第3話 中野さんとのウフフな放課後
今、俺はカラオケにいた。
そう、カラオケ!あの、カラオケ!どこぞのリア充共が、足繁く通うというカラオケ。
どうせ一人なんだろって?否。俺はカラオケに一人でなど来ていない。
大体、一人きりでカラオケに行ける程の精神力を俺は持ち合わせていない。多分、俺のスタンドは蟻とかに違いない。
それはいいとして、俺は今、中野緑と二人でカラオケに訪れていた。
中野緑!そう、あの中野緑!とか言われても、俺はさっきまで名前も顔も知らなかったのだけれど。
一ヶ月半ほど同じ教室で時を過ごしたというのに、名前も顔も知らないとは……。
もしや、忍の先輩でしたか!?と、そんな訳もなく、彼女はそこら辺の一般リア充の一員だと言う。
というか、そこらの一般リア充よりは格が高いらしい。なにせ、あの後俺と二人きりの放課後の教室(この言い方だと、めちゃくちゃリア充っぽい)で、自分が校内第二位の美少女だとのたまったのだ。
勿論、俺は馬鹿にしてやろうと思った。
俺は、自意識高い系のリア充が大嫌いだ。というか、リア充全般が大嫌いだ。奴らは、自分は可愛いだの格好いいだの阿呆みたいな幻想を抱いているのに、他人への評価はなぜか辛口なのだ。自己評価は、甘すぎて糖尿病にかかるレベルなのにも関わらず。
まだ、本人以外がそう言っていたなら信じようがあるが、自分から校内第二位の美少女と言うのは惨めすぎる。
そう正直に言ってやろうと思ったのだが、『お前自己評価高すぎな。キモいぞ』の『お』の字を言い終わる前に、
「黒人君、黙って。あなたと話している所を見られたら、私いじめられるわ」
と、冷たい声と冷たい目で一蹴されたのだ。
え?最初に話しかけてきたのお前だよね?何なの、お前。女王さま?
色々文句は言いたかったが、俺は飲み込んだ。俺は大人だから。大人だから!
断じて、あの目が怖かったわけじゃない。大事な所だからもう一回言っとく。怖かったわけじゃない!
まあ、そんなわけでカラオケに来るまでは終始無言。それどころか、最低五メートルを開けてついて来いとまで言われるほど。
カラオケに入る際も、『私が入ったら五分後に入ってきて』と言われた。
何?あいつ俺に恨みでもあるわけ?やっぱりあれか?助けるとか言って、望みを持たせて突き落とすっていうあれ?
来るまでに色々とあったわけではあるが、カラオケの中では二人きり。
多分、そこら辺のリア充であれば発情し、様々な期待を抱くことだろう。だが、この俺は違う。そんな意味の無い妄想はしない。
そんな妄想通りの出来事は起こらないと分かっているからだ。妄想は、妄想に過ぎない。
いや、本当だよ?妄想が実現しなかったことと、そんな妄想を抱く自分のキモさから生まれるショックを減らすための予防線とかじゃないからね?
そんな益体の無い脳内会話で、緊張を紛らわす。キモいからやめろって?他にすることがないんだから仕方ないだろ。
スマホ?落ち着け、親にさえブロックされるような俺だぞ?何をやれって言うんだ?
ゲーム?え、何か?フレンド枠が0人になっているのを見せて、絶望させたいの?
チーム対戦とかでチームを組んだ人に送ったフレンド申請さえ拒否されるんだぞ?なんなの?『陰山を孤立させる会』でもあるわけ?その会合が、俺のゲーム名でもバラして、フレンド申請を拒否するように圧力とかかけてるの?いや、どこのFBIだよ、それ。
てか、そんなに俺に自殺して欲しいんなら、直接言ってよ!熟考するから!
コホン、と中野が咳払いをする。そして、ギロリとこちらを睨んでくる。
やめて下さい。普段は誰にも見られないのに、そんなに熱い視線で見られたら惚れちゃう!ってのは嘘で、怖いからやめて。怖いから!
「黒人君、あなたの欠点を十個あげなさい」
「へ?」
わかっていたさ。俺にとって良い事が起こるわけじゃない、なんてことはさ。
でもね?これは違くない?俺をリコーダー窃盗の犯人に仕立て上げた上沢灰悟について話があるって言ってたよね?
何これ?やっぱりいじめ?あ、もしかして録音とかしてるの?それで、二年D組のクラスラインとかに載せるってのか?
でも、それが本当だったとしても俺に確かめようがないんだけど。え?なんでかって?そりゃあ俺がクラスラインに入ってないからに決まってる。君、そんなことも分からないならぼっち検定七級からやり直しね。
ていうか、録音してなかったとしても、ここで自分の欠点を十個言わされるって時点でかなりの拷問なんだけどね。
「あら?足りなかった?なら、百個で」
「いや、おかしいだろ!上しゃわ灰悟が俺を嵌めた件について教えてくれるんじゃなかったのかよ!?」
噛んだ。噛んだ……が、何とか持ち堪えた。何事もなかったかのように話し続けたから気付かれていないはずだ。
「私、上しゃわ灰悟さんとはお知り合いではないわ」
こいつ、首絞めてやろうか。そんでもって俺の首も絞めてみようか。
「まあ、冗談はこれくらいにして、本題に入りましょう」
「そうしてくれ」
「私、見たのよ。上沢灰悟が陽川さんのリコーダーをあなたの机にいれる所をね。おそらく、リコーダーがないことに陽川さんが気づき、証拠隠蔽のためにリコーダーをあなたの机に隠し、罪をなすりつけたのでしょうね」
「そうだとして、なんで陽川が俺の机にリコーダーが入っていることを知ったんだ?」
「あなたがトイレに行っている間に、探したらしいわ。多分、上沢がそうなるように誘導したのよ」
「そうか。それで色々納得した。机の中にリコーダーがあり、それが完全な証拠となったから、陽川白乃は俺を犯人と決めつけ、嫌いだと言ってきたわけか」
「えぇ、そういうことね」
「そこまでは分かった。けど、それと俺の欠点十個がどう関わってくるのかが分からない」
「え、ああ、そのことね。それじゃ、あなたが何で上沢の標的になったか分かる?」
「個人的な恨みがあったのか?いや、ないな。俺はあいつと話したこともない。というより、あいつを視界に入れたことさえ数える程しかないはずだ。わざと見ないようにしてたからな」
「あなたこそ彼に恨みでもあるの……?」
「あると言えばあるな。リア充は全員敵だからな。それで、俺が標的になった理由は?」
「あなたが友達が一人もいない陰キャラぼっちだからよ」
あ、分かった。こいつ『陰山を自殺させる会』の会長さんだ。
いや、何?俺が知らない間に俺のための会合ができてたのかー。まるで人気者だ。
お父様お母様、ごめんなさい。俺は、忍になれそうにありません。こんな親不孝者をお許しください、と謝ってしまいそうなレベル。
「あなたがぼっちだから、あなたを庇う人間が一人もおらず、あなたに注目する人もいないからリコーダーをあなたの机に隠しても気づかれない、と思ったのでしょう」
「それが、俺が標的になった理由か。そんでもって、お前は俺に自分の欠点を言わせて、しょ、その理由に自ら気づかせようとしたってわけか」
「えぇ、それで合ってるわ」
もう慣れたのか、それとも飽きたのか中野は俺が噛んだことには触れない。俺としては、慣れたのであって欲しい。
飽きられるとか可哀想でしょ?俺の数少ない個性のうちの一つだったというのに!
まあ、良い個性じゃないんだけどね。でもさ、良い個性なんて俺に一つもないから。悪い個性でもないよりはましでしょ?
「ところで、お前は何で俺の味方になったんだ?」
これは、初めから俺が気になっていたことだ。友達でもないのにどうして俺を助けるのか。
「それは……!」
中野は、なぜか一瞬うつむき、顔を赤らめる。しかし、すぐに顔をあげる。その時には、既に赤みは引き、冷たい顔をしていた。それは、まるで意図して作られたかのような顔で……
「あなた、このままだといじめられるでしょ?真犯人を知っているのに、黙ってそれを見ていられなかったからよ」
と、彼女は冷たい声でそう言いのけた。
分かっていた。俺に話しかける奴が持つ感情が二パターンであることは。
一つ目は、悪意。そして、二つ目は同情。
「俺が嫌いな物は三つある……」
俺は、下唇を噛み、拳を握りしめる。
言ってやらなければ、こいつに!自分を俺よりも上位の存在だと思い、同情を投げかけてくるこいつに!
「俺が、嫌いな物は……!」
「ごめんなさい。声が小さくて聞こえないわ。ほら、これマイク。使いなさい」
中野はマイクを差し出してくる。
「いらんわ!俺が嫌いな物は三つある!
第三位!同情!
第二位!リア充!
第一位!リア充の同情だ!」
そう、同情なんていらない。同情するくらいならば金が欲しい。
人が、俺に同情する度に金をくれていたのなら、俺は今、日本を私有地にしていただろう。そして、そこに一人で暮らしていただろう。
「俺は、お前からの同情なんざいらねぇ!そんな気持ちで俺に近寄るな!この問題は俺一人で解決する!お前はもう関わるな!」
言ってやった。俺が、生まれてからこの方ずっと溜め続けてきたこの感情を、ぶつけてやった。
よかったはずだ。まるで、ドラマで見る修羅場のようだったはずだ(俺は、居間に入ることが禁止されてるから見たことないけど)。こいつの心にも響いたはずだった。なのに、なんでこいつは!
なんでこいつは、さもドラマのバックミュージックであるかのように、『会いたくて会いたくて』をカラオケで流し始めるんだ!
悲しい曲ではあるけれど、それ失恋ソングだろ!
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