第6話 荒木博士
荒木アキラ 現在セシビア共和国のエースパイロットだがのかつて開発主任であったことを知るものはあまりいない。ましてやこのバーネル空軍基地にいるものはパイロットである荒木しか知らない。
彼の駆るFX-133 EP1の改良型【FX-133 EP2】は自分自身で設計した機体そのものなのだ。
(二年前 セシビア共和国 工業都市アイザック市内 国立防衛研究所)
ここはわが共和国の中核都市のひとつ。科学技術こそがこの国を下支えしており工業都市【アイザック】はこの国になくてはならない大都市でそして、何よりセシビアの工業力の最たるものが軍事技術でありとりわけ航空機技術は世界に誇れるものだ。
「荒木主任~
荒木を呼んだこの子は新米研究員の野崎華。まだ大学出たての21歳でこのチームの中では最年少所謂<お茶くみ>のような存在でデータの打ち込みや書類整理をメインにしている。最新鋭機【FX-133 EP1】タンデムエンジンの複座式であり開発も佳境に達しており機体自体はすでに完成に近づいていた。あとはフライトテストを残す段階まで来ていた。
「なんだ野崎か、カールはどうした?」
「それが明日がフライトテストっていうのにまだ来ていないんですよ」
「そうか、カールは遅刻か」
そんなそっけない荒木主任…いや荒木博士は明日のテストパイロットでもある。
「この日のためにパイロットにもなるなんてどれだけ飛行機好きなんですか?」
野崎は無邪気な笑顔で言い放ったが常に冷静に荒木は返答をするようだ。
「何言っている。ガキみたいなことを言っている暇があったら最終チェックを手伝ってくれないか?」
「えー、いいいんですかー。私が手伝っても」
「今は【猫の手も借りたい】ぐらいなんだよカールもまだだしな」
「でもポールもカーラもいますよ。私がミスしたら…」
荒木博士は少し間をおいてから
「大丈夫だ。ここに入れている時点でそこそこ優秀じゃないと採用されていないだろう?」
ずっと二人の会話を聞いていた同じく同僚のカーラは
「この研究所始まって以来の秀才【荒木アキラ博士】が大丈夫って言っているのよ。心配はしないわ」
そして、息を切らしながら研究室に入ってきたカールが
「悪い、遅れました。おー、なんか俺抜きで盛り上がっている」
(翌日 テストフライト当日 ラグール飛行場プレタ社専用格納庫)
プレタ社はセシビア共和国の軍事企業トップ3に入るほどの会社でこのラグール飛行場はアイザックから280㎞ほど北に位置している空軍が管理する飛行場だ。
滑走路は3000m、それに2500mが一本ずつある。
格納庫には主任研究員である荒木博士をはじめ同じ研究所の職員はもちろんのことセシビア空軍関係者、政府関係者、プレタ社社員が20名以上が集まっている。テクニカルの飛行場の人員を入れるとさらに大人数であった。
するとその人ごみの中、空軍の大佐が出て来た
「それでは今回異例ではあるが今回のテストパイロットを紹介しよう。荒木アキラ博士だ」
大佐の紹介あと同じくパイロットスーツに身を包んだ空軍パイロットの隣から荒木博士が一歩前に出た。
「紹介に上がりました荒木です。今回セシビア空軍のヴェルナー少佐と共にテストフライトを今日行えるのは光栄です。」
そう実はまだこの時点ではスパルス軍との間で戦争状態にはいってはいたが小競り合いが長く続いている程度であった。その戦いは現時点で3年目になり長らく膠着状態であった。
その起死回生のために航空戦力の強化を図っており博士は実にこの3年半で二機の戦闘機を開発していた。そして、その二機目がFX-133 EP1でありその前期型FX-132は少数精鋭部隊の部隊長機や特殊戦術機として少数ながらも既に十数機生産されていた。
その後数人のあいさつの後、いよいよテストフライトとなった。
乗り込んだ二人はタラップは外されエンジンは唸りを上げ閉じられるキャノピー、搭乗員である荒木とヴェルナー少佐はやや緊張していた。
「少佐。いつものフライトだと思ってくれ。」
「おい、おい、それは俺のセリフだぜ。まぁ、”博士”にはかなわないなぁ」
緊張それは必要なことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます