第3話
本書は小説と言う名をかぶった何か、というロックな感覚を大事にするメモ帳なので、史実から目をそらし、脳みそをコネコネしながらコンパイルな気分で気楽に読んで頂きたい。
特に初期の南蛮貿易に関しては資料が少ないので、この時期に大儲け出来てたかは不明で調査中だったが、急にカクヨムさんから紹介されたので「乗るしかない、このビッグウェーブに」と急きょエンターテイメントに徹して分からない部分を進めることにした。
1555年からは書き終えてるので、急に話が飛ぶかもしれないが、そこからが本番なので仕方ないとあきらめて頂きたい。筆者は諦めた。
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薩摩出身の日本人、アンジロウはザビエルの通訳として平戸に随行していた。
アンジロウは最初ザビエルの事を『インドから大日(如来)の教えを来た僧侶だ』と日本人に説明したらしい。
なぜ後に『キリスト教的に悪魔』と言われた仏教の神々を布教しに来たと言い出したのか?それは次のようないきさつがある。
1545年頃に鹿児島で殺人を犯したアンジロウはマラッカに逃亡し、紆余曲折の末ザビエルとであい日本の案内役として帰国した。
しかし、日本に帰国したばかりのアンジロウはキリスト教という宗教を日本人にどう説明するかで非常に困ったのである。なにしろ『イエス』も『キリシタン』という言葉も当時の日本語には存在しなかったのだ。
明治時代に「官憲」とか「警察」という言葉が知られてなかった時代、警察は薩摩人が多かったので「薩摩っぽ」の略称で「マッポ」という言葉が今でも警察の隠語となっているのだが、分からないものには分かる言葉を当てはめるのは人間の基本である。
難しい薬名は分からなかったが、疲労がポンと取れるから『ヒロポ(検閲が入りました)
おまけに外国に逃亡した鹿児島生まれのアンジロウは、インドには行ったが欧州を見た事は無い。
アンジロウにとってザビエルとは『インドから一緒に来た人』にすぎないのである。
そこでキリスト教の最高主神を仏教の偉い仏『大日如来』と置き換え、『天竺(の方)から来た偉い人が大日の教えを広めに来た』と説明した。
まるで『消防署の方から来ました詐欺』のような説明になってしまったので、最初鹿児島の坊主は「あの偉人はんは天竺からありがたい仏の教えを伝えに来たんや、どえらいお方やなぁ」と勘違いしたらしい。
この勘違いは京都に行って山口に戻るまで続いたと言う。
なので平戸でも同様の説明を行っていたのだろう。
(ヨーロッパの途中にある)天竺から、大日(如来のような至高の存在であるデウス)の教えを広めに来たわけである。日本語って難しいね。
ところが、中国で商売をしていた欧州の商人たちは旅の安全を祈ってもらおうと平戸に立ち寄るようになった。
そうなると珍しい品や生活用品が商品として市場に並ぶようになるのは自明の理である。
日本では見たことも無いような品物が平戸にも来るようになった。
松浦はショバ代を取って儲かる。日本の商人は近畿で法外な値段をつけて儲かる。
平戸は一躍、貿易バブルが訪れたのである。
「うはははははは!!!海外貿易はおいしいのう!おいしいのう!」
松浦隆信は港の使用料として徴収した銭をじゃらじゃら鳴らして上機嫌である。
今までも中国の船はやってきていたが、外国人は同乗する人間がいた程度で、ここまで集中したのはこれが初めてでは無かっただろうか?
「日本人は珍しいもの好きじゃけんのう!兄弟!たまらんぜ!これは!」
ザビエルを紹介した王直も羽振りが良くなった。
なお1551年にザビエルがメガネ・時計・ビロードなどの13の珍品が大内義隆に献上された記録がある。
目の悪い人間が遠くまで見える道具。太陽や線香の減り具合でしか時間を認識できなかった田舎ではとんでもないオーバーテクノロジーである。
「そりゃ、好事家に高く売れそうじゃのう」
あんまり興味なさそうに隆信はつぶやく。
が、特筆すべき商品があった。
「ああ、特にタバコというのは明でもブームになっとってな。どんなに増税しても買う人間が後を絶たないんじゃ」
「それ、何かやばいクスリでもはいっとらんか?」
アヘン戦争で中国がイギリスに領地を取られるのは300年ほど後の話である。
不審そうな隆信の質問に王直はにやりと笑って
「まあ、やばかろうがそうでなかろうが、買うのはお客さんじゃからな。売るだけのワシ等には問題ないじゃろ」と言った。
「それもそうか」
隆信はあっさりと納得した。
自分の領民に広まるのはダメだが、見も知らない他人がどうなろうが知った事では無い。
クスリの売人は決してクスリに手を出さない。昔から伝わる鉄則である。
ダメ!ゼッタイ!違法薬物の使用は危険です。
余談だが筆者の親戚は父親含め3人が肺がんになり2人が死んだ。
癌と分かっても療養中の唯一の楽しみとしてタバコを手放さなかった父親と叔父は死亡し、タバコと手を切った叔父だけが今も存命している。
あれがなければもう少し未来が変わったのではないかと未だに思うときがある。
他にも珍しい品は運ばれてくるが、一番うまみが大きいのが中国の絹糸である。
当時日本で絹の量産は進んでおらず、禁輸政策を取っている明からの輸入品の方が質が良かった。
その絹をマカオ経由で外国船は運んでくるのだ。
だが、美味い商売は他人も真似しようと寄ってくる。その点キリシタンという宗教はまだまだ未知の分野で知っている人間は少ない。
最近では広域暴力団である大内組や大友組が手を出したそうだが、あそこはどちらも裏切りや抗争が続く物騒な土地である。
その点、平戸は田舎の僻地なので戦争はほとんどない。安全な拠点としての利点がここにはあるのだ。
余所の者たちが薬で苦しもうが平戸は安泰。
そう考えていた隆信だが、じつは薬よりもっとヤバいものを国内に持ち込んでいたと言う事にまだ気がついていなかった。
そう、宗教と言う中毒性の高い商品が日本人に広まるのはこれから4年後の事である。
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