第4話 混戦
「こちらFCP(防空指揮所)コードレッド、ディフェンスコンディションレッドを発令する。防空システムへの攻撃(トラッキング)を確認。BADGEは使えない、繰り返すBADGEは使えない。全機広域防空システムをカットせよ!! 自機のレーダーと目視確認のみで判断しろ!!」
「レーダー回線を切り離し。WA-381がT-7-7(空域)を離脱、進路1-3-1 T-8-3(ケリー渓谷)へと転進。ロスト(撃墜された)した383のリカバーへ……」
「ナニ、・・・しかし、今、頼れるのは彼しかいないな…とはいえ彼一人だけではな」
すでに両軍が交戦状態に入ってから15分が経過していた。すでに隊の三分の一が戦闘で失われていた。キルレートは未だ上昇していた。だが、それよりも重要なのはこの状況を招いた敵ではない内なる敵の方だった。
「ディス シエラ1.1(ワンオンワン)、当該機(シエラ1.2)確認。やはり間に合わなかったか…、機体の残骸を確認。しかし、ベイルアウトしている。手を振っていやがるぜ」
それは突然だった。防空システムから隔離した特殊戦機の機載レーダーに反応が現れた
「敵機・・・6 o'clock!! いや、友軍機がミサイルをクソ、ロックされた 離脱(ベイルアウト)する」
素早く機体のデータを破棄し、緊急脱出装置のレバー(取っ手)を引いた。
瞬間、離脱用のスターターが作動し火薬の匂いがした。上部のキャノピーは爆薬で吹っ飛び、続いて操縦席のシートが射出された。機体から離れると数秒後にミサイルが着弾した。だが、追ってきたと思われる友軍機はパイロットにまでは手を出さなかった。どうやらその期を逃したらしい。戦闘時でも増加槽タンクを付けたままのところから見ると基地には戻らないらしい。
少し遅れてやって来たシエラ1.1はゆっくりと降下してゆく落下傘と増加槽タンクを付けたままの友軍機の姿を遠目に見ていた。
「あれはVF-331(第331スコードロン)だ。全機ケリー渓谷を縦列編隊で高速離脱中だ。僚機を落とした奴は遅れている隊に合流する前に撃ち落す。離脱はさせない・・・」
レーダートレースを避けて渓谷を低空飛行し敵領空へと高速離脱する様子からも敵に寝返ったのは明らかだった。大型戦闘機らしくミサイルの搭載数はほかの機体よりも多かった。とはいえ先ほど闘いでほとんど使ってしまい残りは2発、しかも燃料も奴らほどは積んでいなかった。
「ガス(燃料残量)が残りわずかだ。この一度しか攻撃のチャンスはなさそうだ。」
そういうとHUDのティレクをその右腕の親指で離脱する裏切り者たちの最後尾の二機にロックした。
そして、AIM(空対空ミサイル)を発射した。
「フォックス 2 まぁ、避ける友軍機はいないがな…」
最後尾の一機に着弾し大破し爆散した。二機目は破片を喰らい多少損傷したがそのままスピードを上げて離脱してゆく・・・
逃げられたようだ。だが、そんなことはどうでもいいことのようだ。少なくとも仇を討てたのだから
(同時刻、バーネル空軍基地)
所謂、バンカー(耐爆地下壕)と呼ばれる場所にそれはあった。ラプコン、軍事用の航空管制指揮所、DC端的にCP(コマンドポスト、指揮所)とも呼ばれる場所だ。この事態に混乱に陥っているのは確かだった。
「VF-331が反乱? しかもFADPが書き換えられている。…防空システムはある程度クローズドな環境の筈。という事は隊内に交応者がいるな」
「そうですね。だとしても私は仲間が起こしたことだとは思いたくはないのですが… !! コマンダー、レーダートレース先ほど広域戦闘システムから切り離したレーダーにプリッツ(光点)を二機確認。友軍機が帰還する報告はありません。敵襲です。」
「対空戦闘用意、今すぐに近接防御システムを起動。マニュアル(手動)でしか捕捉(ロック)できんが……今すぐ迎撃しろ」
「大変です大佐。システム稼働していません」
「コールネームを使え、なんだと何が起きた報告しろ」
「エコー、無線にて基地内各所で発砲、D-3とE-2で銃撃戦です。やはり隊内の反乱です!!」
背後の合口状態 これはまさに危機的な状況だ。
「FCP(防空指揮所)、こちらセクターD-2(武器庫近く)反乱部隊と交戦中、すでに封鎖線を敷いていますがいつまで持つか分かりません!」
「なに、ブロークンアローを発令!繰り返す主導権を奪われた。近隣の基地に応援を…」
こんなこともあろうかとあれを彼に預けておいたのは正解だったようだ。
「実は司令部から預かり物をしている。ストライクパッケージのアクセスコードのようだ」
といった。
WA-381 第12特殊戦術飛行団、特殊任務飛行隊所属機であり同隊は特殊作戦群内に秘密裡に設立されたトップガンだけで編成された部隊である。しかも、第135(135SQ)飛行中隊はわずか5機で編成されそのうちの一機のみがバーネル空軍基地に転属された。それが荒木アキラ中尉であった……。
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