第20話 彼女の手料理効果?
「なんか顔色良くなったよな、お前」
奥村さんとの1on1を終え、お昼時にオフィス近くの定食屋で唐揚げを頬張っていると、涼介の不思議そうな声が飛んできた。
僕は怪しい通販を見るような視線で涼介を見やったまま、自身の唐揚げ定食を覆うように両手で隠す。
「何が目的? 褒めても僕の唐揚げはあげないよ」
「ちげーよ! そんなショボいたかり方するか!」
冗談だと、僕は残り一個となった唐揚げを口に放り込む。
時間が経って少し冷めてしまったけど、美味しい。
「お前、そんな冗談言うやつだったっけ?」
言われて、首を傾げた。
確かに、僕にしては珍しい返し方をしたものだ。
「たまにはそういう気分になるんじゃない」
「気まぐれってやつか」
「かもね。それより、僕の顔色がなんだって?」
「や、なんか以前と比べて健康的になったなーと」
僕は自分の頬に手を当てた。
手の内側から感じ取れる質感を探る。
確かに前に比べて肌にハリがあるような気が。
「触っただけじゃわからない」
「わかったらすげーよ。どんだけ毎日お肌チェックしてんだよ」
「悪いけど、君のようなナルシストじゃないんだ」
「いやー、それほどでも!」
「褒めてない。具体的に、なにが変わったの?」
「前はほら、青白くて如何にも食生活乱れまくってる感じだったじゃん。今はちゃんと、血色があるっていうの?」
彼の言うとおりであるならば、僕の身体に何かしらの変化が起きているのだろうか。
思い当たる節といえば……。
「なるほど、お隣のJKちゃんか」
パチンと指を鳴らし人差し指を鉄砲のように向けてくる涼介。
とても鼻につく動作だが、またもや一発で核心を突かれたことに意識が持って行かれた。
「参考までに、どんな方程式組んだらその解答が出て来るのか教えてくれない?」
「健康は食生活からって言うしな。夕食を作ってもらってるって話はこの前聞いたし、大方、バランスの良いメシをJKちゃんに食わせてもらっているのかと」
確かに思い返してみると、最近は以前よりも身体の調子が良い気がする。
寝起きの倦怠感が少なくなったとか、仕事終わりの疲労が軽減されたとか。
「君、ITじゃなくて探偵系のインターンの方が向いてるんじゃない? 絶対そっちの方が輝けるよ」
「俺はどこに行っても輝けるから、場所はぶっちゃけどこでもいいのさ」
鼻高々に語る涼介に冷たい視線を投げかけるも、彼はなんとも思っていない様子だ。
「いいなーっ、俺も志乃さんに毎日飯つくってほしー」
涼介がナチュラルに惚気をかまし始める。
「作ってもらえばいい」
「向こうが忙しすぎんだよなー。ほら、最近教師って激務だし」
「SNS関連のトラブルも増えてるみたいだしね」
「そーそ、だから羨ましいぜ」
僕は残りの白米を乱暴にかき込み、冷たい水を一気にあおって現実を説明することにした。
「羨ましがられるもんじゃないよ。プライベートはごっそり削られたし、性格が正反対だから、ストレスを感じることもある」
「でも、本心から嫌ってるわけじゃないよな?」
「……さあ」
どうなんだろう。
確かに日常生活をする上で自分の時間が減ったし、会話をする中で噛み合わずイラッとすることもある。
しかしその反面、毎日美味しい夕食を味合わせてもらっているし、ふとした時に楽しいと感じる瞬間もなくはない。
だからと言って、次の日彼女との関わりが切れたら困る、というほどでもないけど。
「なんだよ煮え切れないなー。優柔不断な男は嫌われるぞー?」
「嫌われても構わないし、別にはっきりさせるつもりもない」
「そっかー。まあ、お前がそう言うならそうすればいいと思うけど」
涼介は色々言ってくるものの、価値観や行動を強制するようなことはしない。
その点においては程よい関係性を築ける数少ない人間だと思う。
あくまでも同僚として、だけど。
会計を済まし、店を出る。
オフィスに戻る途中、個人的には微妙だったラーメン屋の前を通っていたら涼介が立ち止まった。
「望月、今週末は暇か?」
「ラーメン行こうって話?」
「わかってるやんけ」
彼はどんだけ僕と麺をすすりたいのだろうか。
涼介が期待に滲んだ瞳で返答を待っている。
僕は少し考えて、定型文として用意していた答えを返した。
「今週もちょっと行くところがある」
「そっかー、じゃあまた次の機会だな」
というやり取りを交わしたものの、週末に予定など入っていない。
繰り返しにはなるが、貴重な週末を同僚のために使うほどメリットを感じない。
だから基本的に、涼介のお誘いは断っている。
それだけだ。
オフィスに戻り自分の席に腰掛ける。
頭にエンジンをかけてから、カタカタとノートPCを叩き始める。
微かにやってきた眠気を振り払いながら仕事に邁進していると、ふとランチ中でのやり取りが思い起こされた。
「顔色が良くなった、か」
言葉にしてから、僕の中で永くに渡り微動だにしなかった根幹がほんの僅かに揺れた、かもしれない。
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