第13話 罪人となった末皇子
東の空が白んできた。
寝ずの番を担っていた兵士達が
認識魔法を使ってもマツバの体に魔力の痕跡は無かった。どれほど目を凝らしても、体に触れても他者の魔力痕はおろか刻印すら見つからない。
魔道具を使用すれば限りなく無に近付ける事はできるだろうが、使われた形跡すら無かった。どういうことだろうか。
(もしかしたら、今の技術なら形跡を残さないこともできるのかもしれないが……)
サクラの常識は千年前から止まっている。今現在の常識が分からないため、考えても答えはでてこない。
(とりあえず、ウラハのもとへ戻るとするか。考えるのはその後でもいい)
サビに語ったでまかせを伝えるためにも早く会うべきだ。
そして、ウラハの
ぐるぐると脳内を渦巻く違和感と睨み合いながら、サクラが早足にウラハの部屋に向かっていると、なにやら騒がしいことに気がついた。こんな早朝、まだ多くの人間が眠りについている時刻に喧騒が聞こえるとは珍しい。出どころはどこだ? と遠視魔法を使用すれば、ウラハの部屋に人だかりができているのが視えた。
集う人々の表情は怒りに染まっている。対するウラハは起床直後で状況を把握できていないようで困惑していた。
サクラは舌打ちする。こんな早く、やつが行動を起こすなんて思わなかった。浅はかな自分を責めつつ、すぐさまウラハの元へ駆けつけるために瞬間移動を使った。
「何をなさっているんですか……?!」
サクラは、ウラハの部屋付近に飛ぶと人垣を縫うように進みウラハの元へ急いだ。怯えるウラハを守るように背中に隠すと腕を広げる。
「たしか、お前はウラハ皇子の侍女だったな」
老兵がサクラを睨みつける。
「仲間の可能性が高い、こいつも捕らえろ」
老兵が命じると若い二人が駆け寄り、サクラの腕と肩を掴んだ。抵抗しようと腕に力を入れるがサクラは思いとどまる。自分は侍女だ。こんな若造二人簡単にいなすことはできるが、ここで目立つ行動をしては後々面倒なことになる。
ならば、サクラのとる行動は一つ。
《ウラハ、ここは大人しく捕まるとしよう》
えっ、とウラハは声を上げた。サクラの心の声はしっかりとは聞こえたようだ。
《黙って私の言う通りに。必ず助けるから》
視界の端でウラハが頷くのが見えた。
サクラは抵抗したふりをしつつ、周囲に魔力を張り巡らせる。糸のように細く、長く。できる限り、城全体に。こうすれば、誰がどこにいて、何をしているのか知ることができる。大量の魔力を消費してしまうが仕方がない。
腕をひねり上げられ、手首に冷たい鉄の感触が触れた。一瞬だが魔力操作が乱れる。どうしてだ、とサクラは自分の手首を見た。いつぞやウラハの持つ本で見たものと同じ形状をしている。魔力封じの
ウラハにも同じ枷が着けられた。
「これってどういうこと?!」
目を丸くさせたウラハは信じられないと、枷と衛兵を交互に見つめる。
「まるで僕達が罪人みたいな扱いじゃないか!」
「申し訳ございません、ウラハ様。あなたにマツバ様の殺害の疑惑があり、その身を拘束させていただきます」
疑惑と、老兵は口にしていたが枷をはめられ、拘束されている時点でほぼ黒に近いのだろう。己が手を拘束する枷とその言葉から、ウラハは察した。
「……殺害? 僕が?」
サクラは内心で舌打ちした。近いうちにウラハに罪を着せるべく動くと思っていたが、まさかこんなに早くだとは思わなかった。
「僕はマツバ兄様を殺していない!」
「詳しくは後で聞きます。ご同行を」
「見に覚えのない罪を着せられて、黙って付いていくわけないだろ!」
サクラが魔法で落ち着くよう伝えても、興奮したウラハは叫ぶのをやめない。強制的に意識を沈めるか、意識を一時的に乗っ取るか考え、どちらが最善の道が選んでいると人だかりが左右に別れた。
できた道をゆっくり歩いて来た人物に老兵がうやうやしく、頭を下げながら端へ寄る。
「サビ兄様、聞いてよ! この人達が——」
不自然に言葉が途絶えた。ウラハが口を開き、舌を動かそうとしても凍り付いたように動かない。もごもごと言葉にならない音が唇から漏れる。
魔法をかけられたと気付いた。そのかけた相手が誰なのかも。
「ウラハ、私は喋る許可をだしてはいない」
詠唱を終えたサビは、冷たい目で地面に膝をつくウラハを見下ろし、
「ウラハを無限監獄に繋ぎなさい」
老兵に命じた。
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