第4話 ハウスカースト
俺が中野に説教らしきものをした後、中野は悪びれた様子もなく、お金がもったいないから歌おうとか言ってきた。
え、何なの?こいつ人の話聞いてた?ていうか、あんだけキレたのに無視って逆にキツいんだけど。
俺も何度かマイクを向けられたが、全て無視。というか、流行りの音楽なんかと触れ合う機会がないから、急に振られても歌えるわけがないだろ。
こちとら、スマホで音楽も聞かなければ、居間に立ち入り禁止だからテレビで音楽番組も見ないんだからな。そんな傷をえぐるような行為は控えていただきたい。
そんなわけで、一時間ぶっ通しで中野だけが歌い続け、俺が九百円くらい払って帰った。
『リコーダーの件、あなたがどうするかは自由だけれど、どうにもならないようなら、また話しかけるわ。あなた、家あっちでしょ?私はこっちだから。それじゃあ、また』
なんで、金だけ払わされるんじゃ!っと文句を言おうとしたところ、中野は一方的にそう告げて去っていった。
その時は、いきなりの事で気付かず、キョドって『お、おう』とか言ったが、帰り道冷静になって考えて見ると、今の言葉は怖すぎる。
え?なんであいつ俺の住所知ってるの?もしかして、『陰山を自殺させる会』がもう俺の住所特定しちゃった?
住所までわかってるなら、周りくどいことしてないで直接殺しにこいよ!え?俺のために前科持ちになりたくない?
ああ、それな。俺って自ら手を汚すほどの価値はないよね、アハハ。目から水が……。
そうして、周りから可哀想な人を見る目で見つめられながら、帰路についた。
◇◇◇
俺は、家を前にして立ち止まっていた。
家。そこは楽園。学校で虐げられたぼっちが、唯一気を抜いてゆっくり出来る場所。
ならばもちろん、このスーパーぼっちにもそれが当てはまるのかというと、それは断じて否。
この陰山黒人、リア充でも並のぼっちでもない。俺は特別な、選ばれしぼっちだ。
スクールカーストのみならず、ハウスカーストでも最底辺に位置する俺は、家だろうと気が休まることはない。
というより、家の方が過酷まである。
なにせ、家では俺のことをいないものと扱ってくれず、悪口をこれでもかと浴びせられるからだ。無視するだけなだけ、学校はありがたいとさえ思える。
「た、ただいま……」
俺は、控えめな音量でそう告げ、ドアを開ける。そして、誰もいないことを確認すると、急いで自分の部屋へと向かう。
俺は、居間に入ることが禁止されているため、居間の奥のキッチンにも結果入れない。そのため、入室が許可されているのは、洗面所と二階(ここ大事)のトイレと、自室だけだ。
え、俺虐げられすぎじゃない?これ、児童相談所とか行った方がよくない?俺、もう児童って歳ではないけど。
風呂も沸いておらず、トイレにも行きたくない今の俺が行けるのは自分の部屋だけ。ならば、あいつに気付かれる前にさっさと部屋に行こうと思ったのだが、そう上手くもいかなかったようだ。階段の一段目に足をかけたとき、後ろから、声がかけられる。
「おい、あんた」
俺は後ろを振り向く。そこには、胸の前で腕を組み、首にヘッドホンをかけた妹の姿があった。その風貌は、THE イケイケの女子高生といった感じだ。
ちなみに、眼が無茶苦茶鋭い。『今まで何人殺した?』と尋ねたら、『百から先は数えていない』と返ってきそうなレベル。
「ただいま……、陰山さん」
陰山さん、というのは勿論妹のことだ。しかし、別に妹の名前が陰山さんなわけではない。
妹には、
あれは、忘れもしない中二の夏休み、妹が友達を家に呼んできた。俺は、そんなことは知らされずにいたから、一人で何を騒いでいるのか、と思い部屋の外から呼びかけたんだ。
『
と、それだけ。
それだけしか言っていないって言うのに、友達が全員帰ったあと、俺の部屋にずかずかと入ってきて、
『そう呼ぶの、やめて。これからは、陰山さんって呼んで。あと、これから居間の私の部屋に入るの禁止』
と言い渡されたのだ。
冗談だと思っていたが、これがマジだった。それ以来、俺は居間に立ち入っていないし、俺は妹のことを陰山さんと呼んでいる。
世界広しと言えど、こんな変わった呼び方をしている兄妹は俺たちだけだろう。ちなみに、妹は俺のことを『あんた』と呼んでくる。
よくあるじゃん?ラノベとかアニメでさ、ぼっちなのに妹はとびきり可愛くてさ。なぜかめっちゃお兄ちゃんに懐いてるやつ。
あれ、嘘だから。現実、これだから。赤の他人にも嫌われるような人間が、それよりももっと醜い部分を見ている身近な人に好かれるわけないから。これ、世界の真理。
陰山さんは、チッと大きな音を立てて舌打ちをし、更に鋭い目つきをこちらに向けてくる。
「ただいまじゃねぇよ」
え?どこのヤンキーなの、この子。私、こんな子に育てた覚えはないわ!
まあ、俺が陰山さんを育てたわけじゃないから、育てた覚えがないのは当たり前なんだけどな。
「あんた、陽川白乃さんに嫌われたんだってね?」
お前、どこの女番長?本当に俺の妹?
なんで、俺の妹なのにこんなに個性が盛り沢山なの?その個性の一つでもいいから俺に分けてくれよ。
いや、でもこの俺の顔にこんな偉そうな性格だったら、ただ単にいじめられそうだけどな。
え、もしかして陰山さんもいじめられてるの?それで、その鬱憤をはらすためにお兄ちゃんをいじめるの?
そんなわけないか。こいつ、高一のくせに、高二にまで名を轟かす程の、ドがつくリア充だからな。
この、ドリア重め!なんか、食べ物みたいになったよ?
「あんた、早く答えなさいよ」
え、何この昭和の夫婦みたいなやりとり。
とか何とか思っていたら、腰をがしっと蹴られた。
痛っ!っていうか、俺を蹴った足を何でタオルで拭いてるの?拭くくらいなら、最初から蹴らなきゃいいよね?
嫌がらせ?いや、嫌がらせってことはわかってるんだけどね。
「あぁ、嫌われたな。堂々と嫌い宣言されたぞ?いっそ、清々しい程にな」
「聞かれた事以外、喋るな。耳が汚れる」
俺、もう家出したい。でも、家出先がないから家出のしようがないんだけどな。
ほら、よくあるじゃん?家出して友達の家に居候的なあれ。俺、友達いないから出来ないわけよ。
愛と勇気しか友達がいないとか、どこのアンパンマンだよ。もしかして俺、正義の味方?
「それで?嫌われた理由がリコーダー窃盗ってのも本当なの?」
いや、俺が盗んだわけではないが、嫌われた理由がリコーダー窃盗ってのは事実ではある。それに、細かいことを言っても、頭の中に犬の脳が入っている陰山さんには理解できないだろうからな。
「ああ、そうだ」
影山さんは二歩ほど下がり、
「キッショ」
と言って、俺の足元に唾を吐いた。
え?それ、家の中でしていい動作じゃないからね?あと、唾を吐く女子高生とか、そっちの方がキショイと思うぞ?
……いや、リコーダーを盗む男子高校生とだったら同格かな。
「大体、あんた、リコーダー盗んで何したの?舐めたの?うわ、気持ち悪い。吐き気がする」
いや、舐めたとは一言も言ってないよ?大体、今陰山さんが今言った言葉は、全て俺が真犯人の上沢に言ってやりたい言葉だぞ。
「ねぇ、お母さん!さっき言っといたこと、調べてくれた?」
陰山さんが、居間に向かってそう呼びかけると、はいはーいと言いながら、軽快なステップで母が居間から出てきた。
あんた何歳だよ。雰囲気、ほんわかしすぎだろ。
「人身売買のことでしょ?海外のサイトとかも調べてみたんだけど、売ることはできないみたーい」
そして、雰囲気がほんわかしてる割に、言ってることが怖すぎる。トラウマ級だよ、ホント。
おかしいでしょ?母親なのに、子供を売るためのサイト調べるとか狂気でしょ?
なに、この家怖い。こんな家で育ったら、絶対ろくな人間に育たない。実際、二人ともろくな人間に育ってないけど。
「代わりに、養子縁組の所調べてみたんだけどー、流石に高校二年生を養子にしようって人はいないみたーい」
ねぇ、それ冗談だよね?
なんなの、君たち。怖すぎるよ?警察呼ぶよ?自殺するよ?もしかして、この二人も『陰山黒人を自殺させる会』の一員だったりするわけ?
俺がそうして恐怖に慄いていると、
「そう。ありがと、お母さん。それと、あんた。あんたがそういうことすると、私まで変な目で見られるから。次にこういうことしたら、殺すから」
俺が、その言葉に怖がりそのまま立ち止まっていると、
「あんたの姿なんか見たくねぇよ。早くどっか行け」
と、再び陰山さんは俺を蹴る。
あのー、タオルで足拭いてるの、見えてますよー。それなら最初から蹴るなっての。大体、陰山さんが吐いた唾の方が汚いよ?
「黒人、今夜もご飯、部屋の前に置いておくから」
と、俺が階段を上り始めると母親が俺にそう告げた。
やっぱりおかしいでしょ。居間侵入禁止って何なんだよ。子どもホットラインの番号って何番だったっけなー。
俺は部屋に入り、はーっと溜息をつき、ベッドの上にバフンと飛び込む。
しかし、陰山さんにこれ以上迷惑がかかり家の中での俺の立場が更に悪くなるのも、再び中野に同情されるのも勘弁だ。
ぼっちにも強みがある。周りの目を気にせずに立ち回れることだ。これは、リア充にはプライドが邪魔で逆立ちしたって無理なことだろう。
「やるか、下克上。ぼっちの力を見せてやるぜ」
「でも……」
ふぁ〜あ、と間の抜けたあくびが出る。
「――今日は疲れたから寝るか。明日になったら始めよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます