第6話

「お姉ちゃん、バカなの?」


 今日はいきなり、妹に怒られた。朝、学校に着くなり、土砂降りの雨だ。そう、傘を忘れたのだ。


「問題無いよ、お姉ちゃんだもん」


などと言い、妹にも傘を持たせなかったからだ。はて、この状況はどうしよう?とにかく、一限目は数学だ。


「先生、確率が苦手なので偏微分方程式を教えて下さい」

「………………」


 淡々と授業が続く。やはり、確率は苦手だ。……うーん。ベクトルでなくて良かった、三次元ベクトルなどサッパリだ。


「先生はフェルマーの最終定理は解ける?」

「………………」


ムシされた。これ以上言うと、内申に響きそうなので黙っていよう。さて、休み時間、雨は降り続く。タチバナから雨だと抗議のメッセージが届く。ここは愛のあるメッセージを返せそう。


『アイ、ラブ、(有)』


 と、


 返事は当然、『バカなの?』であった。お姉ちゃんだもん!!!などと、気合を入れ直す。


『タチバナ?缶コーヒーでも飲む?』


 もちろん、わたしのおごりである。自販機の前で待ち合わせすると。三分の待ち時間であった。雨の日はコーヒーにかぎるなどと、まったりするのであった。


「お姉ちゃんと濡れる覚悟ができたよ」


 うぅぅ、天使の様な言葉である。ここは一枚……妹コレクションが更に充実と。

はて?担任に素直に相談すれば良いのでは?傘くらい貸してくれそうだ。とにかく、わたしの失敗で傘を忘れた。


「タチバナ、今日の夕ご飯の当番は、わたしがやるよ」


 などと、普通の提案をする。ここは『お姉ちゃんだもん』と愛を入れて。


「サザエの塩焼きに、金目鯛の煮つけ、クロマグロの刺身……」

「お姉ちゃん、カレーライスで……」


 うーん、お姉ちゃんのお小遣いがもってよかった。本来なら、罵倒が返ってくることが予想できたのに、できた妹でなによりである。さて、貸して貰った傘がゲキ小さいのは気のせいであろうか。やはり、ずぶ濡れコースだ。


 ぐへへへへ……。ある夜の事である。妹コレクションを眺めていると、ラブがマックスである。


「お姉ちゃん、バカなの?」

 

 タチバナがわたしの部屋に入って来た。


「ぐへへへへは、止めて」


 おっと、聞こえてしまった、お姉ちゃんとして失格な感じだ。はて?正しい、妹コレクションの楽しみかたはどうであろう。


「タチバナ?わたしと一枚撮る?」

「………………」


 沈黙するタチバナにテンションが転落である。


「お姉ちゃん、落ち込まないで、一緒に撮ろ」


 さすが、妹、話しが分かる、まさに愛の勝利である。妹コレクションにまた一枚、増えた。さて、国語の課題がある。これは寝る時間削るコースだ。


「タチバナ?今日は遅くまで起きているけど、夜食を一緒に食べる?」


 もちろん、わたしの手作りである。


「うーん、悩むな……」

「学校のお勉強についていくには予習も必要だよ」


 今夜は寝かさない、お姉ちゃんであった。


「で、何を作ってくれるの?」


 夕食の残りのおでんを温めるだけである。


「それだけなの?」


 ま、わたしの作る料理など、そんなものである。


「カレーライスの残りの福神漬けもあるよ」

「イヤ、要らないし、早く寝ようかな」


 うううぅぅぅぃぃぃ、ぅぃ、今夜は寝かさないと思ったのに。


「タチバナと一緒にお勉強したいの!」


 わたしの本音が出た、なにか敗北である。鳴かぬなら、寝かせてしまえ、ホトトギス。寝かせてどうする!!!などと思うお姉ちゃんであった。


「お姉ちゃん、また、アホな事を考えているでしょう」


 どうやら、ヘラヘラしていたらしい。


「お姉ちゃん?飴、食べる?」


 これは同情された、お姉ちゃんの威厳が失われた。


「お姉ちゃんだもん!お姉ちゃんだもん!!お姉ちゃんだもん!!!」

「はいはい、コーヒーも欲しいのね」

「うん、ありがとう」


 しかし、良くできた妹だ。と、思い夜がふけていく。


……うーん。


寝不足である。夜中、目が覚めてそのまま勉強したからだ。はて、わたしは子供ろうか?夜に起きても泣かない、お姉ちゃんであるが。

朝にタチバナが目覚める頃にメッセージを送る。


『ハロー、キ〇ィちゃんだよ』


 著作権ギリギリの事をする。返事は『サ〇リオピューロランド行きたい』であった。タチバナがまだまだ子供で良かった。


 はて、朝、早くに『キ〇ィちゃんだよ』は大人のする事であろうか?


 うん?『お姉ちゃん、バカなの?寝起きが悪いメッセージ送らないで』と来た。


 先ほどの『サ〇リオピューロランド行きたい』は少し寝ぼけていたようだ。これから、寝起きのタチバナはミニタチバナと呼ぼう。とにかく、ご飯、ご飯と……お茶にパンケーキにパエリア?


「何かが間違っている」


 重要なので声に出した。


「そうなの?」


 妹の返事が曖昧だ、ミニタチバナに違いない。


「ミニタチバナ、今日の朝ご飯はおかしいよね」

「そうだね、朝から、パエリアは重いよね」


 やはり、ミニタチバナだ。ここは元のタチバナに早く戻さねば。


「お姉ちゃんだもん!!!」

「はあ?」


 もう一回……。


「お姉ちゃんだもん!!!」

「???」


 もう一押し。


「お姉ちゃんだもん!!!」

「朝から叫んで、お姉ちゃんはバカなの?」


 うーん、戻ったのかな。これで安心して甘えられる。試しに一言。


「ハロー、キティちゃんだよ」

「お姉ちゃん、著作権的にアウトだよ」


 〇を入れ忘れた、訴えられて多額の賠償金を払う事になるかもしれない。


「タチバナ、将来弁護士になって、お姉ちゃんを助けてくれる?」

「わたし、お菓子屋さんの方が良いな」


 進学校に通っているのに、お菓子屋さんとな。やはり、ミニタチバナだ。


「朝の面倒はお姉ちゃんが責任をもってみるよ」

「頼りにならないな~」


 威厳の無い普段の生活がまずいらしい。


「お姉ちゃんって、そんなに頼りない?」


 タチバナは恥ずかしそうに微笑む。これもまた、愛情表現、わたしは朝の一枚を頼むのであった。


「タチバナ?わたしの許嫁にならない?」

「はぁ?」


 妹ラブなわたしはタチバナといつまでも一緒にいたいのであった。


「わたしはパティシエと結婚したい」


 妹はどこまでお菓子屋さんに憧れているのか。


「お姉ちゃんはお菓子作れないよ」

「うん、知ってる」

「お姉ちゃん、理〇学研究所に就職して、タチバナのお菓子を好きな理由を科学的に解明したい」


 よし、先ずはバイオだ。


「お姉ちゃん、高い本を買うから、お金貸して」

「何の本買うの?」


 うん?タチバナのお菓子好きは科学的に解明にはバイオ?心理学?人工知能なのか?イヤ、月面探査?素粒子物理学?地球科学で生命の誕生?お姉ちゃんは大混乱に陥ったのであった。


「お姉ちゃん。また、アホな妄想しているでしょ」

「はぁ、少し……」


 科学の世界は奥深い、タチバナのお菓子好きすら解明出来ていない。


「お姉ちゃん、もっと勉強してタチバナを科学的に……」

「はいはい、英語の勉強もね」


 はて、タチバナの言葉が聞き取れなかったぞ。


「もう一回、プリーズ」

「英語の勉強もね」


 ……うーん、タチバナ科学は後世の人に任せようかな。


「英語の勉強もしないと卒業出来ないよ」

「お姉ちゃん、男子サッカー部に入るよ。うちの高校はサッカーだけ出来れば卒業が出来るからね」


「お姉ちゃん、理〇学研究所に入れないよ」


 なるほど、それは盲点だ。


「ジョブ、ジョブ、大学の研究機関に入るから」

「お姉ちゃん?卒業の為に呼び出しを食らう様な人が研究機関のある大学に入れるの?」


うぅぅぅ……。教科書の全訳から始めるか……。


「お姉ちゃん、英語も頑張るよ」


 しかし、愛が足りない。


「タチバナ?ラブな写真撮りたいの。一枚、お願い」


 ぐで~ん、朝からお疲れのお姉ちゃんであった。ここはタチバナの一枚で愛を回復せねば。などと思い妹の部屋に行く。


「ハロー、タチバナ~」

「お姉ちゃん、目が死んでるよ」

「お姉ちゃんだもん、色々大変なの」

「お姉ちゃん?イビキをかいて寝ていたのに?」


やはり、寝ていた。しかし、疲れが取れない。妹ラブな一枚が……。


「おぉタチバナ、何故タチバナなの?」

「さぁ?」


 う、ここは素直に、一枚撮りたいと言おう。


「うん~?制服に着替えてからね」


 普段着の妹も良いがブレザーのタチバナも捨てがたい。


「お姉ちゃんはシスコンに入るのかな」


 何を言うこの妹は妹ラブなわたしはコンプレックスなど無い。純粋な愛だ。


「純な愛と書いて『妹ラブ』だ!!!」

「そ、そうなの……」


 さて、そんな事はともかく。目の前で制服に着替えるタチバナを見て。あぁ~あの胸モミモミしたいな。


「お姉ちゃん、何、自分の胸を揉んでいるの」

「ラブが足りないの……」


 などと言っても怒られた。そして、制服姿のタチバナはまさに究極の一品である。


?????????????????


 いつもの制服を着たタチバナである。ここはいつも、可憐な妹と考えよう。

 

 よし、一枚……。ぐへへへへ、妹ラブなコレクションが増えたぞ。


「お姉ちゃん、バカなの?変な想像は止めて」

「はい……」


 素直に謝るお姉ちゃんでした。……うーん、疲れがどっと出たぞ。一限目は体育だったな。コーヒーでも飲むか……。


「タチバナ?一緒にコーヒーでも飲む?」

「うん、そうする」


 さて、妹のぶんも入れてあげる、お姉ちゃんでした。


「愛があれば~♪奇跡の様に~♪流れる時も~♪」


 ルンルン気分でコーヒーを飲む、わたし達であった。


「お姉ちゃん、歌下手」


 うううううう。


「お姉ちゃんは泣かないもん」

「はいはい、お姉ちゃんは乙女、乙女……」


 はて?一限目の体育どうしよ。体育教官室に乗り込んで乙女割引を頼もうか。


「お姉ちゃん、アホな妄想はダメだよ」


 怒られた、とにかく食べて、体育の事は忘れよう。


 昨日は日曜日であった。ダラダラ、ゴロゴロしたりていた。何かだるいのであった。


「昨日は何だったの?」


 と、タチバナに言ってみる。


「さあ、日曜日でしょ」


まさに空白の一日である。妹ラブな一枚も撮っていない。もはや絶句である。


「タチバナ~愛のある一枚を~」


 絶句ではなく、平頼みである。


「失われた日曜日を取り戻すべく、未来から来たお姉ちゃんだよ」

「意味不明だよ、お姉ちゃん」


 うん?舌を噛み苦笑いをする、お姉ちゃんであった。やはり、『未来から来た』は問題だ。平行世界にしよう。


「今いるお姉ちゃんは違う世界から来た、お姉ちゃんなのだ」

「は?」

「無数にある、平行世界から失われた日曜日を取り戻しにきたのだ」

「それで?」

「とりあえず、一枚……」


 未来だの平行世界だの……まてよ?昨日、ダラダラやゴロゴロした記憶がある。つまり、日曜日にやるべき課題を放置した。


「お姉ちゃん、過去に行って課題をしなきゃ」

「無理だと思うよ」

「あぁ、うぅ……お姉ちゃんだもん!!!」


 手遅れの事を気にしても仕方ない。


「ご飯食べて寝るね」

「お姉ちゃん!今日は月曜日だよ」


 憂鬱だな、ベランダの花も散ったし、やはり寝るか。


「お姉ちゃん、今日の一枚のポーズ決めたから、元気だして」


 …………妹ラブな画像か……。


 復活のお姉ちゃん!!!


「ぐへへへへへ」

「さむい」


 おっと、生き別れの妹に怒られた気分だ。そうか、このタチバナは平行世界から来たタチバナに違いない。平行世界で地球が滅んでタチバナと生き別れてそれから。今、運命の再開をしたのだ。


「タチバナ、お姉ちゃんがいなくて寂しかったろうに」

「お姉ちゃんは日曜日に一枚撮れなくてそんなにひもじかったの?」


 どうやら、未来だの平行世界は大げさらしい。今日妹ラブな一枚を撮って『良』としよう。

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