あずき茶屋騒動


「おはようございます、まさかこんなところでお会いできるなんて幸せです♪」

「たしかカナダのクローイさんでしたね、盆踊りの時の……清女さんになっていたのですか」


「はい、推薦してくれる方がおられまして、清女にさせていただきました」

「リングを不可視にしているのね、どうして?」

「feeling ashamed or awkward……――和訳すると、気恥ずかしくて――」


 ミコさん、少し笑ったようです。


「奥ゆかしいのですね、がんばってくださいね、ところで貴女も『あんこ』好きなの?」

「私は『あんこ』は初めてなのですが、『あずき茶屋』がおいしいと聞いたので、先日訪れたのです」


「はまってしまって、今日は小座敷を予約して、ゆっくり食べようと思ったのです、ミコ様、ご一緒願えませんか?」


「いいわよ、おごってあげるわ♪」

 ミコさん、クローイが予約した小座敷に気軽に座ると、小倉抹茶パフェなどというものを注文します。


「メニューにモンスターってあるけど、注文できるの?」

 何でも十五人前だそうですけど、五日前に予約しなくてはならないそうです。

「残念ね、せっかく二人だから、チャレンジしようとしたのに♪」

「二人で十五人前ですか?お腹が壊れますよ、それに……私、その……ショーツのラインが見えるのは恥ずかしいので……その……はいてなくて……」

 

「お洒落ね」

「……」


 で、結局ジャンボサイズを頼んで、二人で食べることになりました。

 ジャンボサイズは三人前です。

 

 パフェのカップにスプーンが二つ……

 ミコさんこのあたりは、本当に鈍感なのですが、クローイはどきどきものです。

 

 目の前でおいしそうにパクパク食べられると、つられてクローイもパクパク。

「おいしいですわ♪」

「でしょう!ここの餡子はちゃんとした小倉餡なのよ、大納言の粒餡とこし餡を混ぜているのよ、手抜きしていたないところがグッドよ!」


「今度はきんつばなどいかが?」

 返事も聞かずに、十個ほど頼んでいるミコさん、これまたパクパクと食べています。


 九個も食べ、さらに最後の一つをかじって、ハタと気がついたミコさん、

「いけない、私一人で食べているわ!」


 恥ずかしそうにしているミコさんですが、クローイはここが押しの第一ポイントと思ったようで、

「ミコ様、私はそのきんつばをいただきますわ」


 などといって、きんつばを握っているミコさんの手に両手を添えて、ゆっくりと手前に引いて、そのかじりかけのきんつばを食べたのです。


「……」


「そろそろ出ましょうか?」

 

 クローイは、ここが押しの第二ポイントと判断しました。


 そこでミコの手を握ったまま、

「お菓子がお好きなのですね、私の家に来ませんか、良いメープルシロップがあるのです」

「ビーバーテイル――平べったい楕円形をした揚げパン、チョコレートソースやメイプルシロップをかけて食べる――なら私でも作れます、食べに来てくださいませんか?」


「……」


「全てカナダ産ですよ、素材は最高のつもりですし……部屋には、食後の運動も出来る器具もあります、いかがですか?」


「運動?」


「カナダはロデオが盛んなのですよ、それに私は前職が騎馬警官でもありますし」


 少し肩をすくめたように見えたミコさん、こういいました。

「狼がやってきて、赤頭巾ちゃんが食べられても、知りませんよ」

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