第7話 カリフォルニア

俺は幼稚園の頃に想いを馳せていた。幼稚園でのお迎えのとき、いつも俺は砂場で遊んでいた。誰かと一緒に遊んでいたのか、ひとりで遊んでいたのかは記憶にない。そうして、母親が迎えに来るとよくそのまま歯医者さんに行ったものだった。虫歯の多い子だった。虫歯か。コーラを飲んでいれば虫歯にもなる。だが歯医者通いはもうたくさんだ。おれはコーラを飲みながらひとりごちた。

 なかなか飲み終えないコーラに少しの苛立ちを感じて、ふと我に返ると、隣の席にはもう彼女たちはいなかった。長くいすぎたようだ。いつものように飲み残しのコーラを捨てる。コーラを流し込みながら俺は彼女への気持ちをいつしか抑えきれなくなっていた。ため息をついても、さっきまで彼女が座っていた椅子を眺めてもどうにもならない。またいつか会える。とめどなく流れるコーラを捨てきると、俺は紙ナプキンに12月8日午後8時、カリフォルニアで待つ、と書いて注文カウンターの店員に渡した。「今日、エビバーガーを注文した女性が来たら、この紙を渡してほしい。」「ご注文は?」「エビバーガーだ。持ち帰る。以上だ。」俺は店を後にした。

12月8日。俺はマクドナルドの隣にあるショットバー「カリフォルニア」で彼女を待っていた。ギムレットを飲みながら彼女を待つ。彼女はきっとこう言うだろう。「コーラのSサイズは飲みきれたの?」。アメリカンスピリットのターコイズが俺の愛用のタバコだ。口の中で煙を味わう。時間はもう10時前になっていた。日が変わるまで待とう。俺はこれまでの彼女との遭遇からの出来事を思い返していた。

やがて0時を過ぎ、俺は店を出た。マクドナルドに寄り、彼女に紙を渡してくれたか尋ねる。確かに渡してくれていた。

そうして、その日以降、俺は彼女を目にすることがなくなった。俺の日常から彼女の存在が日々薄らいでいった。

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