躾言葉から推測する現状。そして、新たなる魔眼の創造①
朝日が昇り、冬に近づいてきたことを体感で感じられる程の寒さに身を震わせたリーは、ふと、自身に降り掛かった猛烈な疑問を無意識に声に出して呟いた。
「……ん?俺は……何でこんな所にいるんだ?」
いや、こんな所にいる理由は分かっている。
今日はこの牢にいる奴が逃げないよう見張る寝ずの番。
*¥∀♪$、が……
誰だ?この牢にいる奴。いや、確か……
そこまで考えた時、リーの頭にまるで鈍器で殴りつけられたような頭痛が襲ってきた。
まるで、それ以上そのことを思い出すのはやめた方がいいというような、本能的な叫びのようだった。
「ぐぅっ……」
突然うめき声を漏らしたリーに気づき、もう1人の寝ずの番が心配と困惑の感情を見せながら近寄って来る。しかしリーはそれに気づかず、すぐに引いていく痛みに軽く困惑していた。
「お、おい、大丈夫か?」
「あ、あぁ……。」
「……何があった?」
「と、突然酷い頭痛が……。でも、気の所為、か?今はなんともない……」
その言葉を聴き、相方は寝不足からくる頭痛だろうと解釈したのだが、その後に出てきた言葉に酷く驚いた。
「……なあ。……俺達が見張ってる奴って……一体、誰だ?」
「そりゃあお前、誰って……ぐっ、がぁ……頭が……」
リーは今まで自分たちが見張ってきた人物が誰だったのかを相方である男に聞いた。
それを聞いた相方の男も思い出そうとすると、突如として、先ほどリーが感じた頭痛を感じ、突然のことに呻いた。
そしてそれを見たリーは、さっき自分が、そして今は相方の男が感じている頭痛の正体を何となくだが推測することができた。
「……落ち着いて聞いてくれ。多分、俺達はこの牢屋にいたやつを思い出そうとすると、頭痛を、それも滅茶苦茶に痛みを感じる頭痛を味わう。それも、思い出そうとしなければすぐに収まった」
未だに痛みに呻く相方の男は軽く首を縦に揺らすと、リーは更に、自分が聞いたことのある……それも、世界中の
「聴いたことないか?『仲直りしないと、友達をダンジョンが記憶諸共食っちまうぞ!』って」
「まさか……」
「そのまさか、だと思う。この痛みはダンジョンに食われた記憶を思い出そうとして、だけど食われてるから存在しない記憶の不一致からくる痛みだと思う。思い出そうとしなければ、痛みはたちまち消えてくからな……」
それを聞いた男と、言ったはいいものの恐怖を感じたリーは顔を青くして、まるで打ち合わせをしたかのように同じタイミングで牢屋の中を確認するが、中には四肢を拘束するために使われたのであろう手枷足枷が無造作に転がり、村の宝物として伝わる純白の剣、『
□
「……やはり、皆も思い出せない、か。これで確定じゃな」
村の広場には、村長命令で強制的に集められた村にいた村人全員のうち、その凡そ半数が頭を抱えて地に蹲り呻いていた。
牢屋にいたはずの存在がいなくなったことを確認したリーとその相方の男は、『
戻ってきた。
村から牢屋までの距離はかなりあり、村についた頃には息も絶えだえだったリーと男であったが、自分たちが気づき、辿り着いた答えをいち早く村長に伝えるため、睡眠不足な上既にボロボロ体力に鞭打ち必死で村長宅へと走った。
そして全てを伝え終わり、気絶するように眠りに落ちた2人を解放するように周りに言った村長は、ついでとばかりに村長命令で村人全員を村の広場に集まらせるように命じた。
そして集まった村人に、牢屋に収監されていた人物に心当たりがある者がいるならば申せ、と語りかけた所、村人全員が頭痛を味わい、そのうち半数が地面に伏して呻いた。
そしてその様子を見た村長のつぶやきに反応した村人が、非難のこもった目で村長を見ると、僅かにその視線に怯んだ後、事情を話し始めた。
「ン"ン"ッ。今朝方、と言ってもついさっきなのじゃがな、村から離れた所に造った牢屋にいたはずの存在を思い出せんくなってしもぉた。無理に思い出そうとすると、今
村長の言葉の一瞬後、シーンと静まり返った村の広場にポツリと、酷く動揺した声が小さく、しかし静まり返った広場によく響く声が紡がれた。
「……ダンジョンの……思い出喰い?いえ、でも……」
「知っているのかの?マリア」
その言葉に反応した村長が声を発した女性ーーーマリアに声を掛けると、マリアは自分が声を出したことに気づいてなかったのか、周りを見渡し、自分に向けられる期待とも不安とも違う感情が乗せられた瞳を見ると、一瞬だけ深呼吸して自分の推論を語った。
「恐らく、いえ、十中八九ダンジョンの記憶喰いでしょう。でも、これは……」
そしてそこで言葉を止め、尊重に目を向けると、続きを促すように目で語っていた。
村長命令ならば仕方が無いと、続きを話していく。
「ダンジョンの記憶喰いは、おおざっぱに言えば今の状態です。ダンジョンが出現する近くにいるある一定の強さを持った生命を、その生命に関わりがあった生命から記憶ごと喰らうことで、出現する時のエネルギーとする。記憶を喰われた生命は喰われた生命を思い出すことが出来なくなります。そして、この現象は、ダンジョンが出現する凡そ一週間から一月前に起きます。つまり、この村の近くに、早ければ一週間、遅ければ一月でダンジョンが現れます。」
□
数日後、村には純白の修道着を着た複数の神官の姿があった。
マリアが神官修行をした際の伝手を頼り、すぐに都市の神殿から神官数名、そしてここにはいないが自由組織と呼ばれる組織の討伐部門から中堅所の強さを持ったパーティーがひとつ派遣された。
それは極めて普通の対応である。
この村は山の中にあるため時節魔物が現れることがある。そのため、村人は子供でも常日頃から数分から長くて数時間の鍛錬を行い、不測の事態に備えている。
とはいえ、毎日のように魔物が現れることはなく、そのためレベルは高くても35前後が1人と、その程度。
産まれたばかりの不安定なダンジョンを相手取るにはぎりぎりの強さと言ったところだ。
そのため、国と教会は自由組織員を雇い、村の安全とダンジョンの早期討伐を目標に実績のあるパーティーを派遣した。
そのパーティーこそ、年齢19歳にして中堅の実力を持つ才気溢れる若手の注目株、パーティー名『迷宮殺し』のロスとカーターの2人だ。
この2人は元々幼馴染で、互いに性格と行動、そして才能が噛み合い上手くいくことを知っている。
剣の才能に満ち、将来の剣聖と密かに噂される大雑把な性格のロス。
魔法の才能に満ち、一人しかつくことの出来ないジョブ、魔導帝に一番近いと言われる神経質な性格のカーター。
パーティーの依頼達成率、驚異の100%。
この経歴を持つパーティーが、『迷宮殺し』と名乗る所以。
それは、この両名の両親は
そして、新たな
□
「……うん。やっぱり殺さないとね、あいつら」
おっと、つい声に出てしまった。まあ、聞かれたところで何も問題がない事だからいいし、聞いてくれるのもヒカリしかいない訳で、別にいいよね。
まあ、つまり、思い出すだけで殺意が湧くほどに僕はアイツらを憎んでいるのは間違いない、それが再確認できただけでも十分すぎる。
「さて……」
取り敢えず、考え事をしている間にダンジョンの最下層、つまり、最後の防衛戦線としての役割を担う階層の切削作業が終わった。
これで終わり……ではない。
普通のダンジョンなら、ヒカリと初期知識によると最初期は一回層しかないのが普通みたいだ。それは単に『LIP』不足であると同時に、自分でダンジョンを掘るのを面倒くさがるダンジョンマスターが多いから、らしい。
つまり、階層を増やそうと思えばいくらでも増やせる。
しかも僕はほぼ自力でダンジョンを創っていたから、自力でダンジョンを創ることを苦とは思わない。
「よし、このままの勢いで、創っていこう」
実際、普通に動けるだけでも結構楽しい。何せ、5年位動かないでずっと性格を偽って過ごしてきたから、偽る必要が無いってだけでとても楽だ。
そう思いながらも、仕事はしっかりやる。
あえて残しておいた通路いっぱいにある壁の残り。それを上向きの階段の形状に削っていく。そしてある程度の高さまで進んだところでそこを中心に、またダンジョンの通路を伸ばしていく。
構造は基本知識と一緒に手に入ったアレを参考にして、その形になるように随時『迷宮把握』で形を確認しておく。
一ミリのズレで全く効果の違うものになってしまうから、自分まで巻き添いを食らうのは勘弁して欲しいからね。
「あ、ここ曲がり角、っと」
しかも、この体ってあまり疲れを感じないから結構便利だし。
お陰で不眠不休でも作業できる。
「あ、そうだ。手札増やしときたいし、ダンジョン創りしながら魔法の練習でもしとこっと」
僕のユニークスキル『可能性の眼』の効果で、凄く、それこそ村のヤツらの嬲りなんか足下にも及ばないと感じさせる激痛と引換に眼の『半独立化』という能力を獲得した。
この能力は眼が魔力を独自に生み出すだけかと思っていたけど、あれから度々ヒカリの『解析の魔眼』で調べたら、驚きの事実が分かった。
なんと、僕が制御していなくても魔眼が僕の設定したとおりの挙動をしてくれる。しかも、もう一つのユニークスキル『完全掃除』の様な座標指定型能力も合わせて使うことができるようなのだ。
つまり、僕は怠けても勝手に眼が働いてくれるわけですね。『半独立化』様様ですよ、痛かったけどね。
「早速『半独立化』っと……。さて、魔法の扱い方はっと……」
えーとなになに、基本知識と一緒に手に入ったやつによれば、まずは体内の魔力を意図的に動かさないとダメらしい。
と言っても、既に魔眼を使う時には目に魔力を集めてるわけだし、意図的に動かすのは簡単だ。
えーと、次は魔力を心臓付近にある仮想の臓器、魔臓に集めて、グルグル回転させながら徐々に圧縮して密度を高めていく。
……。
…………。
………………。
これでいいのかな?なんだろう、物凄く練り上げた魔力でポカポカする……。
あ、これで身体中の魔力が絶えず移動して体を強化するから、これが『身体強化』っていう一種の魔法なんだ。
で、次は、っと。練り上げた魔力を放出する訳だが、魔法の種類事にイメージをちゃんと持ち、イメージの補完として詠唱をしなければいけないらしい。
魔法の種類は大まかに分けて3つ。
それぞれ、理魔法、現魔法、捻魔法と呼ばれている。
理魔法
理(現実)を自身の魔力適性に従って改変し、あらゆる法則から解き放たれた現象を引き起こす。
現魔法
現実を自身の魔力適性に従って操り、純粋な現象として発現、操作、消去する。
捻魔法
自身の純粋な願いと魔力で魔法という名の奇跡を引き起こす。正しく現実を捻じ曲げる。
この3つが魔法の種類で、それぞれに利点がある。
理魔法があらゆる法則を気にせずに扱うことが出来るから、空気の無いところで炎を燃やしたりすることが可能。
逆に現魔法は現実を操るから、新たに何かを生み出したりすることは出来ない代わりに、物理現象として魔法を操ることが出来る。
最後の稔魔法だけど、これはものすごく特殊な魔法で、純粋な願い……つまり、一切の邪念が入っていない願いが必要だから、発動自体がとても難しい。しかも、純粋な願い自体が発現するのは大体死ぬ時とかだから、別名臨死魔法とも呼ばれていたりする。
また、それぞれの魔法の強弱を表すと、
理魔法↔現魔法
稔魔法→理、現魔法
っていう感じに相性があるらしい。
さて、以上の三つの魔法の特性を捉えた上で僕がこれから使っていく魔法。
それは、理魔法と現魔法の二つの魔法による、魔眼の意図的な創造だ。
そもそも僕の魔眼は、『可能性の眼』の効果でどんどん意識せずとも増えていく。
そして増えていく魔眼の傾向として、僕が必要だと願った性質を持った魔眼が創造されていく。
願った性質を持った魔法的な効果を持つ眼。
これは一種の稔魔法に類するものだ。
願いが現実をねじ曲げる力が固形化してて定着したモノ、とも言える。
だからこれから使う魔法は、正確には理魔法現魔法稔魔法複合魔法、奇跡と言い換えても過言ではない魔法だ。
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