因果

グレースバーク・ヘンドリック

第1話 因果

「あいつらと逸れてしまった・・・」


俺含め4人で進み続け、やっとの思いで深淵に入った。が、途端にあいつらを見失ってしまった。

なぜここに来たかは早い話、俺らの想像を絶する財宝をこの手にする為だ。


「畜生、ようやくここまで辿り着いたのに。まさかあいつら俺を省いて独占する気じゃないよな?」


流石に考えすぎかと一人薄暗い一本道を歩く。すると別れ道が見えてきた。それと同時にその別れ道の所以であろう間に巨大な木、そしてその木にもたれ掛かる仮面を着けた長身の男が一人。

シルクハットに真っ黒の洋服、口角が異様に上がった笑顔の仮面がより一層この空間の不気味さを醸し出していた。

俺は恐る恐る進み、なんとか気付かれまいと左の道に入ろうとした。

突然奴が低い声で俺に話しかけてきた。

「本当にそっちでいいのかい?」

「ん?どういうことだ?」

「お前、きっと後悔すると思うな。」

「じゃあ、右に行けばいいのか?」

「くくく、まぁ、そう簡単な話じゃないんだよな。そういえばお前はここまで一人で来たのか?」

「いや、他に連れが三人いたんだがな、逸れてしまってな。で、それがどうかしたのか?」

「いやなーに、お前もこの先にある財宝が目当てと思ってな。そんなお前にいい事教えてやろうと思ってな。」

「財宝の在り処でも教えてくれるのか?」

「そんなとこだな。なんで俺がお前に左道を勧めなかったか、そっちに行けばお前は財宝を独り占め出来ないと思ってな。」

「どういうことだ?」

「俺には未来が見えるんだ。無論それはお前が左に進んだ未来もな。その中でお前は仲間達ととてつもない財宝を手に入れている。」

「ほう。じゃあ右は?」

「右に進んだお前はその財宝を独り占めしている。ただしそれはお前が仲間を裏切ると同義だ。さぁ、どうする?」

さて、俺は本当にこんな気色悪い男の話を真に受けるべきだろうか?

そもそもこいつは誰だ?なんで俺に連れがいる事を知っていた?

様々な疑問が俺の頭の中を走り回っていたが、それ以上に目の前までに迫った宝の山に、欲望に理性が打ち勝ってしまった。

「どうする?」

「じゃあ右に行こうか。」

俺は一も二もなく即答した。

「本当にいいのか?」

「あー、構わない。元より独り占めするつもりだったからな。」

「くくくく、。お前ならきっとそう答えると思ってたけどな、そんなお前に餞別だ。受け取れ。」

そう言って白い小箱を俺に渡してきた。

「なんだこれ?」

「俺は未来が見えると言ったろ?もう少ししたらお前の仲間達がここに来る。俺は右の方に誘導してやる。お前は物陰に隠れて奴らが来るのを待ってればいい。奴らが通り過ぎて、財宝のある庭園に入った瞬間を狙え。後はその箱に入っている起動装置のボタンを押すだけだ。」

「そしたらどうなる?」

「後は見てのお楽しみだ。さぁさぁ行った、行った。」

「なんだか世話になったな。ありがとよ!」

俺はそう言って右の道を進んだ。

去り際に奴が何か言って言ったような気がしたが高揚しきった俺の耳には一切入らなかった。

幾分か歩いたあと奴が言っていた財宝がある庭園前までやって来た。

俺は言われた通り、近くの藪の中に身を隠し、息を殺して、奴らが来るのを待っていた。

それからまた幾分経ったのち数人の話し声がこちらに向かってくるのがわかった。

「やったな!遂に俺達の目の前に例の財宝が現れるんだぜ!」

「ここまできた甲斐があったな!所であいつどうする?逸れちゃったけど?」

「ほっとけ、ほっとけ。この暗い世界だ。どっかで野垂れ死してるかもしれない。それに一人減った方が分け前も増えるだろ?」

(馬鹿だな。お前等の分はもうとっくに俺の物なんだよ。)

俺は心の中で笑みを浮かべた。

そして遂に奴等は庭園の門前に着いた。

「来たは良いがどうやって開くんだ?」

「なんかぶっ叩けば開くだろ。とりあえず持ってる物で叩いてみようぜ。」

奴等が装備に手をかけた瞬間。俺は白箱の起動装置のボタンに指をかけた。

すると奴等の真下の地面にポッカリと穴が開き、奴等はその中に吸い込まれるように消えた。

そして地面な何事もないよに戻り、気づけば門も開いていた。

「やった!いい気味だぜ。これで財宝は俺だけのものだ。」

俺は意気揚々と庭園に入り、真ん中の祭壇のような場所に向かった。祭壇には大きな木箱が一つ置かれていた。

「遂に、遂に!俺は財宝を手に入れたんだ!」

興奮冷めやらない俺は勢いよく木箱を開けた。

すると中には綺麗な封筒が一つ。

呆気に取られた俺はとりあえずそれを手に取り、封を開けた。

中には紙が一枚、短い文章でこう綴られていた。

「ようこそ。半永久の世界へ。」

その文を見た後、俺は半狂乱になり、慌てて元来た道に向かって走り出した。

俺は必死で出口を求めていた。

けれども薄暗いのもあってか来た道を完全に見失っていた。

その後も何度も何度も探し回ったが結局見つからなかった。

そうしている最中、例の不気味な男と出会った巨木と別れ道の場所に戻っていた。

が、そこに奴の姿は無く、代わりに奴が身につけていたであろう黒い洋服一式、シルクハットに不気味な笑みを浮かべる仮面が丁寧に置かれていた。

漠然と彼の私物をじっと見つめている俺はその時。

奴が去り際に言った言葉だけが、俺を支配していた。

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因果 グレースバーク・ヘンドリック @GreathbergHendrick90

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