第3話 戦闘開始
増援の四個スコードロンが到着したところでついに戦闘が始まった。
もちろん、通常ならば偵察機は戦闘には参加しない。だが、中尉の駆る機体は偵察機ではなかった。
「ポイント T7-7にボギー、アバウト15、増援隊の側面だ。援護する!!」
長距離用の二つのドロップタンクをパージ(切り離し)し、敵戦闘機のど真ん中に空対空ミサイルを発射……交戦状態に入った。そう彼は常に最前線にいた。
私が交戦状態を知ったのは基地を後にして数十分後だった。
だが、それはある程度予期していた事だった。二日前、スクランブルがかかったのは敵の高高度偵察機が現れたからだ。それは現場(前線)の連中からはこう呼ばれていた。
『戦場のハゲタカ』 と
その偵察機が現れた後、必ず敵の大攻勢があるからだった。
「レーダートレース、TFT-3-1-8 アバウト50。無線・IFF共に応答なし、我が空軍の飛行プランにはない編隊です。パターンレッド、アンノウンをボギー(敵)と推定。指揮官、どうしますか?」
「よし、スクランブルだ。同時に全機に発進待機命令。」
「全機にですか?」
「あぁ、そうだ。全機だ。こちらよりも数が多い。全機出しても足りんぐらいだ!」
スクランブルからおおよそ50分後…ついに両軍スコードロン交戦状態に。
だが、何かがおかしい。当該戦闘空域に展開されていたAWACSは防空統合ネットワークの中枢を担っていた。
「こちらマザーグースより、ユニフォーム331、状況を報告せよ。」
「ラジャ、ディス、ユニフォームVF-331(スコードロン)。間もなく交戦エリアに達する、予想交戦域まであと2分だ」
「判った、当該空域ではすでにユニフォーム72とシエラ1.1が交戦状態。」
「シエラ1.1が…か?特殊戦機だろう。交戦…」
通常、戦略戦闘団の特殊任務機が前線に投入されているだけでも大ごとだが、さらに戦闘にも参加しているのだ。驚くのも無理はない。
(同時刻 T8-3戦区 バーディス高原 ケリー渓谷近隣上空)
基本、偵察機は単独飛行しているがまた荒木中尉の戦区にだけ敵が現れた。だが、それはおかしかった。
「こちらシエラ1.2。広域戦闘データリンクによれば反応はアバウト30(敵が30機)のはずだが・・・こっちのレーダーにはプリッツ(光点)なし。目視でも蠅一匹飛んでいねーぜ」
「馬鹿な、もう一度確認しろ」
「待て、3 o'clock(真横)にプリッツが…縦列飛行の編隊 IFFブルー(味方機)だ。ありゃ、331だな…」
「そうだろう。何、友軍機?」
「こちらWA821、何かがおかしい。」
おかしかった。彼らは友軍機、それは問題なかっただが場所が違っていた。ここにはまだ友軍機は居ない筈だった。
「331スコードロン、ロストレーダー!!クソ…」
その時、すでに中尉は悟っていたのだ。T7-7戦闘空域から急速に離脱してゆく…
「こちらエコー1(防空指揮所)、シエラ 1.1が戦線離脱!! 進路を1-3-1・・・ケリー渓谷へ?」
「シエラ1.2が友軍機をT8-3で発見?しかも331スコードロンだと!!」
そして、荒木中尉のWA821の無線からはにわかには信じられない言葉が発せられた。
「こちらシエラ1.1 これは…防空システムへのクラッキング(攻撃)だ…BADGEはダミーだ…マズイ!!」
その時だった。WA823 作戦コードシエラ1.2の機体からアラームがなった。
「6 o'clock レーダー着信?ナニ、友軍機にミサイルロックされた!!」
「馬鹿な…」
AWACSの管制士からはそんな声が漏れた。
「フレア、クソ…まにあわ 」
その直後 味方機のミサイルが直撃した。
「シエラ 1.2 プリッツロスト!(撃墜された!)」
「goorm3,good kill、good kill!! ウエイト ウエイト シット!! goorm5 ro 2 hit!」
「ディス マザーグース オブジェクト ボギー to AIM(空対空ミサイル)。ニューコンティニュー セブンティーマイナー タイプ ボギー クイックリーオーバーザスペース」
「ユニフォーム262マイナー、 pan! pan! pan! head on、10 o'clock」
「3P(トリプルピー)だと?空対空ミサイルだ。ブレイク、ブレイク!緊急回避!!」
ミサイルを逃れて散開する戦闘機たち。それは、まさに空で行われている死闘だった。
それに当たれば命はない。彼我兵力差がどう見ても我々に不利だった。だが、そんなことをも覆す者がこの飛行部隊に一人だけいた。すでに彼は6機の敵戦闘機をそのミサイルと機関砲で叩き落としていた。もちろん友軍も戦っているが彼のそれに比べれば比ではなかった。
しかし、それにしても何かがおかしかった。
BADGE(防空警戒管制機構)、防空管制システムに対しての攻撃。それはFADP(飛行管理情報処理システム)へのトラッキング・・・つまりデータを改ざんし、そのダミーで防空網を欺くというものだった。そして、それにいち早く気付いたのはVFX-WA381、防空作戦本部の技術開発師団、空軍兵站センターからバーネル基地に転出された機体の内の一機だ。
荒木中尉の駆る機体はタンデム式スクラムジェットの推進系統を持つ機体、大型戦闘機と呼べるほどの大きさと大出力エンジン……これまでのどの戦闘機よりも速く、強い。しかし、通常の戦闘機の3倍という調達コストの高さから正式化、量産化されていない。
戦場となっている防空戦闘の現場、セフテンバーT-8上空では激しいドッグファイトが始まっていた。
だが、別の事態も進行していた。
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