見做(みな)しメイドのアルバイト


「ママね、一つ良いことを知っているのよ」

「今度ね、レイルロードの物資補給部が、ステーションに二十四時間のフード・ショップを計画しているの」


「将来的には、ヒューマノイド型のロボットを配置するそうだけど、運営ノウハウを得るために、試験的に販売員をさがしているらしいのよ」


「でも仕事場所が、レイルロードのステーション内、安易に一般人を、雇うわけにはいかないのよ」


「ニライカナイのデミ・モンドさんを、動員しようとしたのだけど、あの方たちは、美少女のトランジスターグラマー人種、その上に疑うことを知らないときていますから、不測の事態が起こると意見が出てね」


「やはりマルス文化圏か蓬莱文化圏の人間を、雇うしかないということになったのよ」


「ママの所属する部署の一つ、テラのディエゴガルシア管理官府の職員を出せないかと、打診があったけど、優秀な職員は、ほとんど各地のナーキッド領域管理官府に配属されており、ご他聞にもれず人手不足は深刻なのよ」


「とにかくどこのハウスも人手不足が深刻、やんわりと断られているそうなのよ」


「私はまだ任官していないのよ、レイルロードの物資補給部が断るのじゃないの?」

「貴女の場合は、『見做(みな)しメイド』になっているのよ」

「『見做しメイド』?」


「ママもこの間まで知らなかったのだけど、貴女は我妹子(わぎもこ)証文に自署しているでしょう?」

「もうミコ様の女なのよ、だから望まれれば、夜のお仕事をしなければならない、それは理解しているわね」

 素直にうなずくコニー。


「つまりメイドの扱いになっているの、一応は学生だけどメイド扱い、それを『見做しメイド』というらしいの」

「正規の名称ではないのよ、女官名簿の最下欄に、『女官扱い者』として、名前が載るらしいのよ」


「でも『見做』といえど、メイドですから、もし任官拒否や夜伽拒否などを選択したら、機密情報は記憶から削除される、そして普通なら年金などもつくけど、つかないらしいわ」


「夜伽拒否など、ありえないから関係ないわ、ママの話では『見做しメイド』という以上は関係者、そのフード・ショップの販売アルバイトをしても、問題はないわけね」

「そのとおりね、でアルバイトの話、どうする?」


「やるわよ、だってほかにアルバイト先、ないもの」


 ……もう、コニーったら、単純なんだから……


 ……ママったら、正直に言えばいいのに、最初から私が指名されたのでしょうに、でも何故私なのかしら……


 コニー・アルバーンは、ルシファー宮殿で行われる八年制高女の文化交流のとき、選ばれてレセプタント――パーティや宴会での接客する女性のことらしい――をしたことがあります。


 このときコニーは、ごった返して右往左往している、各校生徒を見事にさばいたのです。

 おまけに附属女子小学校の、ロリータ課程の児童がさみしそうにしていると、インスタントココアなどをサービスカウンターで作ったりしていました。


 小さい子のために、練乳を入れる工夫が好評で、ベティのお姉ちゃんの周りには、小学女子が集まっていました。


 これを誰かが見ていたわけで、フード・ショップの計画が持ち上がったときに、レイルロードの物資補給部長の景山響子に囁いたわけです。


 とにかくコニーのアルバイト先は、ソル星系内惑星貨物鉄道のマーキュリーステーション。

 標準小型ステーションと呼ばれるもので、主にテラ星系第一惑星マーキュリー上の唯一の都市、カロリスシティのためのステーションといっていいところ。


 ほとんど軍用となっており、民間施設としては取り立てて何もない、宇宙連絡鉄道の、格安簡易宿泊施設があるだけです。

 しかしカロリスシティが、軍用の備蓄食料を大量生産して、その余剰生産物がマルスに流れるようになると、行き交う人が多くなり、食事のとれる店が要望されるようになったのです。


 レイルロードの物資補給部は、全旅客ステーションにこのフード・ショップを設置する計画をたて、そのパイロットプランを実施する場所として、このマーキュリーステーションを選び、臨機応変に対応できる、拠出可能な要員として、コニー・アルバーンを名指ししたわけです。 

 

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