第2話「高揚」
ようやく昼休みになるなり、窒息寸前の状態から解放されたばかりだ。
「さあ、翔太君。お昼にしましょう」
屋上へと通じるドアを開け放ち、逆光の中で少女が振り返る。
今日も
だが、連れ出された翔太には、
なぜならもう、二人は共犯者だから。
「な、なあ、四季音さん……やっぱ俺、考えたんだけどよ」
「翔太君のお弁当も作ってきたんですよ? いつも、購買部でパンを買ってますよね?」
「えっ? あ、いや、そうだけど。……なんで知ってんの」
「クラス委員長ですから」
屋上のベンチに座って、四季音はポンポンと隣を叩く。
渋々座ると、彼女のスマホを見せられた。
画面には今、一丁の拳銃が写っている。
どうやら
「えーっと、なになに? ……あ、ひょっとしてこれ」
――ベレッタM93R。
それがあの拳銃の名前だと、すぐにわかった。
「ね、翔太君。この子、ベレッタさんっていうんですって」
「だな……って、おああああっ! ばっ、馬鹿! 出すな、持ち出すな! しまえ!」
顔をあげると、そこには……四季音の笑顔があった。
彼女の手に、今しがた詳細を知ったベレッタM93Rがある。
四季音はそれを両手で構えて、無邪気に片目を
優等生の美少女委員長と、拳銃。
セーラー服を着た彼女が、一瞬だけ異世界の人間に見えた。
「ごめんなさい。隠す場所が思いつかなかったので、持ち歩くのが一番安全かなと」
「どっ、どこがだ! いいから、人が来る前にしまえ!」
「そう、ですね……取り上げられたら困りますし」
「そういう問題じゃないっ!」
四季音は悪びれずに笑って、小さく舌を出す。
かわいい。
やばい、なにこれ。
なんで俺、こんなことになってんの?
四季音はクルクルと拳銃を回して、その場で一回転。
スカートの中、
少しだけ、ぱんつが見えた。
「ガンベルトはすぐにネットで買いました。これなら見つかりません」
「あ、ああ……それよりお前、あの……あ、いや……
にこやかに微笑む四季音のぱんつは、まだ見えていた。
丸見えだった。
彼女がしまったと思っているガンベルトのベレッタに、スカートが挟まっているのだ。それを指摘しようとも思ったが、無邪気な笑顔を前に黙る。
ぱんつは今日は、汚れなき純白だ。
「私、ドキドキしてます……昨日は朝方まで寝付けなくて、寝不足なんです」
「お、おう」
「さっきのも練習したんですよ?
本当に四季音は楽しそうにはしゃいでいる。
真っ白なぱんつが嫌に眩しい。
「翔太君。私いま、凄くドキドキしてるんです。平凡な日常の中で、なんでもない平凡な女の子だった私……でも、ベレッタさんがそれを変えてくれたんです」
「平凡、ねえ……俺らから見りゃ、四季音さんはパーフェクトな優等生だよ」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ」
クスリと笑って、四季音は翔太を見詰めてくる。
その瞳が、あどけない可憐な表情の中で
それは翔太が初めて見る、悪い女の毒だった。
「私はですね、翔太君……いま、いけないことをしてるんです。そうやって、自分を変えてくれたベレッタさんは……翔太君の言う通り、御褒美ですよね!」
「いや、それは……あっ! そ、そうだ、それより、あの」
「そうだ! 翔太君、今日の放課後は暇ですか?」
「え? あ、ああ、暇だけど」
「じゃあ、私と一緒に過ごしましょう。実は、とってもいい場所を見つけておいたんです。二人きりで、ね?」
逆らえない。
逆らえる筈もない。
だから、やっぱり翔太は言いそびれた。
それに、もう四季音は知っている気がした。
今朝、例の自動販売機の前で一人の男が重傷で発見された。今は意識不明で、病院の集中治療室だ。
既にもう、犯罪の渦中に翔太はいた。
「翔太君にも撃たせてあげますね。二人で撃ってみましょう」
「……やっぱ、撃つんだ。それ。あとその、スカートが」
「ふふ、勿論。今朝のニュースは私も見ました。でも、私は……ようやく訪れた非日常を、このままでは手放せません。飢えて乾いた日常の突破口が、ほら……今ここに」
そう言って四季音は、
それは背徳が入り交じる危険な笑みで、今までで一番美しかった。
「あら? まあ……スカートがめくれていました。翔太君、見ましたか?」
「そりゃもう」
「ふふ、いけない人……ですね」
「どっちがだよ」
「ちょっと、嬉しいですね! 私たち、これは共犯者ですよね!」
「なっ、なに興奮してんだよ。それより隠せ、ぱんつと銃を隠せ!」
挟まったスカートを直して、四季音はようやくベンチに戻ってくる。そして、翔太の隣で二人分のお弁当を開き出した。
「ようやく私、ドキドキを手にしました。嬉しいんです」
「犯罪でもか? 身の危険は感じない?」
「感じてます……それがスリル、そしてサスペンスとなって私を……こんなの始めてです。何が起こるかわからない、予定も見積もりもない人生。それが今だけでも、嬉しい。しかも翔太君みたいな共犯者まで」
翔太はなにも言えなかった。
いったい、四季音はどんな人生を送ってきたのだろう? その内容は全校生徒が知っているが、それは
だが、一つだけはっきりしている。
四季音は今までが不満で、拳銃を拾ってからのこれからに希望を見出している。
しかしそれは、全てを危うい中へと放り込んでしまう、危険な魅力に満ちていた。
魅力と認めざるを得ない程度には、翔太も
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