第2部

間劇 ‐追跡者の随に‐



「アキラさん。あなたはこのオル・リリナス王国内で、存在そのものが違法です」


 その宣告に、アキラは鳴り止まぬ天使の罰に疲憊していくことになる。


「あなたの罪状はもはや語るのも、めんどくさッ、ってなるほどに増えていってますが、それはまあ置いておくとしても、一番の問題は存在そのものなんですよね」


「そんなの、どうしようもないじゃないか。僕にどうしろって言うんだよ」


 目の下に濃い隈を残したアキラは、力なく反論する。


「うーん、まあ、てっとりばやー、な解決方法の一つとしては、死ぬ、ってことが挙げられますが」


 いかにも名案です、と言うようにエイミは人差し指を立てる。


「できるわけないだろ」


「ですよねー。困りましたよねー」


 アキラとは対照的に、話の内容とは不釣り合いなお気楽な態度を崩さない少女だった。


「こんな状態になってるのは僕の責任だけじゃないってことはわかってるだろ」


「ええ、それはもちろん。ですが私たちはいくら霊剣士といっても、彼女に対しては何もできません。たとえ相手がどんな霊人であっても」


 含みを持たせたエイミの言葉にアキラは俯く。


「アトヴァルグ盟約ってやつか」


「アルシャさんがアキラさんを置いてこの街を出ていくと言うのなら、私には止めようがありません。でも彼女はそんなことはしないでしょうね」


「どうしてそう言い切れる?」


「あれあれぇ。もしかしてちょっと期待しちゃってます? アルシャさんが逃げないのは、自分がいるからなんだーって」


「違う。それに、僕の責任だけじゃないっていうのは、この街に着くのが遅れた君たちの責任もあるだろうということだ」


「それに関しては弁解のしようもありませんけど」


「開き直るのかよ……」

 

 その件に関しては多少の負い目があったのか、答えるつもりはあったようだ。


「――彼女にはもう、後がないからですよ」


「……どういう意味で?」


「親子関係的な意味で」


 エイミの答えはいつもおちゃらけているようで、どこまで信用できたものかわかったものではないが、何かしらの含意があるような気がした。


 霊人は、全て女王の子だ。そこに関係があるのだろうか。


「それは、いま下でアルシャとレーエさんが話し合っていることに関係してるのか?」


「どうでしょう。レーエはどうやら彼女に冷めやらぬ何かを抱いているようですが、私もあの二人の込み入った事情までは知りませんし」


「要するに君たちが用があるのは僕じゃなくてアルシャで、アルシャを引き留めるために、僕を利用しようってことだろ。逃げられないように法律まで根拠にして」


「半分は、ですね。アキラさんを無罪放免で放り出すこともできないのは事実ですし」


「もうどうにでもしてくれ……。どうせ僕はもう逃げられない。君からも、天使からも」


「私はわかりますが、天使とは?」


 少女の問いに、アキラは痛む頭を抑えて答えた。


「こっちの話だ。もう放っておいてくれ」


「やけっぱちはよくないですよぅ」


「誰のせいだよ……」


 どうにも毎度のように気勢を削がれる少女の物言いに、アキラも呆れ果て俯いて溜息を吐く。


 そのアキラの頭を、エイミは指先でちょんちょんとつついてくる。見上げると、エイミは悪戯をする子供のような仕草で人差し指を自分の口元に当てた。


「アキラさんがこのほぼ永続的な違法状態から一時的に脱する方法が、一つだけあるのですが」


 少女の絶えない笑みは、アキラが断るという選択肢が微塵も含まれていないことを暗に示していた。







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