ダンジョン拡張1
『さて、マスター。私の名前の由来が“私が光ってるから“という安直なものだったというのはこの際置いておきましょう。』
「あの、ヒカリさんや。もしかしなくても気にしてる?」
『いえいえ、私は、全く、これっぽっちも、私の名前の由来の安直さなど、露ほども気にしておりません。』
「いや、絶対気にしてま────」
『私は、全く、気に、してなど、おりません。い、い、で、す、ね?』
「ア、ハイ。」
悲しきかな。これでは完全に女の尻に敷かれた男の図である。
尤も、尻に敷いている女が
『はぁ、全く、マスターのネーミングセンスは恐ろしい程に壊滅的です。これから名前をつける時にはまず私にご相談ください。新たな被害者をこれ以上増やさないためにも。』
ひど!?そこまで言わなくても────
『いえ、これでもオブラートに包んでおりますので、そこまで酷くはないかと。』
……そ、そうか。あれでもオブラートに包んでたのか……。
あ、あははは、なんだろう、目から汗が……。
『いえ、それは汗ではなく涙です。そして成人したばかりとはいえ男がそのような体勢で泣いているのは少々気色悪いです。』
辛辣!?えっ、ちょっ、酷くない!?今の僕の体勢って所謂“女の子座り“だよ!あんまり、気持ち、悪、く………………うん、気持ち悪いね。僕の体勢。
『ええ、非常に気持ち悪いです。まだゴキブリを50匹見た方がマシです。』
更に辛辣!?それは流石にひどくない?!冗談だよね、流石に。
『ええ、勿論冗談です。………………(1割は)ボソッ』
ちょっと待って。なんか不穏な単語が聞こえたんですが、そこのところは何ですか?ヒカリさんや。
『おや、何のことでしょうか。それよりもマスター。』
なんの事って……はぁ、もういいや。それで、どうしたの?ヒカリ。
『いつまでこの茶番を続けますか?幾ら互いの思考を読み取って超高速会話をしているにしたって、時間は過ぎ去っていきますよ?』
あ〜、それもそうだね。じゃあ、もうそろそろ終了で~。
『かしこまりました、マスター。では、『迷宮核同調』のレベルを下げてください。』
ん、了解。
その言葉とともに、僕はEXスキル《
『迷宮核同調』とは、EXスキル《
第一段階『魔力同調』
これはダンジョンコアとダンジョンマスターの魔力を同調、共有化して、常時より多くの魔力を使用できる状態。但し、ダンジョンコアの魔力を使い過ぎるとダンジョンマスター自身にも影響が出る。
第二段階『思考同調』
これがさっきまでやっていた、互いの思考を読み取っての超高速会話ができる状態だ。原理としては第一段階で同調した魔力を通じて思考のやり取りをするらしい。これで長々と作戦会議をしたり、だべったりすることができる。しかも、理論上、光速を超えた思考会話も可能。デメリットは、あまりにも思考会話を早くしすぎると脳が焼き切れる可能性が有り、その結果として廃人となる事も有るんだとか。
第三段階『演算領域同調』
そもそもダンジョンコアは、その身に宿る膨大すぎる演算領域を使用し、擬似的人格を形成している。その演算領域は、僕の生まれた国の王都にある大陸一の学院、ジブナール天法学院主席合格者の約1000倍に及び、更にダンジョンマスターが強くなるとその演算領域も拡張していくんだとか。
で、この第三段階はその膨大すぎる演算領域を同調することで借り受け、基本的にはその演算領域を使って大魔法を速射・連射していくんだとか。原理としては第二段階で同調した思考を更に深く同調させることで演算領域まで同調する事が可能になるらしい。デメリットは、自分の意思で借り受ける演算領域を制限しないと、あまりの演算能力の高さから元に戻した時の反動が大きくなり、廃人一直線だそうだ。更に、それに追加で、あまりにも借り受けすぎるとコアの擬似的人格が維持出来なくなり、コアの擬似的人格が初期化されるそうだ。
そんなことを思い出しながら同調レベルを下げていき、最後に『迷宮核同調』自体を停止すると、一息ついたところでヒカリから声がかけられた。
『さてマスター、今後の方針ですが、まずはダンジョンが現界するまでにダンジョンを拡張してください。これが無ければ全てが始まりませんから。』
ちなみに拡張とは、『LIP』を使ってダンジョンを構築する際の専門用語だ。
「拡張……分かった。じゃあ、どれ位『LIP』はあるの?」
ダンジョンを拡張する際には『LIP』が必要となる。しかし、ちょっと待ってほしい。『LIP』とは『生命干渉ポイント』、つまりその名の通り生命に干渉するポイントだ。逆を言えば生命以外には干渉できない。その理論で行けばダンジョンに干渉して拡張など出来るはずがない。
しかし、現実では『LIP』を使用すればちゃんとダンジョンは拡張できる。
何故か。その理由は単純だ。何せ、ダンジョンは一種の魔法的生命体だからだ。
より厳密に言うならば、ダンジョンマスターのjobを持つ人物の魂がダンジョンと密接に繋がっており、色々簡潔に言うと詰まりはダンジョンそのものだからだ。
つまり、ダンジョンを拡張することとは詰まり、ダンジョンマスターの魂の拡張=魂の拡張=レベルアップ、という風に間接的にとはいえ生命に干渉しているので『LIP』を使用すればダンジョンを拡張できるという寸法だ。
『ありません。』
そう、『LIP』さえあれば。
「ふぇ?!ど、どういう事?!『LIP』がないって、えっ、ちょっ、えっ!」
『正確には初期資金として5000pがあったのですが、マスターが種族選択の際『ランダム』を選択し、そのまま新種族である魔眼族が創造された際、4000pが消費されました。』
まじかっ!新種族の創造にそんなにかかるとは……。盲点だった……。……あ、本当だ。今知識を確認してみたらちゃんとあった。新種創造って無駄にコストが高いんだね。しかも、
「……ん?でもさあ、それでも残り1000pは?何処に行ったの?」
でも、残りの1000pは使ってないし、一体どこに行ったんだろう。
知識にないかな……?
『残りの1000pは、
……あ。あぁぁぁぁぁぁぁぁ!うわぁー、マジかー……。……はぁ、まあいいか。ヒカリに名前を正式につけることが出来たし、何より……。
「魂の定着ってことは、ヒカリも1人の生命体になったんだよね?」
『そのようです。具体的には、マスターがフレンドリーに接してほしいと私に言った瞬間に魂が定着し、元々あった擬似的人格を素に人格が形成されました。これにより、『迷宮核同調』の第三段階『演算領域同調』のデメリットの一つである人格の初期化が消失しました。』
そっかー。それは良かった。消えるのは勘弁して欲しいしね。
ところで……
「ところでヒカリさんや。ヒカリさんが1人の生命体になったのはおめでたい事なんだけど、それはこの際置いておこう。問題は、『LIP』がない状況でどうやってダンジョンを拡張するんだい?」
そう、これが問題だ。『LIP』が無ければダンジョンは拡張できない。いや、正確にはもう一つ拡張する手段がないこともないんだが、それはあまり乗り気になれない。
何故ならば……。
『マスターはもう気づいておられるようですが、敢えて現実を見せましょう。
自力で穴を掘って拡張していってください。』
「ですよねーー!」
そう、これがやりたくない理由。
自力で穴を掘ってダンジョンを拡張して行かないとダメなのだ。しかも、『LIP』が枯渇している現在、ダンジョンモンスターを生み出すことすら出来ないので、完全に独力でやらなければいけないのだ。
「……はあ、やりたくないよ。でもやらないとダメか……。しかも道具がないから素手で……。幾ら
そうグチグチ言いながら、さてどうしようかと考えていると、急に眼が暖かくなってきた。
そのままどんどん温度が上がって、滅茶苦茶熱くなってきたんだけど、不思議と痛みとかはなく、逆に何処か心地いい感じがした。熱さ自体は村の連中に真っ赤に燃えた鉄を押し付けられた時以上なのに、どうしてか分かんないが心地よかった。
《ピロン!『可能性の眼』より、『切削の魔眼』、及び『並立の奇眼』が派生しました!》
「……んん?何?どういう事?」
『どうかしましたか?マスター。』
変な、それこそ言ったら悪いかもしれないけどヒカリの声よりも更に感情が削ぎ落とされた老若男女のどれかが分からない声が聞こえ、そのことに困惑しているとヒカリから声がかけられた。
「いや、なんか変な声が聞こえて、なんか派生したって言ってたんだけど……。」
『あぁ、それはマスター、『天の声』ですね。『天の声』は主に全ての生命体に、主にステータス面での変化を報告するシステムです。』
「へぇ、これが『天の声』……。ということは、何かステータス面での変化があったっていう事かな?」
『恐らくはそうなるでしょう。早速確認してみてはいかがでしょうか?』
じゃあそうするかな。
「『ステータス』」
******************************
name:ソウ
age:15
race:魔眼族 《王》Lv.1
job:ダンジョンマスターLv.1
state:通常
Magic aptitude:炎、風、闇
HP 220/220
MP 390/390
str 13
agi 15
dex 39
def ----(物魔耐性測定不可)
magi 36
EX skill
unique skill
完全掃除
可能性の眼
【魔眼】
└無璧の魔眼
└切削の魔眼
【奇眼】
└並立の奇眼
normal skill
体術Lv.3
農耕Lv.9
title
虐げられし者
痛みを知る者
生還者
可能性の塊『限定:眼』
ダンジョンマスター
選ばれし者
効かぬ者
新種族
*****************************
「『切削の魔眼』と『並立の奇眼』、ね。ていうか奇眼?」
まあいいか。分からないものは調べてみるに限る。
*****************************
『切削の魔眼』
視界の範囲内でのみ視認した対象を『切る』、『削る』ことに効果を発揮する魔眼。その対象には特に制限はなく、視界に収まってさえいれば効果を発揮する。
しかし、対象の耐性により効果が減衰しやすく、場合によっては無効化される。
*****************************
*****************************
【奇眼】
魔眼の中でも特に奇妙な構造をしている眼。故に奇眼。
奇眼は魔眼とは別に独自の構造をしているため、特異な能力を持つモノが多い。
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*****************************
『並立の奇眼』
自身のあらゆる『眼』の存在座標を、半異次元同座標にずらす奇眼。半異次元同座標にずらしている為、並立して魔眼を行使することを可能とする。
*****************************
「……なんともまあ、都合のいい能力だこと。まあいいか。」
そう呟きながら、僕はヒカリにこれを報告してみた。
『なんともまあ、都合のいい能力ですね。では早速、ダンジョンを拡張してください。因みに、ダンジョンが限界するまで残り320時間09分18秒です。』
「ん、分かったよー。詰まり、まだまだ大丈夫ってことだよね。」
そう問い返せば、ヒカリから肯定の返事が返ってきた。
「良し、じゃあ、頑張ってダンジョンを拡張しようかな。」
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