第5話

 ふう~今日は土曜日である。昼まで寝てようかと思っていたら、朝早く起きた。


「タチバナ、ハロー」


 わたしの最愛の人である妹のタチバナの部屋に行くのであった。あれ、妹は起きていた。


「お姉ちゃん、今日は無駄に早起きだね」


 妹ラブなわたしとしては、寝顔も見てみたかった。それは、残念の一言で表され悲しみに浸るのであった。妹のタチバナは机に向かい勉強中であった。


 うん?


 今日は土曜日なのに?妹に尋ねると。


「来週から、土曜補講だよ、早く起きる習慣をつけないと」


 さて、忘れていた。うーん、寝て現実を忘れたい気分である。


「タチバナ、ベッド借りて良い?」

「お姉ちゃん、バカなの?」


 う、怒られた。わたしは妹の愛に包まれたベッドで充電しようと思っただけだ。


「お姉ちゃんは泣かないよ」

「ホント、バカなの?わたしのベッドで何がしたいの?」


 うぅぅ、また、怒られた。


「お姉ちゃんだもん、ベッドで泣いたりしないもん」


 涙が流れながら言っても説得力がない。決して、怒られたからではなく、妹ラブだからだ。そう妹ラブなわたしは愛が足りないのであった。さて、昨夜のタチバナの一枚を見直す。涙が止まり、愛を取り戻す。


「やれやれな、お姉ちゃん、一緒に一枚撮る?」


 これは、めったにない、幸運、タチバナの機嫌がよい。


「単純なお姉ちゃん」


 喜び叫ぶわたしにタチバナは笑顔で答える。これは、土曜日のキセキだ。今日の一枚は永久保存となろう。


 ふぅ~平日である。ボーっと、教室から外を眺める。まるでやる気がない。黒板に書かれる数式は数学の授業である事を思い出す。


「先生、体調が悪いので保健室に行ってよいですか?」


 当たり前だが、すんなりと許可がおりる。うーん、保健の先生の気分ではない。ここは、体育教官室に向かう。


「ちわー」


 などと挨拶をされる。わたしも「ちわー」と返す。そもそも、この高校の体育系の顧問は力が入れすぎである。


 わたしは美しい数学のフラクタル幾何学について、熱く語る。意外と、話が合う。筋肉だけがとりえではないのだと、失礼な事を思う。


 ……うん?


 タチバナからのメッセージだ。もう、そんな時間か、筋肉に挨拶をしてタチバナの下へと向かう。代名詞が筋肉なのはやはり失礼だ。


「もう、お姉ちゃん、何処に居たの?教室にいないし」


 筋肉について語り合っていたと適当な嘘を言う。さて、怒られた。


「タチバナ?フラクタルについて解る?」

「何それ」


 タチバナとは、フラクタルについて語り合っていたと言った方がよかったのかと長考する。


「お姉ちゃん、アホなこと言ってないで、お弁当にしよ」


 今日のお弁当のメニューは昨夜の残りのカレーにしようとした。今朝、お弁当のご飯にぶっかけようとしたら、妹に怒られた。長い目でみればカレーも良いのでは。と、意味不明な事を考えてみる。


 はい、はい、と言われた。


 きっと、アホな妄想しているのがバレたらしい。お弁当を食べることに話を戻そう。


「あ、タコさんウインナーだ」


 お弁当を開けると大喜びのタチバナである。さて、わたしのお弁当には入っていない。わたしのお弁当にタコさんウインナーが入っていないのは二度目だ。お姉ちゃんなのでこんな事では泣かない。けして泣かないと思うのであった。

わたしはお弁当を見て笑顔の妹を一枚撮る。妹ラブな一枚が増えた。タコさんウインナーと等価交換なのは考えものだ。





 うぐ~体育の後である。何故、この高校の体育はつらいのであろう。自販機の前でスポーツドリンクをいっき飲み干す。美味いな~この為に生きている、などと実感をする。


「うん?お姉ちゃん?」


 あれ?飲み物でも買いに来たのか、タチバナがやって来る。お姉ちゃんなのでジュースの一本も買ってあげることに。


「お姉ちゃん、ありがとー」


 可愛い妹に感謝されて上機嫌である。


「ところで、お姉ちゃん、シャツ小さくない?体のラインが出ているよ」

 

 そう?などと思いながら、自分の胸をモミモミと。風が吹く気持ちの良い夏風である。


「は?お姉ちゃん、バカなの?自分の胸をモミながら、気持ち良さそうだよ」


 これは問題だ、決して自分の胸をモミモミではなく、風が気持ち良かったからだ。


「タチバナ、ここの風、気持ち良いでしょ」

「う~ん、そっかな」


 つれない返事である。


「自分の胸をモミモミしたら恋をしたくなったよ」


 タチバナは顔が赤くなり、微妙な雰囲気になる。あれ?タチバナがなにか勘違いした。要は風が気持ちよかったのである。しかし、タチバナの言うように愛だの恋だの転がってないかな。と、思うのであった。


「お姉ちゃん、恋したいの?」


 もちろん、一番は妹だ。


「お姉ちゃんは妹ラブなの」


 わたしは今日の一枚を画像に収める。今日のタチバナはチーズだけのピザの様である。シンプルで良い。


「お姉ちゃん、髪整えてから撮ってよ」


 シンプルな妹のシンプルな要望、ここは髪を整えてから、もう一枚撮ろう。

はて?普段から寝起きのタチバナを撮っているのだから、髪を整えるのは意味があるのだろうか?ま、細かい事は気にせず、妹を撮るのであった。


 困った事が起きた。最近、勉強についていけないのである。進学校なので求められる、勉強量が半端ない。


「タチバナ、お姉ちゃん、困っているの……。朝、起こして」

「何時も、わたしが起こしても起きないじゃん」


 しかし、可愛い妹に頼むしかない。と、楽な道を考える。うん?聖剣がうずく。聖剣……心の真実の剣とも言える、不思議な剣。


 わたしのクモリに反応したのか、わたしは瞳を閉じ静かに聖剣を手にする。

しかし、聖剣はまだずしりと重い。わたしがどんなに願っても妹のタチバナの闇は消えない。聖剣が聖剣である事を考える。


「お姉ちゃん?」


 タチバナが心配そうにこちらを見ている。妹の寂しげな瞳は多くを語らない。わたしは今を見る事にした。


「タチバナ、お姉ちゃん、一人で起きるよ」

「ホント?」

「うん、スマホのアラームで起きるよ」

「なら、わたしがアラームの時間、五分前に起こしてあげる」


 何故、五分前なのか……。


「お姉ちゃんだもん!一人で起きるよ」

「そう?」


 上目遣いで不思議そうなタチバナは妹ラブにはたまらない、一言である。


「ぐへへへへへ、お姉ちゃんだもんね……」

「キモ、お姉ちゃん、バカなの?」


 しまった、少し、心が崩れた。わたしは深呼吸してみる。


「復活のお姉ちゃん!!!」

「そうなの」


 さて、妹の反応は静かなものであった。


「ところで、タチバナ?タチバナは何時に起きるの?」

「四時だけど」


早いな、わたしには無理な時間だ。やはり、妹に起こしてもらおう。

うん?不意にわたしの妹コレクションを見直す。スマホのアルバムは妹だらけである。


「タチバナ、本当にタダで起こしてくれる?」


はて、確認である。


「うーん……」


 タチバナの返事が曖昧だ。やはり、ただより高いものはない。ここは物と交換しよう。


「アイスと交換で良い?」

「えぇぇぇぇぇ、水道の水を頭から、ぶっかぶるの???」

「は???」

「運動の後、水道の水を頭にぶっかける事を『アイス』って言わない?」


 これは、謎の知識だ。素直に週末にアイスクリームをおごってあげると言おう。


「お姉ちゃん?わたしからのモーニングコールで良い?」

「はあ?」

「わたしが自分の部屋からお姉ちゃんの携帯に電話するの」


 流石、わたしの妹だ、頭が良い。しかし、朝、早く起きて勉強するかは別問題なのは気のせいだろうか。












 聖剣がうずく、呪いの剣ではなく、聖剣だ。最近、聖剣がうずく事が多い。心に迷いが生じたから?心が熱い、雨の日の風は冷たいのに。聖剣を持つ、わたしの心が熱い。


「お姉ちゃん、チョット、外に出てくるね」


 夕方、暗くなろうとしている時だ。


「あっそ」


 つれない、妹だ。まあ、手間がかからないと割り切って、ここはスルーと。わたしは地元の小さな神社に来ていた。社の前でわたしは聖剣を手に取り、目を瞑る、聖剣が聖剣である事を考える。。さて、肝心な時にタチバナからメッセージが届く。


『お姉ちゃん、バカなの?今日はお姉ちゃんが夕ご飯の当番だよ』


 うーん、どうしよう……。


『お姉ちゃん。今、忙しいの』


と返事を返す。再び、目を瞑り、聖剣を手に取る。熱い……。目を開けるがずしりと重い聖剣はそのままだ。


 冥が久しぶりに現れわたしに声をかける。相変わらずの皮肉しか言わない。聖剣を背中に戻すが。熱く、とても重く感じる。辺りは夕闇に包まれ、境内は静まりかえっていた。


『お姉ちゃん、迷子なの?バカでなかったら、早く帰ってきなさい』


 タチバナがお冠だ、夕ご飯の当番まで変わってもらって。たぶん、今頃は食べ終わっているはずだ。スタスタと帰ることに。


「ただいまーお姉ちゃんのお帰りです」


 家のドアを開けると。


「お姉ちゃん、老けたね」


 は?お姉ちゃんは高校生だよと思うのであった。


「お姉ちゃんは疲れているの」


 と、適当な嘘をつく。そう、聖剣が熱く重いなどとは言えはずもない。

とにかく、ご飯、ご飯と。そして、ご飯を食べ終わる頃に、英語の課題が出されていることを思い出す。


「お姉ちゃん?泣きそうだよ」


 可愛い妹に同情された。


「お姉ちゃんは今から戦いに入るの。可愛い妹の一枚を撮る暇さえないの」


 などと言いながら、スマホの妹コレクションを見入る。こっち、あっちも可愛い。さて、何だっけ?


 いつの間にか聖剣のうずきが収まっている。


「お姉ちゃん、バカなの?わたしに見入って、課題を忘れているよ」


 どれほどの時を妹コレクションに見入っていたのだろう?


 課題、課題、課題、と。


 さて、この戦いが終わったら、今日の妹ラブな一枚を撮るのだ。などと遊んでいる暇は無い。


 土曜補講である。


「お姉ちゃん、何時まで、たらたらしているの?」


 髪のセットをしていると、妹に怒られた。だいたい、県立高校なのに、土曜補講に別料金の授業料を取るのはおかしいなどと愚痴る。


 うん?


「タチバナ、今朝は早く起きたよ」


などと言い訳してみるが無駄である。


「わたしはオシャレさんなの」

「お姉ちゃん、バカなの、モテない、日本代表なのに」


 うぐ、わたしの心が傷ついた、今日は寝込んで、それから甘い物食べて、鍋パーティーをひらいて、それから、それから……。


「お姉ちゃん、ボーっとしてないで行くよ」

「はい……」


 妹にもう、逆らえない。お姉ちゃんの威厳などまったく無いのであった。


「タチバナ、悩み事などある?」

「愛の充電が足りないよ」


 わたしも足りない、お悩み相談してお姉ちゃんらしい事をしようとしたのに。

ここは、自分の胸をモミモミだ。


「お姉ちゃんのアホ!!!」


はて?まだ、モミモミしていないのに、怒られた。ま、深く考えるのはよそう。


「お姉ちゃんは元気ならあるよ」

「お姉ちゃん、補講が終わったら、パフェ食べる?」


 妹のタチバナがパフェを食べたがっている。でも、最近、パフェ高いからな~。と、迷うお姉ちゃんであった。もちろん、わたしがおごると言いたいからである。

だって、お姉ちゃんだもん。


「だって、お姉ちゃんだもん!!!」


 声に出して妹に言ってみた。


「はいはい、わたしにおごりたいのね」


 軽くあしらわれた。


「だって、お姉ちゃんだもん!!!!!!!!」


 重要なので二度、言ってみた。


「本当に良いの?」


 厳しい意見である。お財布が小銭ばかりの事を考えると、わたしは迷いに迷った。


「だって、お姉ちゃんだもん???」


 疑問形になった、わたしの自信は喪失である。


「わたしがおごってあげようか?」

 

 嬉しい提案である、小銭ばかり今日この頃には、妹に甘えたくなるわたしであった。


「うぅぅぅぅ」

「モテない、日本代表のお姉ちゃんはこうです」


 結局、妹におごってもらう事になった。今日の土曜補講を乗り切る勇気が出て来た。はて?何かが足りなくて間違っている。そうか、愛の充電をすれば良いのか。胸をモミモミと……。


「お姉ちゃん、バカなの?」


 やはり、怒られた。


「タチバナ?一枚撮っても良い?」


 怒った、妹も可愛いのでお願いするのであった。うーん、平和である。

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