第3話
翌朝の事である。妹のタチバナがわたしの部屋におしかけてきた。
「お姉ちゃんのドライヤー貸して」
実に唐突である。妹のタチバナの髪が濡れているから、妹のドライヤーが壊れたのであろう。優しいお姉ちゃんとしは、惜しむことなく貸してあげよう。
しかし、である。わたしのドライヤーは冷風しか出ない、ショートの髪には冷風で十分であるからだ。そう、タチバナはロングで何時も束ねている。美しく長い髪を見るのは、そう髪を洗った時くらいだ。
「お姉ちゃん。いい加減、ドライヤーを新しくしてよ」
優しいお姉ちゃんとしては妹の為に買ってあげたいのだが、わたしの浪費生活を考えると破産にならないのが不思議なくらいだ。うーん、家族なのだから、ドライヤーのシェアくらいは考えてもよいのだが。そこは、ドライヤーの使用頻度の違う訳で、考え物である。そんな事を考えていると、タチバナはわたしのドライヤーを使い、長い髪を撫でるように使う。その姿は実に気持ち良さそうで、わたしもロングにしたい気分である。
一度、美容室でロングにして下さいと頼んだら、物理的に短い髪をロングには出来ないと怒られた。そこでだ、美しく長い髪に憧れるわたしとしてはシャンプーやコンディショナーを妹のまねをしたいのだが、勝手に使うと怒られるので別々に買うしか、ないのである。そう、一度、勝手に使ったたら、何故かバレて怒られた。
うーん、お姉ちゃんは優しい匂いがするねと何時も憧れられるから、勝手に使ってバレた理由はだいたい分かる。今日は冥も皮肉る事なく静かににている。
背中の聖剣もうずかない。そうである、試しにドライヤーの使用時間を一分百円と言ってみた。
「『素直に甘える券』で良い?」
流石、可愛い妹、わたしは勝てない。わたしは問題ないと返す。そう、普段はわたしに素直に甘えてくれないからだ。ドライヤーを貸してあげたかいもあるのである。そう、今日は土曜日、『素直に甘える券』を使って、一緒に外に遊びに行こうと思う。髪の乾いた頃を見計らって、遊びに行こうと提案する。
「わたしは遊園地に行きたい」
わたしの家の近くに遊園地はないのである。
「気分はジェットコースター」
具体的に乗り物を上げるとは本当に行きたいのであろう。妹の願いを聞いてあげたいのだが、遊園地のジェットコースターとは、この田舎のわたしの家から考えて、金銭的に不可能なのでもはや絶望的である。
うーん、妹に良き遊び場所を提案するのに苦労した結果。ファミレスでパンケーキを食べることに。
「パフェの方が美味しいそうだな、でもパフェは高いぞ」
少し、冥がご機嫌斜めなのか、何時もより皮肉が厳しい。
「パフェが無ければパンケーキを食べれば良いじゃない」
冥に対してタチバナは意味不明の会話を返す。そう、タチバナはパンケーキを食べたいのでパフェの話を出した冥の負けである。などと、会話をしていると。
いつの間にか、旅の支度が整っている。優しいお姉ちゃんとしては、遊園地のファミレスでパンケーキを食べることにした。そう、お泊りで遊園地に遠出である。
きっと、帰る頃には、妹の第一希望のジェットコースターにも乗って疲れ果てているだろう。そう、冷風しか出ないドライヤーを貸したので。
高い、『素直に甘える券』になった。
うん?まてよ?可愛い妹が喜んでくれるなら、安いのかもしれない。などと思いながら、電車に揺られる。
朝、わたしは制服に着替え、聖剣を背中に背負っていた。あるはずの無い剣の重さは、わたしの心に少なからず影響を受けた。
「お姉ちゃん、最近のお姉ちゃんは、前と何か違うね。巫女さんのように新鮮な空気をかもし出しているよ」
名ばかりでも、聖剣は聖剣か……。呪いの剣ではなく、聖剣……。聖剣の巫女として選ばれ、わたしはいる。うん?妹のタチバナは、何を思い幸せそうな笑顔をわたしに見せてくれるか。
「お姉ちゃん、何、ボーっとしているの?」
そうだった、わたしは制服に着替えて学校に行くところだった。わたしは今一度、聖剣の重さをジワリと感じる。さて、支度もできたし、外に出る。うん?妹がまだ出てこない。少しの間、わたしはスマホを取り出して星座占いを見る。
あた~最悪系だ。気分はイッキに下がる。明日の占いは見られないのかな?あった、明日は良好である。明日にタイムスリップしたい気分であった。
「お姉ちゃん、待って」
タチバナはわたしより遅れて外に出てくる。ついでだ、妹の占いを見てみよう。
『早朝だけ幸運、その後は適当な一日』
わたしはタチバナに言うか迷ったが、素直に『適当な一日』と言ってみた。
「何?適当な一日って、もっと良い事が書いてないの?」
うーん、早朝はもう終わったのだからな……。
「うん、やはり、適当だって。でも、わたしなんて、最悪だって」
「可哀そうなお姉ちゃん。頭、ナデナデの刑です」
妹は意味不明な事を言ったかと思うと、本当にわたしの頭をナデナデし始めた。まさに意味不明で最悪な感覚である。可愛い妹のする事とはいえ、お姉ちゃんの威厳が丸つぶれである。ふぅ~占いが当たったのか。イヤ、悪い結果を妹に言ったからだ。結果的には当たっているが、占いとは複雑なものである。さて、学校に出発しますか。いつもの辻の自販機でコーヒーを買う。うん?お金を入れてもコーヒーの缶が出てこない。どう、自販機に詰め寄ろうか考えていると、下に落ちている故障中の張り紙らしき物がある。
やはり、最悪系か……。うん?こんな時間、これでは遅刻する。まさに、悪循環である。朝から学校まで走ることに。ここまで、最悪系だと、笑うしかない。などと、笑顔のまま、遅刻ギリギリで昇降口に入ると。体育の先生が今日の昇降口の担当であった。あたり前だが怒られた。多分、最悪系の占いを見たから、不幸になったのであろう。これは、占いを信じたわたしが悪いと言い聞かせていると。
「お姉ちゃん、へこんでますね、喉ゴロゴロの刑です」
「イヤです」
などと、妹と小競り合いになると。足元が滑って少し足をひねる。イタたたた。
これはもはや呪いである。保健室に行き一日寝ている事にした。厄日よ、去れと。ベッドで丸くなり、祈り続けた一日であった。
それから数日後の雨の日の事である。何故、雨は憂鬱であるか謎である。
わたしが学校の三階の廊下から外を眺めていると、タチバナが声をかけてくる。
「お姉ちゃん、わたしの七五三の画像見る?」
イヤ、意味不明だし、妹だし、昔のタチバナの画像など可愛過ぎて息も止まるし。
「なら、高校の入学式の画像はどう?」
さらに意味不明だし、最近だし、ここ高校で正面玄関に行けば何時でも撮れるし。
「雨の日に外を憂鬱そうに眺めている、お姉ちゃんはこうです」
と、タチバナの制服姿の画像を見せらせる。
「これは?」
「今日のわたしです、これを見て、癒されまくって、今日の夕ご飯の当番を変わるのです」
素直に変わってと頼んではと思うが、可愛い妹なので変わってあげるお姉ちゃんです。しかし、雨の日の憂鬱は変わらないな~。
今日は晴天、土曜日なの学校に来ていた。
「お姉ちゃん、今日は念願の学園祭だよ」
しかし、わたしはブルーであった、そう歯が痛いのである。
「なんか、テンション低すぎ」
「お姉ちゃんは歯が痛いのよ」
「ヤレヤレ」
飽きれるタチバナを見ても歯の痛みはひかない。そして、わたしの学園祭の役職は村人Aの役である。花の演劇部ではなく、校外での案内である。うーん、一日、道で立つ仕事である。少し、タチバナ相手に練習をしてみよう。
「こんにちは」
「案内の練習?何か暗いよ」
そうか……暗いか、せっかくの学園祭なので明るくするか。
「いらっしゃいませ、ご主人様……」
などと、言ってみるが、妹は目が点である。
「わたしがお手本を見せるね」
と、言って、タチバナはスカートをつまみ、可愛いメイドの様に
『いらっしゃいませ、ご主人様……』
か、か、可憐で、可憐で、可憐で、フランス人形の様に可愛いのであった。まさに悩殺で、一瞬意識が飛んだみたいである。こうして学園祭が始まったのである。
さて。学園祭の後の火曜日。この学校は学園祭の後の休みにも大量に宿題がでる。昨日は夜遅くまでも宿題をしていた。妹のタチバナと共に寝坊である。眠そうなタチバナも。また、可愛いので思わずスマホで一枚である。
「お姉ちゃん、暇そうにしてないで、遅刻だよ」
う、怒られた。当たり前である。眠そうなタチバナと遅刻、どちらを取れば良いか迷った結果である。などと、スマホを見てニタニタしていると、
「お姉ちゃん、朝ご飯の時間無いよ」
うーん……。
「一度、パンをくわえて、走るなどとやってみたかったのよ」
やはり、怒られた。それからである。急いで着替えたら、スカートのタケが短くパンツが見えそうな事に気が付いた。
「お姉ちゃん、何それ」
「お姉ちゃんはこれからセクター路線でいくの」
また、怒られた。しかし。もう、時間がない。このまま、登校する事に……。
そして、校内を一回りする頃には何故か人気者になっていた。やはり、セクター路線は間違っていなかった。わたしはタチバナにスマホを貸し撮って貰うことに。
パンツが見るか見えないかギリギリの姿は、我ながら上出来である。
「決めポーズとか大事かな?」
などと、言うと。
「お姉ちゃん、バカなの?」
この学校は進学校なのでバカではないと言うと。タチバナはやれやれという顔をする。そんな、妹もとても可愛いので一枚……。MY、妹コレクションも大分貯まってきた。さて、未完成の英語の課題どうしよう?その様なことを話すと、やはりバカにされるのであった。
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