの入口を何処に設置しますか?もちろん、ダンジョン側と現界先の両方です』


あ、それがあったね。


「じゃあ、入口は第五回層の端っこ、僕の練った策の形の一直線になるようなところで。現界先は、僕の隠れ家の洞穴にしておいて」


『かしこまりました、マスター』


「じゃあ、頼んだよ。僕はダンジョンを創ってくるから」


そして『迷宮内転移』。

創っている途中だから中途半端な形になっているダンジョンを更に拡張していって、順調に事が進んでいることを知る。


そして四層、五層も拡張が完了して、取り敢えずは納得できる形になったことを一通りヒカリと喜んで、そのまま魔法の練習に入ったり。






まず、魔法の大前提として、魔法を使うにはその人の持つ適正属性しか使うことは出来ない。

いや、正確には出来ることは出来るがかなり難しい。

なぜなら、適正属性外の属性を操るにはその適性を持つ者が使った魔法と同種のものであったとしても軽く数百倍の魔力を使うかららしい。

そして属性とは基本属性と呼ばれる火、水、風、土、光、闇とその上位属性の炎、氷、雷、大地、光明、暗黒の六つと、特殊属性と呼ばれる空間、時間、召喚、夢幻の四つ、複合属性と呼ばれる無数の属性が存在している。


僕の適性属性は火の上位属性の炎、風、闇の三つ。

その中でも炎属性は最初から持っているのは幸運だった。

上位属性の中でも炎属性は破壊力に長けていて、威力を求めるには最適だろう。

風は空気の操作や作成が出来るし、闇は特殊属性には及ばないまでも召喚や契約、更にほかの属性との融合に長けている属性らしい。

まあ、実際に使ってみないとわからないけどね。


「……じゃあ、簡単なものからやってみるかな?」


まずやって見るのは炎魔法の前進、火魔法でも簡単な部類に入る火を起こす魔法だ。

熱を高めていけば火は出来ると母から教えて貰っていたから、それをイメージして現魔法で現実を操る。


イメージ……熱が高まるイメージ……僕の立てた指先の空間がものすごく熱くなるイメージ……完了。

魔力の練り上げ……少しで大丈夫かな?……完了。

そして自然と浮かんできた詠唱を唱える。


「『擦れ高まり顕現せよ、《灯火》』」


その瞬間、僕の指先には確かな熱が生まれ、恐る恐るいつの間にか閉じていた目を開けてみてみると、伸ばした人差し指の先に赤い小さな火が浮かんでいた。


その結果にぼんやりと惚けて、少しずつ消えていく火を見ながら僕はこんなことを考えていた。


なんか、村のヤツらが使ってた火よりも綺麗な気がする、と。


そして完全に火が消えて、しばらく余韻に浸っていたけど、次の瞬間にはハッとしてまた魔法の練習の続きを始めた。












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