仲間なのよ


「セシリーさんのお孫さん?可愛いわね、ヴィーナス様の毒牙に、すぐにかかりそうね」

 キャロラインの頭の上で、声がしました。


 このときキャロラインは、初めておばあさまの横に、ギリシャ風の女性が立っていることにきずきました。

 なんとも言葉では表現できないほどの美しい女性、首にはチョーカーをしていました。

 ……アマテラス様だわ……


「ねぇ、キャロラインさん、ジリアン・フェネリーさんって、どこにいるか教えてくださらない?」

「あっ、はい、えっっと……」


 キャロライン、すこしドギマギしながらも、あたりを探しますと、入り口近くで、ジリアンがキョロキョロと誰かを探す風にしています。


 あわててジリアンを呼びにいくキャロライン。

「ジリアン!アマテラス様はこっちよ!」

「えっ、だってミリタリーの制服の方は、一人もいないのよ!」

「私服で来られているのよ、とにかく早く!」


 その頃にはウイッチ、しかもチョーカーをつけている二人は注目の的、あちこちで、

 ……さすがにベティ女子スクール付属小学校よね、寵妃さんもおられるわ……

 とかのささやきが聞こえています。


 さらに、

 ……一人はたしか、パープル・ウィドウ・クラブの管理官公募に応募して採用されたのでは、ネットワークのどこかに勤務しているはず……

 新聞記者も中にはいるのです。


 ……ねぇ、あのギリシャの女神みたいな方のチョーカーって、レッドゴールドにグリーンゴールドのラインが入っているわ……


 ゲート前に集まっていたのは、ベティ女子スクール付属小学校の遠足行事のゲスト、つまりほとんどはご婦人たちなのです。


 ひそひそ話があっという間に広がり、先ほどの新聞記者さんが、早速にインタビューなどを申し入れています。

 やんわりと断っているアマテラスさんでしたが、常識の範囲内の写真はかまわない事に、勢いに押し切られたようです。


 そんな処に、キャロラインがジリアンをつれてきたのです。

「アマテラス様!ジリアンを連れてきました!」


「貴女がジリアン・フェネリーさん、始めまして、アマテラスです」

「はじめ……まして、ジリアン・フェネリーです」

 急におとなしくなったジリアンに、

「今日はよろしくね、私、ルナパークって初めてなの、というより、遊園地が初めてなの、頼りなくてごめんなさいね」

「お返事を下さり感謝しています、あの……すこし聞いてもいいですか?」

「なあに?」


「アマテラス様はアメリカの方なのですか?」

「生まれ故郷はね、貴女はどこだと思う?」

「ヘブンと思いました!だって天使のように美しいのですもの!」

 この場合のヘブンとは、天国の意味なのですけどね。


 すこし驚いたアマテラスさん、

「嬉しいことを云ってくれるのね、私はヴァルホルというところで生まれたのよ、貴女はどこの生まれなの?」

「マルス・プロビデンスです」

 ニューイーグルからは四百キロ離れている、アメリカのプロビデンス市の住民が移住した地域です。


 うまく切り返しているアマテラスさん、しかし次に聞いた内容が悪いような……

「お父様は来られているの?」

「私は……父は知らないので……」


 ジリアンは父を知らないのです。

 今のジリアンの保護者である男の妹の娘、つまりジリアンの母が、幼いジリアンを抱え兄を頼ってきたのです。

 余命いくばくもなかったようで、兄が必ず育ててみせると誓うと安堵したのか、そのままなくなったのです。


 戸籍には父親の名前がありません、ジリアンは私生児なのです。 

「そう、私も両親は知らないのよ、ジリアンと私は仲間ね、そういえばキャロラインもそうでしょう、皆仲間なのね、セシリーさんなんかは、正真正銘の仲間なのよ」


 ちょっとばかり、あわてた物言いのアマテラスさん。

 しかしジリアンはこの言葉に、勇気付けられたようで、たちまち元気になったようです。


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