第五章 フィオナの物語 神の花嫁

旅立ち

 アーミッシュのフィオナ・メーニッヒは、十八歳のある日、神の花嫁に選ばれた。


 初等教育だけのフィオナ、ましてアーミッシュの娘、ラムスプリンガ――掟から完全に解放され過ごす、成人になるまでにアーミッシュとして生きるか絶縁するかを決める――の真っ最中だが、フィオナはつつましいアーミッシュの生活が望ましいと考えていた、それなのに……


     * * * * *


 フィオナ・メーニッヒは十八歳、ある日、両親と弟と一緒に長老に呼ばれました。


「世界は終わりに来ているようです、しかし神が私たちに救いの手を差し伸べてくださりました」

「先ごろ私は、神にお会いしました」

 一家は何のことか良く分かりません。


「アーミッシュは、神に選ばれたのです」

「私たちは神の国に移り、この後も平和に暮らすのです」


 父親が、「今話題のマルスの話ですか?」と聞きます。

「そうです、私たちはマルスに移るのです」

「勿論、強制は出来ません、残りたいものは残ってもかまいません」

「しかしこれは、最後の審判のように私には思えます」


 ここで長老は、少し困惑気味に言葉を続けました。


「アブラハムよ、おまえの子、お前のひとり子イサクをつれてモリヤの地に行き、わたしが示す山で彼を燔祭として捧げよ」

 創世記二二章四節を口ずさみます。


「私たちはユダヤではないので、燔祭とまではいわないが、神の花嫁が必要となる」

「私には娘がいない、貴女の娘は神の花嫁にふさわしい」

 

 母親が、

「他の方には声をかけたのですか?」


「まず貴女の娘が、一番神の花嫁にふさわしい」

「断る自由はあります、その場合は、次の方に声をかけてみます」

 

「娘が神の花嫁になると、どうなるのでしょうか、娘は信仰深く、ラムスプリンガ――掟から完全に解放され過ごす、成人になるまでにアーミッシュとして生きるか絶縁するかを決める――の期間というのに、清らかな日々を過ごしてきました」


「オルドゥヌング――アーミッシュの戒律、快楽を禁じている――を守り、神への感謝をささげて来ました」

「フィオナはこの後、良き伴侶に恵まれ、心静かな生活をと、私は願っていました」


「試練の世界にいくことになる、しかし神の花嫁、私たちはこの問題に対して、話し合いを持った」

「そして『絶縁』することはないとの考えにいたった、戒律を破るわけではない、神の花嫁となるのだから」


「たとえ穢れた世界に住もうとも、私たちは神の花嫁は迎え入れることと決めた」

「しかし時々は帰ってこれても、この場所には住むことは、出来ないと思われる」


「娘は……子供を……」

「それはない、子をなす行為は、妻としては受けることになるが、花嫁として仕えるのは、神の更なる神、女神様だそうだ」

 

 フィオナはここで決意しました。

「長老様、お父様、お母様、私は嫁ぎます、誰かがならなければならない、ならば私がなりましょう」


「……」


「そうか……アーミッシュからはオハイオからもう一人、神の花嫁が予定されている、十八歳だそうだ」


 こうしてフィオナ・メーニッヒは、神のいる東京へと旅立つことになりました。


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