第2話 彼女の弱点
双子は彼女――闇示ゆめに引き取られ彼女の館に案内されました。そこは魔法の力で創り出された結界の館。ここなら何があっても安心だと、彼女は言っていました。
双子は彼女の手料理を振る舞われお風呂に入り、ベッドのある部屋まで案内されました。
◇◇◇
「美味しかったよね~ヤミねーちゃんの料理♪ あれ王宮の料理人超えていたよ絶対♪」
ベッドの布団に潜り、満面の笑顔のリーランが隣にいる兄のヤライに話しかけた。
「うん♪ あれすっごい美味しかったね♪ あんなご飯食べたの初めてだよ♪」
そんな彼にヤライも見えない眸ながらもしっかり笑い返す。眠りにつくまでずっと、彼らの話題は彼女の手料理から離れなかった。その理由は彼女は二人の期待に応えつつしっかりと満足できる料理を作ってくれたからだ。
――オッケー判ったわ。おねーさんに任せなさい!――
彼らの注文をその返事と共に彼女は応え。つまみのフルーツとジュースを置いて厨房に入り料理を作ってくれた訳だ。
「そう言えばヤミねーちゃんってお部屋綺麗だよね? 兄ちゃん」
「お風呂も適温だったよ、リーラン」
「……僕のぶかぶかの袖が引っ掛かって破れたのすぐに直してくれた」
「白魔法も上手いし……」
「ヤミねーちゃん、凄いね」
「そうだねリーラン、ゆめお姉さん、凄いね……」
双子はしみじみと呟いた。
「おねーさん、弱点とかあるのかな?」
リーランの問いに、
「うーん。何かなさそうだよね……」
ヤライは困ったように答えた。
「虫とかは苦手っぽいよね? 女性だし」
「いや。あの人僕らぐらいの大きさのムカデを見ても冷静に対処しそうだよ」
「やっぱりなさそうだね」
「あ、でも兄ちゃん! ヤミねーちゃんおっぱい大きいから動きにく――」
「こらリーラン! あんまりそんな事言っちゃダメだぞ!!」
「ご、ごめんなさい……」
「まったく……でもそんなにおっきいの?」
「ふかふか! すっごいふかふか!! てか兄ちゃんも頭に乗せられてたよ」
「え? もしかして僕の背中を押していた時のあれ?!」
思い出して赤面するヤライ。彼は目が見えないから気づいていなかったが……背中を押されて歩いていた時、確かに柔らかくて温かい物が当たっていた。
あれが本当なら。彼女はとっても柔らかい。それはもう色々と。
「……ん? でも最初に出会った時お姉ちゃん刺客達を倒してなかった?」
「あ。そー言えばそーだった。確か飛び蹴り仕掛けてた」
そこまで答えて。双子はしばらく沈黙。
「やっぱり無いねー。弱点……」
「ないねぇ
あふ……。僕もう眠いよ……」
「僕もさー……。お休み兄ちゃん……」
双子はあくびをしながら、夢の中へと向かっていった……
◇◇◇
……双子の夢は良いものでは無かった。
一言で言えば追われる夢。信じていた父親、家臣達から裏切られ母親を目の前で殺される……悪夢。
どこまでも逃げ続け、最後に追いつめられて。自分達は死ぬのだと……覚悟した。
蔑むような眼差しでかつての家臣達が剣を向けて、もう自分達は終わりだと。二人抱き合って死を受け入れ――
『こんばんは。何をなさっているのかしら?』
その瞬間。爽やかな甘い声が桜吹雪と共に右手で剣の切っ先を掴んで止めた。
「ヤミねーちゃん……」
その声の主に覚えはある。
しかし。見た目が異なった。
そこにいたのは
「子どもには少々残酷な夢ですね。大丈夫、今すぐ終わらせますよ!」
彼女は動きやすい短めのスカートを翻し、人差し指を揺らして双子にぱちりと目配せ。その時見えた眩しい太腿にはホルダーに十本のナイフが刺さっている。
もう一度、悪夢の家臣が斬りかかってくるが。彼女はサーベルを抜いて剣の一撃を逸らすように受け。
そのまま刀身を傾けて相手の姿勢を崩す。
がくん……と前のめりになる家臣。
彼女はそのまま蹴りを入れて間合いを取ると、一瞬で迫り斬り倒した。
「さて。残りも勿論、ですよ?」
サーベルを構え直し、彼女は斬り込みその剣術に一人、また一人と倒されてゆく。
(やっぱり弱点無いなぁ、お姉ちゃん)
双子は抱き合いながら。同じ事を考えていた。
◇◇◇
「よしよし。これで大分夢見が良くなりましたね」
その頃現実では。うなされる双子の間に彼女――闇示ゆめが添い寝し、特に夢見の悪いヤライの頭を優しく撫でながら。彼女は微笑んだ。
「まだ子どもが大人達から追われるなんて辛いでしょう。こんな夢は見ないに限ります」
ヤライの涙を優しく人差し指で掬いながら。彼女は一安心していた。
これは彼女の魔法。夢に干渉して好きな夢へ少しずつ変える魔法である。
「でも何で昔の――魔法少女の私が出てくるのかしら? この子達知らないはずよね?」
不思議そうに顔をしかめるゆめ。
そう。彼らが見ている自分はかつて魔法少女として戦っていた時代の姿。魔獣を倒し続け人類を護り続けた自分の――姿だった。
「魔力が高いから。それが影響しているのかしら?」
今度は頬を撫でながら、彼女は呟く。彼女は双子の魔力が世界でも一番になる程高いのは既に見抜いていた。
――ねぇヤミちゃん。お願いがあるの。私の息子達を、守ってくれないかしら?――
――あのねぇマリアベル。私はこの世界の均衡を保ちつつ人類を護るのよ? 私情だけで動ける訳ないでしょ――
――お願いよ! よろしく……お願い……!――
――……見てから決めるわ――
――それって引き受けるって事よね!
ありがとう!!――
――ちょっ?! 待ちなさい! 誰が引き受けるって?!――
「……マリアベル。貴女の言う通りだったわね」
死にゆく親友から一方的にされた約束だが。双子に出逢い、ゆめは考えを変えた。
彼らの魔力は高い。世界でも一番になるぐらいに。魔力というのは様々な影響を世界に与える。良くも悪くも、だ。
そしてそれが高ければますます影響は強くなる。
「……この子達が独り立ち出来るようになるまでは付き合うわ。こんな未来ある子どもが歪んで育ったら君達が苦しいもんね」
片眼を閉じて。彼女は微笑む。
「さて。私は明日の料理の仕込みでも――って、あら?」
起き上がろうとして。彼女は気づいた。
ヤライがゆめの服を、掴んでいたのだ。
「困ったわね。明日のご飯の仕込み……って、あらら?」
そして更に、リーランが彼女に抱き着いていた。
「困った双子ね。仕方ない、起こさないよう――」
『母様……』
双子をやんわりと離そうとして。ぴたりと動きが止まる彼女。
気づいたのだ。小さな寝言と涙の溜まった少年達の顔に。どうやらさっきの悪夢が消えた代わりに、今度は母親と離された悪夢にうなされているようだ。
「……んもぅ」
彼女は赤い頬を人差し指で掻くと。
「明日の朝食はちょっと遅れるかもね」
ぽす……と枕に顔を埋めた。
「まぁ良いわ。これぐらいなら別に――」
「このパン柔らかい……」
刹那。胸元に顔を埋めたヤライが呟いた。
「誰のどこがパンですか、誰のどこが……困らせるわね」
どうやらふかふかのパンでも食べている夢を見ているのか。幸せそうな顔を見て、ゆめはため息をついた。
「……こっちは抱き枕の夢でも見ているのかしら?」
背後で寝息を立てるリーランを見やるゆめ。彼は彼で、ゆめをしっかり掴んで離さない。
「やれやれ、ね」
苦笑するゆめ。
弱点が無いように見える彼女だが。実は子どもにとても甘いという弱点があったのだ。
明日の朝ごはんの前には軽食を先に出しておこう。ゆめは双子に挟まれながらそう思っていた。
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