12話:信じて送り出した女神が目的忘れて脳内早口妄想するなんて

―――――




 季指こゆびみ、うっすら血がにじむ。

 ぷくっとふくらんだ情熱色あかい血のかたまり聖凱符せいがいふあてがい、の名をしるす。

 ――桐生きりゅう風雅ふうが、と。

 漢字かんじ――とか云ったっけ?

 この魔力も神威かむい微塵みじんも持たない原始的な謎の象形しょうけい文字。思いのほか、書くのが難しい。あたし色カスタマイズした情熱女神エキサイト翻訳の辞書機能スキルからの名を表示。見様見真似みようみまね記載きさい


 いで、聖召石せいしょうせきくだく。

 あたしのかたはいつも決まってる。聖召石を口にふくみ、左奥歯でみ砕く。

 大体だいたい、普段からゴハンを食べる時、どういうわけか自然と左奥歯で噛みめるくせがある。なので、この遣り方が一番、適格しっくりくる。

 他の女神たちは聖召石を地面に投げ付けて砕くのが一般的ポピュラー。実際、取扱説明書トリセツにもそう書いてあるオーソドックス


 じゃあ、なんであたしが聖召石をわざわざ噛み砕くかって?

 ――あまいから!

 激甘げきあま

 もう、超絶ちょうぜつ甘い! 甘い! 甘い! あま~い!

 ゆえに、美味うまい!


 多分、世界広し、宇宙おおぞら広しといえど、聖召石をしゃぶると“甘い”って知ってるの、あたしだけだと思う!

 抑々そもそもね?

 ありがたーーい聖召石を、口の中にほうむって行為こういそのものを、他の女神ヒト達はやらない訳よ。

 1つの異世界救世ぐぜを担当すると、必ず一個の聖召石が協会から支給される。でも、それだけ。基本、1つだけなの、1つだけ。

 他には、戦果せんかを上げるか、昇進するか、転生するか、しくは、協会から見て、頑張ってるな~、よくやってるな~、期待感あるな~、って場合にのみ、更に聖召石が支給されるの。

 あ! 忘れてた! 後、協会のミスや不備ふびなんかがあった時にも支給されるんだった。


 聖召石はピカピカ光る綺麗きれいな透明感のある虹色にじいろ燦々きらきらかがやく星を具象化イメージした形をしている。

 その姿形すがたかたちが、どことなく“金平糖こんぺいとう”を思わせる訳。

 そんなの目の前にあったら、そりゃ~、口の中に放り込みたくなっちゃうでしょ?

 そしたら、もう甘くて甘くて、っぺ落ちそうなくらい美味しい訳よ!


 で、口の中でころがしてると――

 ――噛みたくなる!


 あたし、別に氷食症ひょうしょくしょうって訳じゃないんだけれど、気付くと一欠片ひとかけらアイスを口の中に放り込んじゃう。

 したの上でころころ転がし、冷たさの限界に達する前に、口内こうない左右にこおりを移動させつつ、犬歯と奥歯あたりで甘噛あまがみ。

 その氷が砕けるか、砕けないか、ギリギリの限界ラインを楽しみながら、ころころレロレロする。

 これが、至高しこう

 でも、あたしって飽きっぽいから、氷がけきる前、その途中とちゅう面倒臭めんどうくさくなって、いつもんじゃう!

 ほら? 氷って味ないじゃん? 飽きるよね? あたしじゃなくても絶対、飽きるよね?

 だから、噛み砕くんだけど、その時のキシッとした感覚。あの脆弱ぜいじゃくな固形物がきしみ、砕け、こりんとした音と触感がたまらない!

 これが、最高!


 ――あれ?

 至高VSバーサス最高、どっちが上なんだろ?

 氷が砕けない限界を攻める至高の喜びと氷を砕いた瞬間に感じる最高の感覚、どっちがいいんだろ?

 あたしはどっちが好きで氷を食べてるんだろう?

 おかしーな?


 ハッ!?――

 な、なにか、大事なことを忘れているような……

 そうだ!

 聖召石を噛み砕くって話だった!


 迂闊うっかりしてた。いや恍然うっとりしてた。

 口の中で転がす聖召石が、あまりにも甘くて幸せだったんで、多幸感たこうかんのあまり悉皆すっかり忘れてた。

 聖召石を砕かないと召喚ガチャできない。

 つまり、砕かなければいけない。

 でも、砕くともう、甘さを味わえない。

 なんていとしくもせつない女心おんなごころくすぐあめちゃんなの!

 ――ラヴ、それ飴ちゃんドロップやない。聖召石や!

 つみな石。罪作つみつくりな石。

 もっと悠然ゆったりと味わっていたいのに!


 コリンッ――

 噛み砕いた刹那せつな、口いっぱいに広がる甘酸あまずっぱい魔力、いえ、芳醇ほうじゅん神気しんきの高まり。

 口から虹霓ラルクアンシエル吐息ブレスを一息、く。

 その虹色の煙霞えんかは、一種の固有結界こゆうけっかいを生み、特定世界の界抑止力ワールドモラル無効化むしして、救世主きゅうせいしゅ候補を緊急きんきゅう招来しょうらいする。

 聖召石一個に対して一回のみ、召喚しょうかん可。

 どのようなタイプの救世主が、すなわち、どのような勇者が召喚されるのか、完全にときうん

 出会ってみなけりゃ分からない、ろくでもない博打ギャンブル

 天井てんじょう無しの無作為ランダム召喚というクソゲー仕様しよう

 まったく――射幸心しゃこうしんあおる事、この上なし。


 しかし、――

 今回だけは違う。

 ――の存在。

 大女神おおめがみヨタ・ソトス様から特別にゆずり受けた聖凱符せいがいふがある点。

 この聖凱符に血文字で勇者の眞名まなを記し、聖召石を使えば、確定かくてい召喚ガチャができる。

 つまり、SSRしゅきしゅきレア桐生風雅、爆引ばくひきである!

 う~ん……――よき!


 さあ――

 召喚の時間ショータイムよ!


「ティフラクヴラ、ティフラクヴラミガメ! とどけよ! 合図あいず。ティフラクヴラ、ティフラクヴラミガメ! 見屆みとどけよ! 両眼アイズ

 心元むなもとしげもとひた流離さすらい、虛空こくうえんいたして苦樂くらくあいす! 我が口許くちもと刺激しげきもとした彷徨さまよい、口腔こうくうもんいたりてらうぞアイス

 ティフラクヴラ、ティフラクヴラミガメ! 召喚しょうかんおうじよ、偉大なる英霊えいれい! 我がねがいい聞きとどけ、世界をすくたまえ! <再・演・希・望グランド・オファー>!!!」


 ――来やがれ! あたしの勇者、桐生風雅キリュー・フーガ


 ドン!――


 ――バリバリッ、バリバリバリバリリッ! バリリリッ!

 きた!

 来たよ、きたキタ! ましたわ~♪

 稲妻いなずま雷光らいこう轟音ごうおんともなって空間を穿うがつように、颯爽さっそう登場、勇者のお出まし!


 !?――

 あれ? あれれ?

 ――なに、コレ?


 そこに現れたのは、まるで上座部仏教じょうざぶぶっきょうの仏像さながら、片肘かたひじをついて横たわり、髪ボサボサで鼻を穿ほじ欠伸あくびをする寝転ねころんだ姿の風雅が。

 オーラゼロでぼーっとあたしを見詰みつめる。


「……――やあ」

「やあ、、、じゃないわよ!」


 ちょっとーッ!

 どーなってんのよ、!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る