第3話 ホモサピエンスは絶滅危惧種に指定されました

 遠い昔。

 人と吸血鬼の間で覇権を争う戦いがあった。

 戦況は一進一退を極め、最終的には吸血鬼側の勝利に終わり、当時その数100億を超え生態系のトップに君臨していた人間は、その瞬間から被食者の立場へ落とされた。

 勝者である吸血鬼たちが多少多く狩っても問題あるまいと調子にのって本能のままに行動した結果、人は全盛期から3分の1ほどまで減ってしまい、莫大な人口を支えていたインフラは完全に破壊され、ホモサピエンスは絶滅の危機に陥った。


 19世紀には50億羽いたリョコウバトだって人の乱獲で絶滅しているし、歴史は繰り返すってやつだ。今度はやられる側になってしまっただけの話。

 

 まぁ、そのあたりになって吸血鬼たちは焦りだし、力のある者は生き残った人間を我先に囲い込み己の領地に住まわせた。

 吸血鬼同士の血で血を争う激しい争乱を経て人類保護法が制定され、代替品である人工血が開発されたあたりからようやく状況は落ち着いたそうだ。


 現在、地球上に住む人間は大きく二つに大別される。

 吸血鬼の管理下で暮らしているファームタイプと、吸血鬼が入れないよう結界がぐるりと周囲に張られた保護地区で人間だけで暮らすワイルドタイプだ。


 吸血鬼が血を吸って良いとされるのはファームタイプの人間のみで、ワイルドタイプの人間は、ファームタイプの血統更新のために捕獲許可を得た場合をのぞき、基本的に接触は禁じられている。人間の本来あるべき野生の姿で暮らせるようにだ。


 けれど、どこの世界にも不届き者はいるものだ。

 なんでもファームタイプの均一的な味の血に較べ、ワイルドタイプの自然産の血はものすごく旨いらしい。

 そういうわけで、法を犯すリスクを負いワイルドタイプの人間を狩る『密猟者』が存在し、買い手も引く手あまただ。


 僕もそんな人間の1人だ。

 もともとは保護区出身だったけれど、村の言いつけを破った親友のハクを追いかけ2人で結界の外へ出てしまったところ、僕だけ密猟者にとっつかまり闇オークションで競売され、自分の子と同い年ぐらいの人間を探していたジニアの親に買われた。


 未熟な子供がもつ万能感ゆえに世界は自分を中心に回っていると思い込み、裏切られるなんて微塵も思っていなかったあの頃。超えてはいけない線を踏み出した結果僕が得たのは、衣食住の満たされた今の快適な暮らしであった。

 


 

 

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