第2話

 休み時間にわたしは改めて聖剣の様子が気になり、背中の聖剣手のひらに置いて見入る。そう聖剣はずしりと重たく、その存在感が大きく感じられた。そして、わたしは剣をさやから抜こうとするが抜けない。


 わたしは少し目をつぶり、少し難しく考える。さやから抜けないのに、何故、剣なのだろう?


「その剣は気に入ったかい?」


冥が明るく話しかけてくる。


「ええ、切れない剣は今のわたしにピッタリかもしれない」


わたしが剣に見入り、冥と話していると。タチバナからメッセージが届く。内容は夕ご飯の手伝いの今夜の担当の確認であった。


『了解と……』


 うん?また、タチバナからメッセージが届く。そう、今日のテレビの話題や週末の買い物など、あまりにも、簡単な雑談である。裏を返せば少しの休み時間も持て余すほど孤立しているのが想像できた。休み時間が終わり、苦手な英語の授業が始まる。このクラスの担当の英語の先生は大の苦手である。英語が苦手だから先生が苦手なのか。それとも、担当の先生が苦手だから英語が苦手なのかは不明である。

うーん、英語が詰まらない、第三の答えとして、詰まらないから、苦手なのかと思ったりもする。少しの苦痛な時間を過ぎて、ようやくお昼ご飯である。


『お姉ちゃん、いつもの、正面玄関の先のベンチで食べよう』


 タチバナからメッセージが届く。わたしは一階に向かい妹と合流する。

ベンチに腰を下ろし、お弁当の包みを開ける。


「今日のお弁当は何だろうね」


 タチバナは子供の様にはしゃいでいた。そう、朝はなにかとわたし達は忙しく、お弁当は親に頼りきりである。しかしである、この高校は昼間の学食が無く。親の忙しい時にはお弁当はピンチである。そこで、高校に上がると同時に、夕ご飯の当番制の手伝いが始まったのである。


「お姉ちゃん、タコさんウインナーだよ」


妹のお弁当にだけタコの形に切られたウインナーが入っている。わたしは少し羨ましく思うが、お姉ちゃんとしての自覚として、大人の対応をするのであった。そう、タチバナはまたまた子供である。ふーう、少し、背中の聖剣が重たく感じる。

はっきりと見えるようになった、妹の闇……。わたしもまた激動の道を歩もうとしていた。時々、タチバナは小さな子供の様なところがある。


それは、悪い意味ではなくタチバナの純粋さである。そんな思っていると時間はあっという間に過ぎていき、休み時間は終わる。そう言えばわたしには露骨に甘えることもあり、普通に可愛い妹だ。


 さてで、ある、今日の英語の授業で課題を出された。今日の夕ご飯の手伝いの当番はわたしである、難題な英語の課題をこなす為にはタチバナに代わってもらう必要がある。何を代価とするか悩むところである。例えば有給。わたしは普段、妹に優しくしているので効果が薄い。そう、物で釣るのは難しい。もう一度、深く考えるがやはり普段、優しくしているので難しく、困るしかない。


「タチバナ、今日は何が欲しい気分?」

「最近、化学が難しくて困っている」


 ふう、やはり素直に聞くべきであった。わたしは化学が得意なので教える事が出来る。


「なら、お姉ちゃんが教えてあげるよ」

「ありがと」


 話はまとまった。明日は課題が無いことを願い、約束をする。


 翌日。


「お姉ちゃん、『モル』って解る?」


 化学でつまずきやすい『モル』か……。先生も教えるのに困る、有名な『モル』である。少し安請け合いしたかな。優しいお姉ちゃんも大変である。


 さて、午後は国語、理系のわたしが何故かそこそこ出来る、国語である。正確に言えばマークシートの問題が得意なので筆記は必ずしも得意な訳ではない。そう、指名され黒板の問題を解けと言われたら困るのである。


「お姉ちゃん、何か暗いね」


 う、妹に同情された、お姉ちゃんの威厳が総崩れである。


「わたしは理系だから……」

「???……お姉ちゃん?暗いって言っただけで。何故、理系なの?」


 さて、余計な事を言ったらしい。


「理系女は歩いているだけで偉いの」

「そう……」


 いかん、ドツボである。イヤ、遅い、全国の理系女に謝らねば。


「お姉ちゃん、頑張って、勉強を教えるから」

「うん、頼りにしているよ」


 少しだけ、頼りになるお姉ちゃんの復活である。その夜の事である。

わたしは今日も英語の課題と戦っていた。


「お姉ちゃん。まだ、勉強しているの?」


 そうである、わたしは夜更けまで勉強していて、妹に注意されるほどである。


「もう、少し……」

「夜食でも作ろうか?」


うぅぅ、嬉しい、持つべきものは可愛い妹である。


「頼むよ、タチバナ」


 さて、何を作ってくれるやら。手作りハンバーグでも食べたい気分である。


「お姉ちゃん、ラーメンセットで良い?」


 う、流石、我が妹、斜め上を行くな……。わたしは明日の体育に備えるほど、体育会系でない、ここは素直に遠慮しよう。


「妹は面白くて良いな。未来の未来まで続くと良いな」


 ウサギの姿の冥の皮肉が聞こえたが、ためらう事無く素直にチェンジで……。


「レンジで温めて、ご飯に乗せる系にするよ」


 うーん、夜食としては悪くはない、これは交渉の勝利と考えよう。しばらくしてタチバナが持って来たのは、どんぶりいっぱいの、ご飯とそれでもかと乗せられた、レンジで温める系の具材である。


 やはり、明日の体育に備えろとの妹からの掲示であると考えよう。しかし、課題が終わらない……眠い目をこすりながら勉強に勤しむのであった。

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