第9話 地獄の始まり 仏は燃やせ。寺燃やせ 1556年平戸(日6P159)

ここから地獄の始まりです。仏が燃えます。

楽しかった平戸はホラーハウスになっていきます。

さようなら、平和だったころの平戸(個人の感想です)

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「おどれら!何をしとるんじゃぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 大恩人 籠手田のオヤジが改宗してから数ヵ月後、隆信は御礼をするため度島たくしまにきていた。

 長崎の北西にある度島は、平戸から8km離れた孤島である。

 広大な島は火山島の様な隆起があり、海岸沿いに船が並ぶ漁師の島だ。

 作者は長崎に行ったことが無いからストリービュー映像のイメージだけで言ってます。だって大分から遠いし。


 その集落の広場にはたくさんの

 仏師が精魂込めて作った美しいものから、個人が木を削って作った素朴なものまで、古いも新しいも関係なく、まるで廃棄されたキユ○ピー人形のように積み上げられている。

 ひとつだけ変わった点があるなら、集められた仏像にはキャンプファイヤーのように事くらいだろう。

「ハハッ!(甲高い声)仏像は焼却じゃぁぁぁぁぁ!!!」

「悪魔の像のタマとったるでぇえええええ!!!!!」

「ぶっちぎりだぜオラァ!!!!」


 こいつらヤバい薬でもキメとるんかいのう?


 世紀末のような光景を前に隆信は軽い不安を覚えた。

 以前、無法ハーブ(当時は規制する法律がないので違法も合法もなかった)をたしなんだ際に「兄貴、ゆうべはおたのしみでしたね」と若干引き気味に言われたことがある。

 あの時は、なんかすごく光輝く世界にいた気がするが、そのあいだ現実世界で何をしていたのか全く記憶がない。

 そんな光景でもこの島の住民はみているのだろうか。みんな陶然とした目で仏さんが燃えているのを眺めていた。

「ヒャッハーッ!!!仏像は焼却だぁぁぁ!!!!」

 嘘です。ギラギラとガンギマリしたような目でアッパー状態になりながら仏像の処刑を楽しんでいました。


 その中で、ちょんまげをモヒカンのように立てた善良なる住民が笑いながら隆信に手を振った。

 籠手田のオヤジの息子、籠手田安経こてだ やすつねである。

「おう頭ぁ!どうしたんじゃ?急に」

 それはこちらのセリフだ。このサバトみたいな光景はなんなのか?

「ああ、実はの。宣教師の先生にこんな本をもらったんじゃ」

 そこには「25かじょう。カテキズモ形式でかんたんにわかる、いだいなる でうす」と書かれた本があった。(日6P159)

「でうすの教えは1500年の歴史があって、講師陣も充実。25章の分割形式だから安心してでうすの教えが学べるゆうわけじゃ」

 にこやかにはなす籠手田に「お…おう」と返答する隆信。すでにこの島に来たことを後悔していた。

「さすが、う゛ぃれら先生じゃのう。こうしてテキスト形式だと文字も読めない若い衆にもワシの口から教えることができるんじゃあ」

 隆信は会ったことのないヴィレラというクソガキがこの事態を招いたことだけはわかった。

「な、なあ籠手田よぅ…」

「なんじゃ?頭ぁ」

「ずいぶんと景気良く仏さんがたを燃やしとるなぁ」

 ごうごうと燃える炎は地蔵の表面をこんがりと焼き、どんどん灰にしている。

「ああ、ええじゃろ。あの悪魔の像を燃やしたら、でうす様が喜ぶと司祭の先生と話たんじゃあ」(日6P161)

 めまいがした。

 貿易のために必要というから布教を許可したのに何してくれとんるんや、あのカバチは。

「と、ところでな。お前の親父っさんは、このことに関して、なんというとるんじゃ?」

 隆信はおそるおそる訪ねる。息子の不始末を叱るのは親の責任だ。だが


「おう!親父っさんな!おう!親父っさん!」


 籠手田の満面の笑みをみて、隆信はいやな予感がした。

 そんな事はおかまいなしに籠手川ことドン=アントニオ(洗礼名)は言った。

「ウチの親父っさんも改宗してな。『ぜろにも』っちゅう洗礼名をもらったんじゃ!」(日6P159)

 頭の上がらない恩人はゼロニモになったらしい。悪夢である。

 ブルータスおまえもか。

 そんな言葉が何故か隆信の脳裏には浮かび「は?」と口にするのが精一杯だった。

 ぶるーたすって誰だよ?

「じゃから、ウチの親父っさんもキリシタンになったんじゃ!」

 それは知っている。だが、それとこの集団放火祭りとどう関係していると言うのか?オヤジはこれを黙認していると言うのだろうか?

 めまいがする思いだった。

 そんな隆信に籠手田は畳みかける

「さらにな、度島だけじゃなくて生月(いきつき)の島々と平戸島の獅子、飯良(いら)春日でも宣教師の先生の説教が行われてな。でうすの教えを理解したんで寺中の偶像を集めてたき火をしとるんじゃ!イイネ!」

 なにがいいものか。


 指示が行き届かないほど細かい島々で、目の前のサバトが開かれていると知って隆信は頭を抱えた。

 今の無住持の寺と違い、当時の寺は立派なシノギの拠点である。そこから仏を持ち出すというのは

「単なる窃盗じゃねぇか!」

「ど、どうしたんじゃ頭」

 驚く籠手田の肩を再度がしりとつかむと隆信は言った。

「あんな籠手田の。お前の家にワシの若い衆が無断で入ったとするじゃろ?」

「お、おう」

「そしてお前の家の大事な道具…ええと「こんたつ(数珠の付いた十字架)だったかの?それを盗んだら、お前はそいつをどうする?」

「組の奴ら全員で袋だたきにして、島じゅう引きずりまわして、顔をぐちゃぐちゃになるまでぶん殴ってから、なます切りにして首をさらすじゃろうなぁ」

 一言ワシに相談位しろ。と思ったが話がそれるので隆信は続けて

「そうじゃろ?人の大事なものをとるような奴は殺されても文句が言えん」

「そうじゃそうじゃ」

 よし、

「だったら、お前等のやってることも…その…良くないこと…なんじゃないんかのう?」

 精一杯気を使って、狂犬に『待て』をかけるように諭してみた。

「は?悪魔の偶像なんて焼いてやるのが優しさじゃろ?わざわざ燃やすのが面倒じゃろうから代わりに燃やしてやっとるんじゃ」

 真顔で言われた。

 それはいっさいの迷いのない綺麗な目だった。


 やばい、こいつ話がつうじない。


 隆信は頭をかかえた。

 こんな光景を、小うるさい寺の坊主にみられたらなんと言い訳して「な、なんですか。これは」

 みれば最悪のタイミングで坊主が来ていた。

 その両の目には隠しようがないほど、仏像を燃料にしたキャンプファイヤーは赤々と島を照らしているのが写っていた。

「くあせふじこあkfhのlっs!!!j」

 般若のような形相で火を消すように言ってくる坊主の抗議をBGMに隆信は

「でうすでも仏さんでも悪魔でもええから、誰かこの問題解決してくれんやろか」

 と他人事のように考えていた。


 これは夢じゃ。早く逃げたい。


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去年の9月15日前に書きためていたフロイス日本史のメモまで話が進んだのでしばらくストック放出ができるようになりました。

他県人にとっては笑いごと。御当地にとっては胃が痛くなるカルト宗教の侵略です。

1578年の豊後ではこれ以上の悪夢が開催されてます。助けて!

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