世界は**に出来ている
@smallwolf
第1話 瑠璃
もう疲れた・・・
続く残業・・・上司からの理不尽な物言い・・・少ない給料・・・
そもそも何故俺は生きているんだろうか?
無論死にたいというわけではない、ただ生きる理由が少し分からなくなっているだけだ。
死ぬ程の理由は無いが生きたいという理由もこれといって無い。
大切な人が居るわけでもなし。やりたい事がある訳でもなし。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あー、今日も終電逃しかよ・・・」
会社で仕事を終えた後、俺は時計を見て呟く。
会社で泊まることもできるが・・・また仕事なんか振られると面倒だな・・・
「ネカフェでも寄っていくか」
そう言って俺は退社する。時刻は26時、終電も終わっているし辺りは真っ暗、街灯の明かりだけが辺りを照らしている。
公園などにも朝は体操しているお爺さんやらが居るがこんな時間には誰も…
「うん?」
俺は公園の影を捉えた。こんな時間に誰か居るのか・・・
通り道でもあるし少し興味があったのでその道を通る。
そこでは白髪の少女が空を見上げていた。
不思議な少女だった。
腰まで伸びる真っ白な髪、日本人形のような白く整った顔。
そして着ている物だ、病院の患者が着るような患者衣。
少女、夜の公園。ミスマッチに感じる。だからこそ惹きつけられたのだろうか。
「あ・・あの・・・」
思わず声をかけてしまう、何も考えていない、無意識に話しかけてしまった。何を話せばいい?話しかけてからこんなこと考えるとは・・・もっと考えてから話しかければ良かったと後悔する。
その時・・・
少女がその場で崩れ落ちる。
「な!?え?」
慌てて少女を抱きとめる。
柔らかい。女性と触れ合ったことは今までにもあるが今は特にそう思った。
心臓がバクバクする。女を抱いたことも何回もあるのに、何故軽く触れ合うだけで心臓が高鳴ってしまうのか…
「だ・・・大丈夫か?」
何とか声を振り絞る。これだけで一杯一杯だった。
少女はこちらに向き直り
「ごめんなさい、あ、ありがとうございます!」
そういいながら俺から離れペコリと頭を下げる。
小さい身長は、150センチくらいかな?
俺の胸くらいの身長、だからだろうか、儚く感じる。
「体でも悪いのか?」
出来るだけ優しく問いかけてみる。
「ちょっとした病気なんです、私。あ、でも大丈夫です、今日は調子が良かったから」
「ぷっあははは」
少女はそう言いながら両手を上下に振って元気であることを示す。小動物のそれを連想してしまい笑いが出てしまった。
「え?なんですか?」
「あぁ、いや、何でもないよ、でも調子が良いのは分かったけどなんでまたこんな夜の公園へ?」
「私、あまり外へ出たことがなくて…今日みたいに調子のいい日は周りの人に内緒で抜け出したりしてるんです。」
あまり外に出ない?生まれつき体が弱いとかそんなんだろうか?
「お兄さんはどうしてこんな時間に公園へ?」
「あぁ、俺は会社からの帰りだよ」
「こんな時間までですか?大変ですね・・・それじゃあ引き留めては悪いですね。」
「あー、いや、もう終電とかも逃してるしネカフェで時間潰したりとかしようかなと思ってたくらいだから別に急いではいないよ」
「そうなんですか!!??」
「ちょ!おい!」
少女はいきなり詰め寄ってきた、ちょ、近い近い!
「別に急いで居ないんだったら私とお話ししてくれませんか!?私他の人と話すことがあまり無くて!!」
「ちょっ分かった!!話し相手にでもなんでもなるから少し落ち着け!!」
少女を落ち着かせる。見た目に反して結構アクティブだなぁ、この子、びっくりした。
「それじゃあお兄さん、色々お話して下さい!」
「と言っても面白い話なんて思いつかんのだが?」
「それじゃあお兄さんの今までを話して下さい」
「俺の話?」
「はい!」
「いいけど・・・それこそつまらないぞ?多分」
「それでもいいですよ!早く早く!」
「あー、はいはい、じゃあ記憶残ってる小学生辺りから話すか」
それから俺達はベンチに移動し、俺は彼女に俺の過去を話した。
と言っても大した過去があるわけじゃない。普通に小学生、中学生、高校生、大学生を経て社会人になってるだけだ。
まぁ面白おかしくは頑張ってしてみた。
小学生の頃の話ではテストで俺だけが100点取って驚いて「嘘ぉ!?」と言ってしまって結構恥ずかしいというか申し訳ない気持ちになってしまったことを話し・・・
中学生の頃の話では受験勉強あまりしてない状況の模擬テストで最下位取って青ざめた話をしたり・・・
高校生の頃の話では全力で猫被ってた事を話し・・・
大学生の頃の話では
「大学生の頃の就活はマジ焦ったよ、どこの会社かは忘れたけど現在の日本の経済状況についてどう思われますかみたいな質問が来てさー、なんも思い浮かばなかった」
「それでどう答えたんですか?」
「もう無理だと思って知らんと答えてやった」
「ぷっあははは、それじゃあ受からないじゃないですか?その会社は落ちたんですか」
「ああ、そりゃ勿論、でもなんか適当に考えても無理だったと思うぞ?なんも思いつかなかったし、ならもうなんて答えてもいいだろ?」
「それにしても面接官の人に向かって知らんって、あははは」
彼女は俺の話を飽きもせずに聞いていた。多少脚色した感じだがそれでもこんなに俺の話を聞いてくれるとは思わなかった。
だから・・・だろうか・・・
「まあでももうちょい真面目に就活しとくべきだったかなぁ・・・」
「なんでですか?」
「今の会社がブラックなんだよ…今の時間に帰ってる俺を見ろよ・・・わかるだろ?」
「あ、そういえばそうですね。」
「それに俺は特にやりたいこともないんだよな、夢も無いし何したくて生きてんだかなぁ」
笑いながら最近思い続けていたことを告げる。そう、最近はこのことをよく考える。
「お兄さんはまだ夢を見つけてないだけですよ」
彼女はそう微笑みながら俺に言う。
「今お兄さんは何しようかなーって迷ってる状態なんだと思います。自分のやりたい事見つけたらそれに突き進んじゃえばいいんですよ。」
「それこそ会社辞めちゃってもいいですし、こんな無責任なこといったらダメかもしれないですけど・・・」
そう言いながら彼女は俺の手を取り告げる。
「お兄さんのやりたい事をやればいいんですよ、さっきの学生時代の頃のお兄さんみたいに。悩む時間もやりたい事をやる時間もお兄さんにはいっぱいあるじゃないですか」
彼女は俺の目を見つめ、そんなことを言う。
「社会人になってからそんなことは出来ねえよ。」
「色々固く考えすぎなんですよ、お兄さんが思ってるよりもこの世界は単純にできてると思いますよ?」
何言ってるんだろうか・・・
この世界は理不尽なことばかりで
上手くいくことのほうが少なくて
それなのに・・・
「さて!」
俺が何か言うよりも先に彼女は俺から離れ、
「それじゃあもう帰ります!お兄さん今日はありがとうございました!!」
「お、おう」
そういって少女は走り去っていった。
台風かなんかか?あの子は?
しかし結構話し込んじまったな、もう朝かよ・・・こりゃ徹夜だなぁ。
そうして俺は会社へと向かった。
それからの俺はやはりいつも通りの俺だった。
会社へ行く。帰る。寝る。起きる。会社へ行く。この繰り返しだ。
少女のことは覚えているが・・・特にやりたい事なんてやはり無い。
でも・・・また逢いたいとは思った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「今日の終電は終わり・・・か・・・」
仕事を終えた俺はそう呟く。
「またあの公園に居るかな?」
俺はそんなことを考えながら退社する。勿論向かうのは公園だ、居なかったら居なかったでネカフェにでも行けばいいだけだ。
公園・そこには少女の姿は無かった。
だが公園のベンチにて、初老の男性が居た。
そして俺と視線が合う。
老人はベンチを発ち、俺の元へと来ると。
「もし、数日前にここで女の子と話されませんでしたかな?」
「え?あー、まぁ話しましたけど」
「どんな話をされましたか?」
「俺の過去話ですけど、いったい何ですか?あの子の知り合いかなんかですか?」
老人は俺の質問に答えず、懐から手紙を取り出した。
「これは瑠璃の、如月瑠璃からあなたへの手紙です。」
「如月瑠璃?もしかして少し前に俺と話をした女の子の事ですか」
「はい、瑠璃からこれをあなたに渡すようにと、ここに居ればあなたが来てくれるかもとの事でしたので」
「え?これを渡すためだけにここで?」
どれだけの間ここに居たのだろう?俺がここに来る保証なんてないのに・・・
「それでは私はこれで。最後に一つ。・・・ありがとうございました。瑠璃と話してくれて・・・本当にありがとうございました。」
老人は俺に深く…深く礼をして、少ししてからその場を発った。
「なんだったんだ、今の」
老人の発った方を見ながらそう呟く、いや、今のホント何だったんだ・・・
そしてこの手紙・・・
「とりあえず・・・開けるか・・・」
そうして俺は手紙の封を開ける。
「お兄さんへ。
この前は私とたくさんのお話してくれてありがとうございました。
私、実はあの時病院から抜け出してきてたんです。
もう生まれてすぐの時から病気になっちゃっててつい先日もうあまり生きられないってお医者さんに言われちゃいました。
そんなに長く生きられないならと思って病院から抜け出すようになりました。
そしてあの夜お兄さんと会ったんです。
病院の人は事務的な事しか話してくれないですし、他の患者さんもあんまりお喋りって感じじゃなかったからいっぱいお話出来て楽しかったです。
私の夢は元気になって外の世界を走り回ることでした。叶いませんでしたけど・・・
でもお兄さんにはまだ時間があります!やりたい事やって下さい!
この世界はお兄さんが思ってるよりも単純なんですから。」
何が・・・単純なんだよ・・・
お前が1番上手くいってなんかないじゃんか・・・
俺の心配とかしてる場合かよ・・・
こんな手紙なんか残して・・・
「もうちょっと前向いて生きてみるか・・・」
そうして俺は手紙を握りしめて歩く。
まだやりたいことは見つかってない。それでも、やりたい事を見つけたいとは思えるようになった。
もう大丈夫、理不尽に思えるような事があったって前を向いて生きていこう。
なんたって・・・
「この世界は単純に出来てるんだからな!」
そうだろ?瑠璃・・・
俺にはまだまだ時間があるんだから。
世界は**に出来ている @smallwolf
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