第3話 ティーブレイク

「ではお茶をお注ぎいたしますね。」


「ありがとう。」


正直なところこの時期に熱いお茶はどうかと思ってしまうが、エルが淹れるのなら話は別。

本当は彼女のお茶が好きだ。


ふとティーカップを注ぐポットに目をやる。

不思議なことに注ぎ口から湯気がたっていない。

それどころか、ティーカップのお茶からも湯気が見当たらない。


「そういえば湯気がないように見えるけど。」


「あー、これですか?ベン様っていつも額に汗をかいて召し上がっていたので、私の魔術を利用して冷やしておいたのです。」


「えっ⁈すごっ。てか いつのまに魔力調整とかできるようになったの?」


「ははは。私だって、日頃から鍛錬を積んでるんですよ。」


改めて彼女の向上心には感心する。


本来なら魔術学校の中級クラスのカリキュラムで学ぶ筈のものを既に習得していた。


「これならいつでも学校に行けそうだね。寧ろ僕なんてあっという間に抜かれちゃうだろうね。あっ、冷たくて美味しいよ。」


「いえいえ、私なんてまだまだ未熟です。それに扱える魔術も氷だけですから。」


「でもまぁ知ってるとは思うけど、大前提として魔術は一人につき一つの属性しか発現しないからね。稀に例外はいるみたいだけど。」


「その稀有な人物が私の目の前にいるのですが...。」


ジト目で見るエルを尻目に僕はクッキーに手を伸ばす。


「とはいっても、僕の専門は炎だよ。それに他の属性も単に興味本位で齧っただけだよ。」


「興味でって....まさか講義以外の時間にも魔術の研究を?」


「他にやることもなかったからね。」


呆れたかのようにエルは大きな溜め息を一つついた。


「ん?どうかした?」


「いいえ、なにも。ただ貴重な学校生活を"ひとりぼっち"で過ごしていた悲しい魔術師を哀れんでいただけです。」


「それって絶対僕のことだよね?一応これでも友達は居たんだけどね。」


(まぁ、片手で数えるぐらいだったけど...)


さっき取ったクッキーをようやく口に入れる。

エルの作るお菓子もまた美味い。

特に彼女が作るクッキーはどこか優しく、懐かしい味で、思わず何枚でもたべてしまう。

もちろんお茶との相性は言うまでもない。


「にしても今日は一段と日差しが強いね〜。」


「ええ、そうですね。本格的に夏の到来を感じますね。」


僕はティーカップを片手に窓辺に寄る。

とにかく暑いから換気の意味も込めて、風を取り込む為に窓を開ける。


「うーん、やっぱりここから入る風は気持ちいいね。」


風に運ばれてきた新鮮な空気を吸い込む。

僕の部屋は屋敷の2階に位置し、更にここは小高い丘の上に建っている為、光や風を遮るものは一切ない。


そして下に目をやれば守備隊が訓練などに使っている草原が広がり、少し遠くに視線をやればエクセンハルトの城下町が見える。


僕はここからの眺めが好きだ。

偶に政務で煮詰まっりする時はここからの景色を見て、一度頭をリラックスさせる。


「ここからの眺めは何度見ても綺麗だ。エルもそうは思わないかい?」


振り返ると、丁度エルもクッキーを食べていた。「今日も、美味しく出来た。」っと言ってるのが彼女の満足気な表情から見てとれた。


まだお茶は半分残っていたので、遠くを見ながらゆっくりと味わった。



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夜空に佇む月は、太陽のような君に恋した。 グレースバーク・ヘンドリック @GreathbergHendrick90

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