ソウノ過去 終ワリト始マリ
創造神クリアは、自らが創った人々に自らの力の一部を加護として授けていた。
その加護は、人々の暮らしを楽にするだけではなく、病気や災害などに対する耐性を与えていた。
但し、その加護一つのために割く力は微小なれど、数百万、数千万の人々に与えれば、その分だけ創造神クリアの力は弱くなっていく。
創造神クリアが呪いを解くために必要な力は、加護を授けることで無くなっていくため、創造神クリアは苦渋の決断で加護を全ての人々から取り上げた。
加護を失った人々は、次々に病に倒れ、災害で息絶えていった。
飢饉が起こり、地は割れ、水が溢れ、溶岩が吹き出し、病魔が蔓延し、瞬く間に世界には「死」が溢れていった。
そんな中、ある日、一人の赤子が生まれた。
赤子ひとりならばただ喜ばしい出来事なのだが、その子だけは違った。
真っ白い髪に血のように赤黒い瞳。更には蝋のように気持ち悪いほどに白い肌。
数年前に現れ、大地を滅ぼし、殺戮の限りを施し、人々を誘惑していった悪魔と同じ姿形の赤子だった。
両親や周囲の人々は理解した。理解してしまった。
これが呪い。これが悪魔。
しかし、両親は諦めていなかった。
まだ赤子だ。これからの教育次第ではきっと悪魔のようなことはしないだろう、と。
そしてその子はすくすくと育っていった。
徹底した倫理教育。力を付けさせないために部屋の中で遊ぶことが楽しいと植え付けるための意識誘導。
そうした環境で育ったその子は、とても悪魔の子とは思えないほどの優しさと繊細さを併せ持つ子になった。
しかし、15歳の成人の日。
その子は忽然と姿を消し、2度と両親の目の前に立つとこはなかった。
それからはどこか、その子のいた村の空気が悪くなって言ったように感じられた。
ちょっとした事で怒り狂い、本能のままに生きる人間が増え、終いには殺し合い一歩手前まで行ったことも一回や二回では済まない。
それは、その村だけではなく、その村周辺の集落ややや大きな街でも同様に起こっていた。
そして、いつの日か人々の不満は限界を超え、互いに殺し合いを始めた。
殺戮の手はまだ正常であった村や街まで広がり、最後はその国を巻き込んだ大きな内戦に発展した。
その内戦で国が出した軍隊の総司令官の影には、真っ白い髪に血のように赤黒い瞳、蝋のような気持ち悪いほどに白い肌を持つ少年が、その赤黒い瞳を怪しく光らせながら佇んでいたという。
□
「────その後、その国は悪魔の子の魔眼……伝承では、『誘惑の魔眼』と呼ばれている魔眼によって滅び、内戦の火は周辺諸国へと移り、大乱の時代に突入したと言われています。
それ以来、悪魔の子はどれだけ正しく育てても成人する日には悪魔として目覚めてしまうことが判明して、成人する前に可能な限り
マリアから語られた創世神話、そして悪魔の子の危険性。
それを聞いた村の男達、そして村長は、暫くの間余韻に浸るような空隙を生み出し、その中のひとりが遠慮がちにマリアに一つの気になった事を質問した。
「あー、っと。マリア、つまり、悪魔の子ってのは、成人するとなぜだかは知らねぇが悪魔と同じようなことをする存在で、危険だから殺さないといけない、って感じの認識でいいんだよなぁ?」
「ええ、そのような認識で大丈夫です」
「っつう事は、だ。ルヴェーロとアミラの子供も殺すのか?」
「はい。悪魔の子全般に言えることなのですが、成人を迎えた時点で凶悪な魔眼に目覚める可能性が非常に高いのです。その魔眼は先ほどお話しました通り、人々に災厄を齎すものがほとんどになります。何故ならば、そもそも悪魔というのは創造神クリアに創られた人型……邪神が創り出した、人に害を与える存在です。その邪神が適応者を悪魔の同位存在へと変える呪いを掛けた訳ですが、その適応者……悪魔の子は、悪魔の同位存在となるだけの素質がもともとあるわけです。つまり、悪魔の子は言ってしまえば将来的に大犯罪者となる可能性の高い者がなる存在と言えます。
簡単に言えば、悪魔の子は将来的に大犯罪者となるであろう存在を器として悪魔と融合している存在です。故に、悪魔と同じ存在とみなし、生かすことよりも寧ろ殺すことを推奨しています」
一気に悪魔の子の根源的性質と生かしてはおけないかを言ったマリアの目には、狂信的な炎が宿っていた。
それに気づいたのはごく僅かで、常日頃から観察をしているせいで観察をEXスキルの領域まで昇華させた狩人のエルバンと村長、そしてルヴェーロだけだった。
「そんじゃ、今から殺しさ行くんか?」
村の男のひとりが、いよいよ確信をついた質問をすると、マリアは悔しそうに顔を歪めながら、頭をゆるゆると横に振った。
「……いいえ、殺しません」
その言葉を聞くと、集会場にいた面々は狐につままれたように困惑の色を顔に写した。
マリアの発言が、多少なりとも食い違っていたからだ。
悪魔の子をいち早く殺したいような雰囲気を醸し出しておきながら、それとは逆に殺さない。
困惑するのには十分だった。
「正確には、
「……む?なんじゃ?」
「メサから聞いたのですが……村の財政が少々厳しいとか」
その一言で、面々は明らかな同様を声に、態度に表し、尊重を凝視した。
「……どうゆう事だ、村長」
「俺たちゃ、ちゃぁんと年貢も収めた。冬も越せるように出来てたんじゃぁなかったのかぁ?」
村の男達が口々に村長を非難すると、村長はやれやれといった風にそうなった理由を語り始めた。
「……はぁ、みなも知っておるじゃろうが、先月、領主様が代替わりした。しかし、しかしじゃ。その新領主様がとんだ無能ときた。なんと、税をいきなり2倍に引き上げおったのじゃ!これまでの税でもギリギリだったのじゃが、その2倍ともなれば、もう村の貯蓄を少しづつ切り崩していかねばならん。そのせいで、財政はギリギリなのじゃよ……」
村長は憤りを顕にし、普段の温厚なイメージからはだいぶかけ離れた態度に、男達は黙ってしまう。
そのタイミングを狙ったかのように、マリアが再び話し始めた。
「村長、メサから聞いたところ、あと二十年もすれば貯蓄もなくなるとのことでした。ですが、その打開策が、それも10年や20年などではなく、100年先もこのままの税であれば安泰に暮らせる方法があります」
そのマリアの言葉に、村の男達はマリアを凝視し……
「その方法とは────」
□
「大丈夫、大丈夫。誰かが貴方を傷つけようとしてきても、私が守ってあげますからね。ふふ……」
村の外れ。
そこにある小さな小屋に、微かに披露の色が見える若干小柄な女性と、その女性に抱き抱えられている真っ白い肌に白髪赤眼が特徴の生まれて間もない赤ん坊が窓から差し込んだ月明かりに照らされいた。
女性はその後も、大丈夫、大丈夫……と繰り返し呟きながら、安心させるようにゆったりと腕の中の赤ん坊を揺すっていた。
「アミラ、入るぞ」
「……あらあら、いくら夫とはいえ、ノックもなしに入ってくるのはいささか弁えがないんじゃありませんか?私、たいへん驚いて心臓が止まるかと思いました」
急に扉を開けて入ってきた男に対し、赤ん坊を抱き抱えた女性はゆったりとした口調で、しかし言葉とは裏腹に微塵も驚いていない態度で顔に微笑を湛えながら闖入者と向き合った。
「……ふん、お前の持つユニークスキルの一つが心臓が止まった程度で死ぬことを許可するとは思えん。そも、お前の索敵能力はユニークスキルだ。この小屋に俺が向かって来ることぐらい分かっていたろうに。そんな能力を持つやつにいちいちノックしてる暇などない」
そういうや否や、男ーーールヴェーロは、アミラが抱えている赤ん坊の処遇について伝えた。
「喜べ、ソレの対処だがな、殺さずに成人するまでは育てる」
そう、一言伝えると、話はこれで終わりと言わんばかりに足を外へ向け、帰り始めた。
「……あぁ、一つ伝え忘れていた。
逃がすなよ?」
そう言うと、ルヴェーロは今度こそ言うこと言ったとばかりに帰っていった。
「……何だったのかしら、最後の一言……まあいいわ……良かった……この子を殺されなくて……。」
月明かりに照らされた小屋の中。
そこには赤ん坊を抱きながら涙を流す女性の姿があった。
□
それから時は流れ、僕の自意識がはっきりし始めたのは4歳の頃だった。
あとから考えれば早すぎるような気がするが、逆にこうも考えられた。
「耐え難いストレスに抗うためだったのだろうか」、と。
先ほどのことからも分かる通り、僕は若干4歳にして既に今でも思い出すと吐き気がするほどのストレスを抱えていた。
「おい、このクソ悪魔!お前はなぁ、世界の害悪なんだよ!あァ!?人間様に苦労掛けさせやがって!尊重からの言いつけがなけりゃあよぉ、ぶっ殺してやりてぇんだよ!」
「ん?なに?いたの?あぁ、ゴミに意識を割く必要ないからね、すっかり忘れてた」
「いい加減、死んでくれないかな、この村のためにも、な?」
と、このように、村の連中からは毎日毎日よく飽きないね、と思えるほどの罵詈雑言を頂いていた。
しかし、この言葉を受け止めるのはまだ4歳の子供だった僕である。
当然、耐えられるはずもなく、いつも泣きながら村のハズレにある小屋に帰っていったのを覚えている。
そうして逃げ帰った僕に、母は何も聞かず慰めてくれた。
母だけが、僕の
いつしか僕は、どんな暴言を聞いても表情が全く変わらなくなり、泣くことも少なくなってきていた。
自分の存在について母から聞いていたこともあり、すっかり諦めてしまっていたのかもしれないし、もう既にコワれかけていたのかもしれない。
そして9歳になり村のヤツらからの隠れ場所として洞穴を発見してからはそこに入り浸った。
まだ誰も起きていない朝に起きて洞穴へと赴き、アイツらの注意が散漫になる夜中にひっそりと家に帰ってきては浅い睡眠をとることを繰り返していた。
思えば、それが失敗だったのだろう。
ある日、いつもの通りに家に帰ると、いつも出迎えてくれるはずの母がいなかった。
そして妙に嫌な予感を覚えた僕は普段は寄り付かない村の広場にこっそりと行った。
広場は妙に明るくて騒がしく、不審に思った僕は目を盗んで葉が生い茂っていた木に登り、そこから何が起こっているのかを見た。見てしまった。
そこにはあらゆる意味でぼろほろになった母と、それを取り巻く村の全員。
そして……
……偶然捕えたかと思われる、
大きさとしては小型犬ほどの蚊の魔物。
主な食事は動物の生き血なのだが、その大きさから予想できるように、人一人分の血を吸ってようやく満腹になるような大食いだ。
しかし、真に恐ろしいのはそんなことではなく、そいつには本能的に
故に、つけられた名は愉悦の蚊。
そして、今重要なのは母がそいつの前に、まるで食事だとでも言わんばかりに無造作に、けれども血を吸いやすいようにわざわざ首を向けさせて転がされている。
そんな状況を見れば、子供でも分かる。
僕は慌てて骨に日々がはいることを厭わずに飛び降りようとしたが、それよりも愉悦の蚊の方が一歩早かった。
そいつは母に向けて口を伸ばし
その血を啜った。
そいつの口には返しがついていて、何より何らかの魔法かスキルを使っているのか決して抜けない。
その事を、僕はどこか遠くなって真っ白くなって真っ黒くなって歪んで逆さまになって赤くなった思考でぼんやりと考えていた。
僕には、そいつを止める力などなかったから。
何より、どこかで思ってしまったから。
ああ、この世はなんて理不尽で醜悪で汚くて怠惰で傲慢で汚らわしくて欲に塗れていて嘘偽りが平然と起きて蔑んで穢らわしいのだろう、と。
母はそれに殺された。
周りに殺された。
周囲に殺された。
世界に殺された。
そして何より………
見世物として殺された。
アイツらは、全員笑っていた。
今までの鬱憤を晴らすかのように
せいせいした顔で。
そこからは、何も覚えていない。
気づけば、蚊は母と一緒に燃やされていて、村の奴らは寝静まっていた。
そこからまた記憶は飛んで、朝を洞穴で迎えていた。
母の遺灰を抱きしめながら。
そしてそれが、現実からの逃避をさせてくれなかった。
そしてその瞬間、僕の
「ぷっ、ふくくっ、あは、あははは、あははははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハhahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahaha」
そしてそれが、
《ピロン!称号『壊レタ
《ピロン!称号『虚無ナル
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