第7話

 テスト期間が近づく今日、この頃である。朝のショートホームルームのことである。担任が巫女装束の少女を連れてくる。その見た目は幼女巫女であった。


「転校生のフリルスだ。仲良くするように」


 この学校で転校生?など思っていると。わたしに近づきながら歩いてくる。目が合うとフリルスは言った。


「お姉ちゃん!!!会いたかったよ」


 へ……?


「わたしはフリルス、聖剣の巫女と対じする、聖鏡の巫女……わたしは人類の最終兵器なのよ。聖剣が最弱なら、わたしは最強の存在なの」


 はぁ?


「この滅びかかった人類の救う鏡……お姉ちゃんの剣の勇ましさでわたしの鏡が輝くの」


 何だか分からいが、この転校生は頭が悪そうである。それともこの進学校に転校してくるのだから、天才なのかもしれない。しかし、『お姉ちゃん』と呼んで良いのはタチバナだけである。はっきりと言う事も大事である。


「フリルス、『お姉ちゃん』は止めて、妹ラブなわたしはご機嫌斜めなのです」


 しゅんと沈んでしまうフリルスは泣きそうである。転校生をいきなり沈めてしまった。ここはフレンドリーにしよう。


「ジョブ、ジョブ、『お姉ちゃん』以外なら、何でも良いよ」

「なら、『姫お姉様』でどうですか?」


 ま、問題ないでしょう。わたしは『グッド』と決めポーズをする。


「お、お、お、姫お姉様……我が友の姫お姉様だ。で、わたしはフリルスで問題ないわね」

「そうなの……」


「今年で21歳になりますけど」


 は?年上?問題アリアリじゃん。ここは整理しょう。え~と、フリルスは聖鏡の巫女で、最強の存在で、人類が滅びかかっていて、聖剣の勇ましさで聖鏡が輝くと、何故か21歳の女子高生???だから、制服でなく巫女装束なのか。


「フリルス?あなたは何者?」

「え?姫お姉様も知っているはずです」


 はて、などと思っていると、冥がかいだるそうにやって来る。


「聖剣はただ一つの交換なら、聖鏡は一つとすべてと交換を意味する」


 冥か……、最近見ないと思っていたら、何を言うかな。……うーん、聖剣が最弱なのは引っかかるがわたしがいないと聖鏡が輝かないとな。


「先生、フリルスの体調が悪いそうなので、保健室に連れていきます」


 などと言って教室を抜け出す。廊下を歩きながら話でもしようかと思いきや、腕を組んでくるフリルスであった。うううう、妹ラブなわたしは年上には興味が無いのであった。


「姫お姉様と会えて、わたしはラブラブなのです」


 ぐで~ん、しゅしゅしゅ、複雑な気分なのです。聖剣と聖鏡は対になるもの……何故か好かれてしまったのです。さて、廊下を歩いていても仕方がない、目的地は屋上にしよう。


「愛があれば~♪」


 などと歌い出す。


「姫お姉様、素敵です」


 そうかな、えへへへ……と。うん?妹のタチバナには何時もバカにされているぞ。そうかフリルスは愛情に飢えているに違いない。姫お姉様として、むぎゅ~してあげれば問題は解決するはずだ。わたしはフリルスを後ろからむぎゅ~とする。


「姫お姉様、大胆です。でも、嬉しい……」


 更に、フリルスラブな一枚を撮りたいと提案してみる。


「良いのですか!姫お姉様は最高です」


 二人はくっつき、スマホをわたし達に向け一枚撮る。フリルスラブな一枚が撮れた。二人とも笑顔である。


「わ、わたしのスマホにも送って下さい」


 そう?なにか渋々に添付メールで送る。


「なーー、姫お姉様との一枚が届きました」


 よし、これで愛情に飢えたフリルスに愛が補給されたぞ。などと屋上で騒いでいると。


「お姉ちゃん!!!バカなの???」


 おや、聞きなれた、声が聞こえる。タチバナが屋上にやってくる。


「ハロー」

「お姉ちゃんが倒れたと連絡があって、探してみたら、なに油うっているの」

「お姉ちゃんは元気だよ」


 やれやれ、タチバナは心配性だな。でも、怒らせてしまった。


「初めまして、フリルスです」

「このちびっ子は誰ですか?」


 そう、フリルスは身長が低くポニテの黒髪に若作りの見た目、小学生ぐらいの雰囲気なので、ちっちゃなお友達に見えるのであった。


「ちびっ子って言うな」


 タチバナに今日転校してきた、自称21歳のフリルスだと説明する。


「なるほど、わたしは何と呼んだらよいのでしょ?」


 フリルスはプルプルしながら、言葉を詰まらせて。


「タチバナさんフリルスと呼んで下さい」

「お、おう……」


 タチバナはどうしてよいか分からず返事だけ返した感じだ。……さて、授業に戻るか、などと思うお姉ちゃんでした。


それから授業に戻るとフリルスは斜め右後ろに座る。フリルスは気配が違った。聖鏡がただの鏡では無いことを感じさせた。


 休み時間。


「姫お姉様……この聖鏡は世界を救う代わりに一人の命を使います。わたしにはその覚悟ができました」


 真剣な言葉がフリルスから発せられる。


「一つ聞きたいよ、フリルスとは通り名ですか」

「秘密です」


 スマホをフリルスに向け。


「秘密です」


 フリルスラブな一枚を撮るよ。などと言ってみる。


「姫お姉様には勝てないな~でも、秘密です」


 フリルスの目つきが一旦緩んでも再び切先の様にとぎすまされた瞳に変わる。なんだろう?この思いは……。心が熱く感じる、背中の聖剣がうずく。聖剣を手に取り、言葉を選んでいると。


「聖剣がうずくのですね、姫お姉様が本物の証拠です」


 聖鏡か……。あれ?聖剣だの聖鏡だの言っている暇はないこの後は英語の時間だ。お姉ちゃんは聖剣をかざし、英語の授業よ、おさまりたまえ!などと願ってみる。


『お姉ちゃん、バカなの?』


……うん?


 タチバナからのメッセージだ。何故、聖剣で英語の授業を乗り切ろうと頼った事がばれたのであろう?


「姫お姉様、聖剣の使い方が違うので、タチバナさんに『いつものお姉ちゃんだよ』とメッセージを送ってみました」


 うむ『いつものお姉ちゃんだよ』で『お姉ちゃん、バカなの?』は妹ラブなお姉ちゃんにはごちそうである。お姉ちゃんはタチバナを想像してニタニタしていると。


「姫お姉様!!!妹ラブなのですね!わたしも!わたしも!仲間に入れて下さい」


 ……うーん、見た目がいくらちびっ子でも年上だしな……。首を傾げる、お姉ちゃんであった。


「姫お姉様の苦手な英語の個別指導もしますよ」


 それは朗報。さて、きっと何かと交換だ。


「姫お姉様の一番大事なモノをください」

「妹コレクションが欲しいの?」

「はい、ありがとうございます」


 はて?妹コレクションなどなに使うのであろうか?


「姫お姉様が写っていれば宝物です」


 コピーが面倒くさいな~~~お姉ちゃんは決めポーズをして。


「今日の一枚で問題ない?」

「はい、毎日、今日の姫お姉様を撮りたいです」

「愛があれば~♪」


 と、歌いながら、グッドをする。


「はい、姫お姉様!!!もう、人類滅亡などどうでも良いです」


 そこは問題にしなくて良いのか?ま、見た目がちびっ子だしな。


 英語の授業を終えて、ぐで~んだ。うぅ、お腹空いたな。


「姫お姉様、お茶です」


 なかなか気が利くな。ペットボトルのふたを開け、飲み干す。うい……。しかし、この学校はどうなのであろう?巫女装束のフリルスをなんの抵抗も無く受け入れてしまう。校則では学校が許可した格好とのこと、ブレザーの制服でなくても問題ないらしい。


「フリルス、今日は近くのスーパーで買い物でもする?」

「はい、姫お姉様」


 なんだか平和な時間が流れるな。


「姫お姉様、聖鏡が隠れた闇を感知しました」

「闇……?」

「闇の持ち主を死へと誘う深い闇です」


 この平和な時間に闇ね……。クラスメイト達は雑談に勤しみ。恋バナ、将来の夢、先生の愚痴に……。うーん、平和だ。


「星に願いを~~♪」

「きゃひん!姫お姉様、素敵です」


 そうかな、妹のタチバナにはバカにされているけど。


「えぇ、姫お姉様には華があります」


 さて、フリルスの相手はともかく。お昼まで、惰性の授業だ。背中の聖剣が重い、お姉ちゃんは聖剣を手に取り掲げてみる。何も起こらなかった。


「今の姫お姉様にとって聖剣とはなんです?」


 わたしは聖剣の巫女……それだけの存在。光、輝く者でなく聖剣の所有者というだけであった。ふ~う、一息入れよう。聖剣を背中に戻し、惰性の授業を受ける。いつも間にかお昼だ。生徒数が減って使われなくなった空き教室でお昼で、タチバナも呼んでご飯である。皆、お弁当を広げ食べ始める。


「姫お姉様、わたしの作った卵焼きを食べて下さい」


 気のせいだろうか?炭にしか見えない。


「少し黒いですが、大丈夫です」


 炭だし、炭だし、炭だし……。


「わたしは料理が出来る系の女子です」


 フリルスのお弁当を見ると素材が何か分からない物ばかりである。


「姫お姉様はわたしの料理でメロメロになってもよいのですよ」


 素直に遠慮しよう。


 ?

 

 突然、目の前が真っ暗になり、お姉ちゃんは意識を失う。気が付くと保健室のベッドの上だった。辺りは夕方の黄昏が広がっていた。独りか……。わたしは起き上がると時間を確かめる。こんな時間、帰らなきゃ……。


「どうだ?妹のいない世界は?」


冥が言葉をかける。わたしは……。それから、何処をどうやって帰ったのか分からなかった。今日が行き過ぎ、時間だけが流れていた。


 わたしは……お姉ちゃん……。


「お母さん、妹のタチバナは何処?」

「何を言っているの?タチバナは五年前に……死んで……」


 わたしは自室にこもり、ベッドに横になり。記憶の混乱にさいなまれていた。わたしは右目を手でおおい、天井を見入る。そうだ、スマホを調べてみよう。スマホを手にしてみるが何故か電源が入らない。


「今、スマホの電源を無理に入れると時間軸が固定されてしまうよ」


 冥……わたしは冥を睨んだ。


「オイオイ、八つ当たりは困るな、なんのきっかけでこの世界に来てしまったのか知らないけれど、君はここの住人ではないようだ」


 わたしは冥に手を伸ばすと消えてしまう。再び現れたのは、真後ろの机の上であった。


「君の世界での時間軸は妹がいて平和だが、この時間軸では五年前に妹はいなくなり、君の心に闇が溜まっていく。このままでは聖剣と君の闇とが反応して君の命を奪うだろう。僕もそれは本意ではない」

「では、どうすればこのタチバナのいない世界から出られるの!」


 わたしは叫んでしまった。タチバナのいない世界なんて要らないからだ。そうか、気を失えば元の世界に戻れるのね。わたしは柱に頭を打つ付け様とした瞬間に気を失う。


「バカな子だ、妹の居ない世界をそこまで嫌うとは、これは我の『慰め』だよ」


―――……


「お姉ちゃん?」

「お姉ちゃん??」

「お姉ちゃん???」


 タチバナの聞きなれた声が聞こえる。それは近くの病院の救急のベッド上で天井を見上げる。左目を隠し起き上がるとタチバナがキョトンとしている。隠した左目をそっと開きスマホを見る。妹コレクションがスマホに広がる。ふぅ~

安心したのかまた、意識を失いかける。


「お姉ちゃん、何だかよく分からないけど、数時間は安静にしてないとダメです」


 消えかかる意識の中でタチバナが言葉をかける。


「わたしはお姉ちゃんにラブだよ」


 再び目覚めると、タチバナはいなかった。スマホには妹コレクションが広がり、元の世界である事を確かめる。わたしは左足に痛みを感じていた。医者から難しい病名が説明されるが要はただの貧血とのこと。タチバナにメッセージを送ると数分で返事が来た。帰り路はよく覚えていないが家に着く。


「お姉ちゃんだよ」


 などと妹に挨拶をする。


「はい、はい」


 と、返事が返ってくる。わたしは聖剣の巫女……勇ましさを忘れてはいけない存在。妹に見守られながら今日が終わる。


 この世界は渇いた軌跡、世界は水を求め破滅への階段をのぼる。終焉戦争へ階段、わたし達は選ばなければならない。この世界は渇いた軌跡、愛など恋など枯れゆく定め。幻の蜃気楼は揺れるあやまちの残骸。この世界は渇いた軌跡……。


「フリルス?何、空を眺めているの?」


 フリルスは階段の踊場からつながるベランダにいた。


「姫お姉様!見つけてくれたのですね!」


 イヤ、教室の近くだし、巫女装束目立つし、フリルス可愛いし……。風になびく髪に、運命を受け入れた様な瞳、手すりを握る意志の塊、フリルスが普通の生徒とは全く違っていた。


「はぁ」


 簡単にあいづちを打ち、ポカンとしていると。


「未来は変わります、今、姫お姉様が見つけてくださいました」

「まぁ」


 聖鏡の巫女とやらも大変だ。


「姫お姉様、このベランダから雲が見えるでしょ」


 空と雲との境界に飛行機雲が崩れゆくのが見えた。


「えぇ、この空が地平線の果まで続いているのね」


 言葉の要らない空間がフリルスとの間に広がり、長い沈黙の後。


「語る言葉の~♪」


 空の曇が流れ、熱い思いが募り。突然、歌い出すお姉ちゃんにフリルスは驚きおののいている。


「お姉ちゃんはスッキリしたのだよ」


 沈黙の答えは大声で歌うであった。


「はい、フリルスも叫びたかったです!!!こんな世界は嫌だ!!!」


 わたしの歌の合間にフリルスは大声で叫んでいた。


「こんな世界は嫌だ!!!」


 わたしも叫んでいた。はて、世界を救うのが聖鏡の巫女なのでは?


「フリルス?世界は何故、滅ぶの???」

「ただの飢餓の原因の戦争ですよ」


 サラリと言うな……。ふう~戦争だし、はぁ~戦争だし、とぅ~戦争だし。


 ?????????


聖剣の巫女に関係あるのであろうか?うーん、哲学していても仕方ない。そこれは偉い人の考えた哲学に違いない。


「フリルス、お昼休み、終わってしまうよ。ま、哲学だよね?」

「あい、現実です」


 そう、現実、現実、現実だしね、そう哲学でなく現実、きっと何かのきっかけで、この世界なんて簡単に滅ぶのだろう。うん???うん???……。


「フリルス?もう一回叫ぶ?」

「はい、姫お姉様、今日のフリルスラブに加えて下さい」


 うん、それもよかろう、などと考えながら。


「こんな世界は嫌だ!!!」

「こんな世界は嫌だ!!!」


 晴れた空の下、二人で叫ぶ、わたし達であった。

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