2
ドアの向こうは白い壁の通路と天井だけだった。通路は100メートルぐらい続いている。
「誰かいませんかぁ?」
もう一度叫んでみるが何も返ってこない。とりあえず突き当たりまで進んでみようと歩き出す。
自宅で湯船に浸かっていただけのはずなのに一体何が起きているのだろうか。ゲームではキングに格上げもあると言っていたが本当だろうか。
天井には照明が一定間隔で取り付けられている。通路の突き当たりもドアだった。手をかける。鍵はかかっていない。ドアを開けてみる。
すると今度は通路が三つに分かれていた。
「こちらはゲームホスト。黒の番人一体を追加します。武器を使って通路の番人から扉の鍵を奪い、さらに深部へ進んでください。なお、三つの通路の選択によって手にはいる武器が違います」
どこかから声が聞こえた。
「三つの通路から通路を一つ選んで進めばいいのか?」
最初のアナウンスではこれはゲームだと言っていた。こちらからの声は届かないようだった。
真ん中の通路を進んでみる。ドアが見える。
「ちゃんと出られるのかなぁ」
依然、不安な気持ちは変わらない。勇輝は無機質な白の通路を進んで行く。
ドアの向こうはまた100メートルぐらいの白い通路だった。が、通路の中程に机があり、何か置いてある。
近づいて見てみると殺虫スプレーだった。
「殺虫スプレー?何に使えと言うんだ?」
強い不安と焦りから、次第に苛立ちを覚える。次のドアに向かう。鍵はかかっていない。ドアを開けて歩みを進める。
また、白い通路が続いていた。が、先ほどまでと違い、通路の真ん中に誰かいる。少しほっとする。久しぶりに人に会った気がする。その人影に近づいていく。
「すいません、助けて下さい。突然連れてこられて」
しかし近づいていくにつれて、その人物は異様な雰囲気を纏っている事に気づく。髪は床に届くほど長く顔は見えない。身長は2メートル近くありそうだ。黒いワンピースのような服は所々破れていて、両手には手錠が掛かっていた。そしてその手には巨大な木槌を握っている。裸足だ。
とても声を掛けてもいいような雰囲気ではなかった。先ほどの呼び掛けにも反応しない。
近づいていいか、躊躇する。
「うぁぁぁい。ううぁぁい」
その人物は叫び声を上げた。目が見えていないのか、俯きながらハンマーを引きずっている。
通路の真ん中に立っているので黙って通りすぎる訳にもいかない。これが先ほどアナウンスで言っていた黒の番人だろうか。
一旦前の通路に戻ろう。そう思って後ろのドアに手を掛けたが、ドアが開かない。
「おい」
何度ノブを回そうとしてもびくともしない。
「ヤバい、うそだろ。戻れないのか?」
「あぃぃぃ、ガガガ、あばぁ」
番人がこちらを向いた。
通路の突き当たりにはドアが見える。鍵がかかっているかは分からない。
「ぎぁぁぁぁあ」
一際大きな叫び声を上げて、番人がゆっくり木槌を振り上げる。どうやら狙いは自分らしい。怪我でもしてるように、左足を引きずりながらこっちに向かってくる。
「いぃぎぁぁあぁ」
恐怖のあまり何も考えられない。番人は近づいてくる。
「ちょっとすいません、聞こえますか?ここを通りたいのですが」
最後の呼び掛けもうめき声に無惨にかき消される。
一方で後ろのドアはやはり開かない。
番人との距離は5メートルくらいだ。言葉の通じる相手ではない事を確認し、なんとかやり過ごす事を考える。
「こうなれば」
番人がこちらに近づくスキを見極めて、強行突破する。
「げやぃやぁ」
近づいた際に勢いよく木槌を振り下ろされた。当たらないように素早く身をかわし、向こう側に行く。
ドゴン。木槌が床を叩く。もう少しであれが頭を打ち砕いていたかもしれない。恐怖で寒気を覚える。
通路の突き当たりまで走る。ドアに鍵がかかっていないよう祈る。
ドアは開いていたが通路が二つに分かれていた。
「こちらはゲームホスト。プレイヤーが次の通路に到達したため、黒の番人を三体追加します」
どこからかアナウンスが聞こえる。
右の通路に行ってみるが、通路の奥に二人の番人が見える。その通路は行き止まりだった。
踵を返しもう一方の通路に向かう。
こちらにも番人が一人いた。
「ぎゃやる」
その番人はもうこちらに気づいたようで、ゆっくり近づいてくる。先ほどの番人と違い手には何も持ってない。
こちらの通路は向こうにドアが見える。
先ほどの通路からも番人が追ってきている気配がする。
勇輝は半分パニックになりながらも、意を決してドアに向かって進んで行く。
「なんなんだよ、もう」
番人との距離を詰めていく。番人はゾンビのように手を突き出して近づいてくる。
何とかやり過ごす方法はないだろうか。
「ぐがぁぁあい」
勢いをつけ、番人に体当たりを食らわしそのスキにドアまで走る。
だが。
ドアは開かない。体当たりしてもびくともしない。
「マジかよ、どうすんだよ」
少し前のアナウンスで、番人が鍵を持っていると言っていたような気がする。
振り返り、通路に倒れている番人に近づく。
腰の辺りにそれらしき、光るものが見えた。
勇輝は夢中でそれをもぎ取る。その時、倒れていた番人に掴まれ、その場に倒れる。
「ぎゃは、ぎぃぃいやぁい」
番人が両手で首を締めてきた。物凄い力だ。間近で見ると、番人は白い仮面を被っていた。
「あっ、助けっ」
足をジタバタさせて抵抗するがまるで意味がないようだ。
「くっ」
視界に火花のような光が見えてきた。意識が遠のく。その時、殺虫スプレーを持っていた事に気づく。
そのスプレーを番人の顔にめがけて噴射する。
「ふっぁぁぁあ」
番人の目を眩ませられた。首から手が離れる。
「はぁ、はぁ」
危なく窒息するところだった。勇輝は肩で息をついていた。恐怖で膝が震えている。番人から奪った物はやはり鍵だった。
早くも番人は起き上がろうとしている。勇輝は転げ回りながらもドアに鍵を差し込み、次の部屋に逃げ込んだ。
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