最前線
つっても……どうする? ここを仮にも勇者軍である俺が通り抜けるにしても正直行ける気がしない。何回死ななきゃならんのだか。しかも恐らく両軍の最精鋭がここに集結してるって言っても過言じゃないだろうし。
ほら、たった今何十もの吸血鬼がこっち側の奴らボッコボコにしてるし……
「ッ! ああもう! やってやるよクソがっ!」
ここで待ってても埒が明かない上、さっき見たく巻き込まれるなんて事は火を見るより明らかだろう。
鉄剣を構え、落ちていた死体を引っ掴んで魔王軍側に特攻。勇者軍側を通ろうものなら秒で捕らえられて刑罰ものだからなっ! 後単純にあの銃撃に巻き込まれたくねぇ! 良い肉壁になってくれよ!
「──グフッ、アアアアアアッ!」
何発もの銃弾が肉壁を貫通し、殺到する。
無数の傷がつき、痛みでくずおれそうになるものの、気合いで立て直す。時折、俺に魔王軍の奴らの異能が飛んでくるが全部無視。クソ痛いけどどうせ復活できるしな。
「──『天剣』ッ!」
勇者サマの朗々たる声が戦場に響きわたり、一本の光の柱が顕現。俺含めた射程内──数百ぐらいか? の命が埃を払うかのように消し飛ぶ。
即座に俺の異能が発動、蒸発した身体が修復される。
「……ああ。キッついなあ。んでも、行かなきゃ」
貫かれ、修復。撥ねられ、復活。蒸発して、蘇生。
こっち側に接近してくる奴は誰であろうとハンドガンで蜂の巣にし、瀕死になっても這ってくる者は心臓を貫いて殺す。
それでもやはりここは最前線。何度かハンドガンをぶっぱなしても通らない奴はいるし、消し飛ばしてくる化け物もいやがる。
そんな奴ら相手には閃光玉。一瞬だけでも視界を潰し、血塗れになりながらどうにか逃げる。
──それを続けてどれぐらいの時間が経過しただろうか。突如、痛み以前に身体中の力が抜けていく。
「……どうい……う……事だ……」
戦場に倒れ込み、動かなくなっていく首を力いっぱい動かして大元を確認するが、一切見当たらない。
訳が分からない。
……あぁ、まぁた、意識が……遠のいて……………
「……あぁ、ああああああああぁぁぁ……ああああああああぁぁぁッ!」
抜けてグズグズになってしまった力を掻き集め、無理やり立ち上がる。見ると身体からは紫の光が微かに漏れだしているのがわかる。
………………そうか、これが……この感覚が
「ははっ……よし、行くか。いい加減」
「──待て、裏切り者」
銃撃と剣戟、そして異能の音が木霊する混沌とした戦場に似つかわしくない程に平坦な声。
「けっ、誰が待つかってんだ……ロ軍大将さん?」
「黙れ、裏切り者。最前線にいるのにも関わらず命令も無しに撤退を選択、ましてや同じ釜の飯を食べたであろう同胞を殺した……これは重罪だ」
声の方向に嘲笑いながら振り向く。
視線の先に映るのは黒い軍服を纏った白髪の男。
幾度にも渡る戦闘で右目を負傷、残った左目がこちらを睨みつける。そこには殺意。
胸元に輝く無数のブローチが彼の戦果を物語る。
……ああ、怖い怖い。
「知ったこっちゃ無いなッ!」
鉄剣を構えて突撃。
何度死のうが復活出来るって言うのはまぁ大きいアドバンテージとなる為、俺みたく常人程度の身体能力でもこいつをどうにか出来る。……はず、だ。
目の前の大将サマは手元の槍を構えず、静止。
「──甘い」
していたが、認識すらも許さぬ速度で肉薄。
こちらの移動速度も相まり、胃腸が爆ぜるような速度で腹を殴られ吹き飛ぶ。
「カハッッッ!? クソがあっ!」
「ふむ……貴様の異能は大方『再生』とでも言った方がいいのかね? 例えなんであろうと貴様には扱いきれぬ物だ」
嘘、だろ?
どうして吹き飛ばされた方向にこいつがいる?
上から落ちてくる槍を首を捻り避け──
「許さぬよ『遅延』」
──こちらの動きが静止。
いや、これは静止ギリギリまで……?
槍は更に加速、当然避けきれるはずもなく俺の頭は貫かれる。
ま、そのまま異能で復活。
逆手で鉄剣を相手の脚に突き刺す。
……再び蹴り飛ばされたが、相手に一撃加えたことが出来ただけまだマシ。
「ぐっ……どういう事だ。何故、何故……」
──うるさい。黙って死ねよ。
そのつぶやきと共にハンドガンを発砲。そのまま可能な限りの速度で連射。
「ちっ、弾切れか。しかも一発も届かないってのは驚きだな」
放った弾丸全てが相手の目の前で静止。
叩き落とされ、こちらに再び肉薄。
……何度も同じ手は喰らわないんだよ。
心臓を貫かれる感覚と共に大将サマの首根っこを掴む。
当然振り払われる……が、間に合った。
己の身体ごと貫いた鉄剣が相手を貫く。
「……何故、だ」
「……ふう。救済、完了」
屍となった大将を放置。刺さった剣を無理矢理引き抜いて、再び宛のない旅を再開する。
……ああ、いつかは彼らも。
鉄と異端の救済者《サルヴァトーレ》 台所醤油 @didkrsyuy
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