第5話 裏切り
その空の上、17800ftそれはすでに地上の半分足らずの大気圧と低温状態の世界。そして何より戦場と化したその大空の元、翼を翻し基地へと向かっていた。
その僅か前、味方機もとい「敵機」を撃墜しミサイル全弾撃ちつくし残燃料も引き返す分ばかりを残す状態となっていた。
「ミッションコンプリート、RTB(帰投する)、トゥーダホームベース(基地へ)」
「ディスホームべース(こちら所属基地)。シエラ1.1(ワンオンワン)帰投を許可する」
闘いを終えたコールネーム、シエラ1.1は正確には本来のミッション『戦術偵察(情報収集行動)』を終え岐路についていた。その直後だった。基地の防空用のドップラーレーダーに敵機の二つの機影が映った。
「レーダートレース! プリッツ2、まだ帰投中の機は大分距離があります。基地近隣には友軍機は居ない筈です!!」
「では敵(ボキー)と考えるべきだな、近接対空システム起動しろ。マニュアルでしか捕捉できんが…」
「大佐!防空システムアンサーバックなし、対空火器迎撃しません!!」
「コールネームを使え!なんだと、どういうことだ!!配置についている要員はナニをしている」
「すみません、エコー1、しかし、我が基地の各所で銃撃戦が行われている模様。規模は少数敵陸軍ではありません これは明らかにな反乱です」
その時基地内も危機的状況に陥っていた。反乱部隊は航空隊だけではなく基地内要員にも存在しておりそもそもフライトデータは管制官の内誰かが書き換えなければトラッキングなど無理な話だ。しかし、バーネル空軍基地の大多数は反乱に加担などはしていない、それは一部の暴挙だった。だが、基地上空にはさらなる危機があった。敵戦闘攻撃機が基地の近くまで迫っていた。
(コントロール、バーネル管制塔)
この基地の管制塔、何度も荒木中尉ともめ事を起こしている。正しくは荒木が一方的に問題を起こしているだけなのだが…しかし、事態は悪化の一途だった。まだ、基地から発進中の戦闘機がランウェイ21(トゥーワン)とランウェイ11(ワンワン)に最後の未発進部隊の3機がいた。滑走途中でまだまだ低速の友軍機…突如それに襲いかかってくる機影があった。
「なに、防空システムが死んでいる?敵機が近くに来ているんだぞ、敵機なおも急速接近!方位1-3-2!!」
そうこうしている内に超音速の敵機はバーネル基地の敷地内に突入し滑走路でまだ加速中の地を這う戦闘機に向かって一機が短距離空対空ミサイルを2発発射しもう一機が機関砲を機銃照射してきた。もちろんこの事に気付いたパイロット達も機体をさらに加速させ回避しようとしたが時はすでに過ぎていた。
ミサイルが2発とも命中し前方を滑走していた2機が吹き飛び大破した。続けざまに機関砲弾が周囲の土を巻き上げながらランウェイ11(ワンワン)の機体に着弾しその直後こちらも爆散した。
「これじゃ基地は丸裸じゃないか、敵機はまだ腹にミサイル抱えて居やがる。」
ファーストダイブ(第一次攻撃)を終えた敵機は滑走路上空を横切った。
その直後別の管制官が管制用のレーダーのモニターを見ながらこう言った
「ボキー、反転!!第二波が来ます!」
「やはりか、進路は?」
「転舵中(Uターン)、一機がまっすぐこの(我々の)管制塔へ突っ込んで来ます!」
「総員退避!クソ!間に合わない、これまでか……」
そう、思われた次の瞬間 信じられない光景がそこにあった。
管制塔へ向かって真っすぐ飛んできていたハズの敵機がパーツを散らしながら管制塔の200メートルちょっと手前ほどで爆散した。閃光が見えた方向を見るとそこには見慣れた機体があった。
「シエラ1.1だ。助かったぞ」
地上150mほどでの低空でのドッグファイトだけでも驚愕に値するが一機を撃墜したがまだ敵機はもう一機いた。だが、彼の駆る戦闘機は不可解な機動を見せたわざとボキーにケツを振る形で横旋回した。
一見すると不用意に思える行動だが敵を引き付けるには十分だった。ドッグファイトに入ろうと敵機がシエラ1,1の後方に付けたその時だった。基地上空、彼の機体は前方宙返りし互いに正面を向く体勢になり逆さまのまま飛行し機関砲で敵の鼻っ柱に弾を叩き込んだ。
「なんて曲芸してやがるんだ、だがな…(彼に救われた)」
機体の体勢をバレルターンで取り戻すと管制官の私語をよそに
「燃料がもう底をつきそうだ。被害の少ないランウェイ11に強行着陸する」
「何だと、滑走路は残骸で封鎖されているぞ」
「破片を踏まない事を神にでも祈るんだな」
「…どうせ神なんてお前は信じないだろうが。
シエラ1,1着陸を許可する。グッドラック」
ちぐはぐの会話のようだが信頼関係があればこそである。しかし、それにそんな事は必要ないようだ。滑走路に接近するとエアブレーキを上げ空中で急減速したかと思うと撃破された友軍機の破片を避けながら器用にランウェイ11に後輪をつけた。タッチダウンするとエアブレーキをすぐさま下げ、若干S字運動をしながら滑走路に落ちた破片を神業の飛行テクニックでかわしながらさらにはエンジン噴射でパーツを巻き上げることもなく最後はドッグパラシュートとタイヤの最終制動装置(ブレーキ)でランウェイ11上に完全に停止した。テクニックだけではなく運にも恵まれたパイロットだ。
管制官のみならず緊急着陸に備えていたスタッフも驚きを隠せないでいた。皆、同じ事を考えていた。こんな腕のたつエースパイロットがまさかわずか1年7か月前まで開発部に居たなんてまったく信じられないという事を…
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