間劇 ‐陪審員の随に‐



「それでは、挙手を」


 すぐに上がった手が二本。


 躊躇いがちに上がった手が一本と、それを見て追随した手が一本。


 全員に注目されながら、蝸牛のようにゆっくりと上がった薄紫色の髪の少女の手が一本。


「アルシャ、君まで……」


 そして、最後まで頑なに上がらなかった手が一本。


「賛成多数。決まりですね」


「ま、待ってくれ! こんなのおかしい!」 


 腕の代わりに両膝をまっすぐに伸ばして立ち上がって叫んだアキラに、議長の少女はソファの上に体育座りで膝に顎を乗せ、からかう目をさらに細めて言う。


「往生際が悪いですよぅ、アキラさん。権限がないにも関わらず協議に口を出しては私たちを否定し続け、それでもなおあなたの意見に耳を傾けてあげていたが故の多数決でしたのに。ねえ?」


 エイミから同意を求められて、奥に立っていた最年少の少女は気まずそうに顔を背けた。


「いや、だっておかしいだろ! 彼女はそんな子じゃない。絶対に何かの間違いだ。決める根拠が弱すぎる。彼女はただ、自分の父親を殺そうとしているだけじゃないか!」


 ふふっ、と堪えきれない笑いがエイミから漏れる。


「アキラさん、ご自分が何をおっしゃっているのか、本当にわかっていますか?」 


 自分の言論がズレていることは承知の上だった。それでも、直感がこの評決を認めるわけにはいかないと訴えている。


「だって、まだ、彼女は実行していない……断定するには、まだ……」


「ではこういうことでしょうか? あなたは無意味な審議を提起し、徒に霊剣士である私たちに時間を使わせ、調査を遅らせようとしていると」


「ち、違う……僕は本当に、証明したくて」


 見るからに語気が減衰していくアキラに、エイミは槍のように言葉を突きつける。


「弱いんですよ。何もかもが」


「……っく」


「そんなんじゃあどうしたって、よわっちー、ってなっちゃいます。戦えもしない、意見を通せもしない。説得力がない。小娘相手に頷かせる腕力も言葉も持ち合わせていない」


 絶望したように俯くアキラは、ぼそぼそと呟く。


「だって、仕方ないじゃないか、僕には……」


「また例の言い訳ですか?」 


 先回りされて、アキラは二の句が継げなくなる。


「賢しらに悔しげに正義漢ぶって拳を握る姿を見せつけられても、私の仕事は変わらないんですよ。魔獣を殺し、魔獣呼応者を殺し、魔人を殺す。そのためには私は手段も選ばない。そんな私を止めたいのなら、それ相応の覚悟と論拠を持ってきていただかないと」


「そんなの、無理だ……」


 アキラの降伏に、エイミはどこまでも雰囲気が軽いままだった。


「さて、議論も無事に終結したようですし」


 エイミはテーブルに広がった御菓子の一つをぽいと口に放り込んでから身軽に跳んで立ち上がると、両手をぱんと叩いて宣言する。


「これからは彼女をコルトリ市第二の魔獣呼応者として認め、市長の許可が出次第、霊剣士の名の下に、処刑に向かいます」







 

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異世界悪魔は魂を、人工天使は脳みそを支配する。 ~異世界で少女に憑依されて戦わせられる少年の物語~ 樺鯖芝ノスケ @MikenekoMax

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