小話5 コビトと〇〇鑑賞
先日、とあるバンドのニューイヤーライブに参戦した。会場は品川のホール。パイプ椅子が並んだ先に一段高いステージがある。会場はアットホームな雰囲気で、ライブはスタートから絶好調。中盤にはMCでもらい泣きしそうになり、ダブルアンコールまで拍手が鳴り止まない盛況ぶりだった。ライブ、映画、ミュージカル鑑賞。会場が一体となる空間が私は好きだ。
しかしながら、同じ場所に居ても小柄な人を取り巻く景色は、他の人たちとはかなり違う。
例えば写真を撮る場合、高層の建造物を小さい人が写真に収めれば殊更壮大に見える。写真を撮られる場合、友人の赤ちゃんを抱いてツーショットを撮れば赤ちゃんがにわかに成長したかのように見える。集合写真を撮る際は、後列では埋もれるので否応なく最前列に追いやられ、親しくない人の隣に並んで気まずい思いをする。
そして会場では最前列席でない限り、私は観客の頭越しの隙間から鑑賞することになる。座席に段差があればいいが、エスカレーターの段差でさえ身長差が埋まらないくらいなので、座席の段差さえ意味を為さないこともままある。致し方ないこととは言え、後頭部で視界を遮る前の人と同じチケット代を払っている手前、損した気分になることは確かだ。
スポーツ選手の凱旋パレードや遊園地のパレードも然り。人間の目線より遥か下に広がる夜景や、遥か頭上に上がる花火は身長と関係ない規模の見晴らしなので問題ない。雑踏の中では地に足を着けていようが腰掛けていようが、私はなんとも無力だ。
見晴らしが悪くても、コールに応えて私は大きく腕を振る。生々しい空気を感じながら得るこの興奮は、画面越しでは味わえないからだ。
コビトの小話 雪似子 @yukimodoki
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